MAYA SYSTEM運営の元、新しく生まれ変わる「FREETEL」。
2017年12月に民事再生を公表した仮想移動体通信事業者(MVNO)のプラスワン・マーケティング(POM)社の経営破綻は、通信業界に波紋を広げた。月額299円の格安SIMプラン、タレントの佐々木希を起用したCM放映、急拡大するショップ網など、派手な宣伝活動で知られる「FREETEL」の運営元だったからだ。
経営破綻に前後して、MVNO事業は楽天に(2017年11月)、端末事業はMAYA SYSTEMという通信系企業に譲渡(2018年1月)された。
そして2月9日、運営元がMAYA SYSTEMとなった新生「FREETEL」が新製品のスマートフォン「REI2」と「Priori5」を発表した。
ここで、気になるのが、MAYA SYSTEMの素性だ。MAYA SYSTEMはもともと海外Wi-Fiルーターの「jetfi」を手がけており、自社での個人や法人向けレンタル事業を行っている。
FREETEL買収は「突然の出来事」ではなかった
MAYA SYSTEM 代表取締役の吉田利一氏。
なぜ、海外Wi-Fiルーターの会社が、ブランド価値が落ちた「FREETEL」の端末事業を手に入れたのか。MAYA SYSTEMの吉田利一代表は、その背景をこう語る。
「2017年の7月ごろ、POM社が2018年春に向けて*eSIMを搭載した端末を海外で展開するという報道がありました。ちょうど同じ頃、MAYA SYSTEMでも独自にeSIM端末を準備しており、『一緒に何かできないか』と、POM社と話を始めました。POM社に投資をして、協業でeSIM端末をFREETELブランドで作ろうとした矢先、POM社の経営が傾いてしまった」
eSIM:契約情報などを、専用機器なしに書き換え可能なSIM
12月、POMの経営陣から「民事再生を申請する」との相談を受けた吉田氏は、結果としてFREETELの端末事業を譲り受けることを決める。
「SIMフリースマホ市場において、ASUSやファーウェイが本格参入するまでは、FREETELは高いシェアを誇っていました。その頃の製品は尖っており、お客さんには知られたブランド。私としては、eSIM対応のスマホを出すことで、再び尖ったFREETELにしていく。その路線で戦っていきたい」(吉田氏)
世間的には「いきなり、MAYA SYSTEMという会社が支援に名乗りを上げた」という唐突感があったが、実は半年以上前からPOMとMAYA SYSTEMとは関係があったのだ。
1月9日に事業譲渡となり、2月にはPOMがあった西新橋のオフィスの看板が正式に「MAYA SYSTEM」に書き換えられた。FREETELのブランドやロゴマークは今後も使い続けるという。
かつてPOM社が入居していた日比谷のビルのオフィスは、すでにMAYA SYSTEMの拠点となっている。
今後「eSIM対応」のFREETELスマホが登場する?
今回、発表されたスマホは、POM時代に開発されたもので、本来なら2017年中に発売される計画だった。しかし、経営が傾いたことで、発売にこぎ着けることができずに年を越してしまった。
「REI2」の実物を触ってみると、質感が高くデュアルレンズカメラ搭載などトレンドも押さえている。吉田氏も「こんなに良い製品を出せるのに、なぜつぶれたのか」と不思議がるほどだ。
今回発表になった「REI2」。SoCはクアルコム製で、動作はスムーズ。ガラスで覆われた筐体の肌触りもいい。
手前が「Priori5」で、奥が「REI2」。Priori5の方はバッテリーの取り外しが可能。
吉田氏は、今後はREIシリーズを新生FREETELの戦略的な商品にしていくという。「今回の春モデルは間に合わないが、REIをeSIM対応にしていきます。日本独自仕様のおもしろい、楽しんでもらえる製品を出していくつもりです」。
既存格安SIM業者の弱み「海外ローミング」に重きを置く
では、新生FREETELはどのようなユーザーをターゲットにしていくのか。
吉田氏は「我々としてはグローバルに展開する企業、人材を狙っています。特に最近の若者世代は留学したり、グローバルを意識している人が多い。そういう人向けの製品をつくっていきます」と話す。
もうひとつのターゲットが海外市場だ。「MAYA SYSTEMは台湾、ベトナムに拠点を持ち、POMからドバイの拠点も譲渡されている。FREETELブランドで海外展開を図りたい」(吉田氏)
MAYA SYSTEMがすでに展開していたグローバルWi-Fiルーター「jetfi」。
今後、海外で販売されるFREETELブランドの端末は、MAYA SYSTEMが手がけることになる。主力商品となるのが、eSIM対応のスマホであるため、海外を頻繁に渡り歩く人向けに、どこでも安価に使える環境を提供できるという。
一般論だが、eSIMの技術がスマホに適用できれば、海外でも日本からの電話を受けられ、現地の安価なモバイル通信サービスも利用できる未来が実現するかもしれない。なぜならば、eSIMに加えて、従来のnanoSIMカードスロットも備われば、国内MVNOのSIMカードを挿しつつ、海外ではeSIMを使ってモバイル通信を行えるからだ。
POMは、端末事業とMVNO事業の二本柱という経営スタイルだった。MAYA SYSTEMも海外向けにeSIMによるサービスを提供すると言うことは、MVNO事業にも興味があるのだろうか。
吉田氏は言う。「MVNOは儲からない。POM社もそれで苦しみました。お客さんに品質の悪いMVNOが増えるようではよろしくない。むしろ、我々は海外ローミングが苦手な国内MVNOのお手伝いをしたい」。
きっぱりと「MVNOは儲からない」と話すのは、実は、吉田氏はもともとNTTコミュニケーションズ出身で、MVNO事業に精通しているからだ。
「NTTコミュニケーションズに在籍していた当時、FREETELが提供していた299円のプランを計算したが、どうやって黒字にするか不思議だった。我々MAYA SYSTEMは無理な経営はしない。CMもやらないし、自社でショップを作ったり、儲からないMVNOをやり続けることはしない」(吉田氏)。
MAYA SYSTEMは、プロバイダーや通信会社のコールセンター事業も手がけており、「サポート能力には自信がある。今後、FREETELのサポート体制は強化されていく。満足度を高めていきたい」と言う。
新生FREETELは市場でどう評価されるのか?
最後に、FREETELの端末事業譲渡は、MAYA SYSTEMにとって「お買い得」だったのだろうか。
吉田氏は「得も損もない。端末事業の譲渡によって、ブランドと販売網で拡大できるチャンスがあった。しかし、実際は、POMの経営が立ち行かなくなったことで、端末を扱ってくれない、ネガティブな反応のチャネルもある。得か損か、疑問は残る。しかし、端末事業には優秀なスタッフがたくさん残っていた。そこは私にとって大きなプラスだといえるのは間違いない」と率直なコメントも語る。
新生FREETELは、市場からどのように評価されていくのか。まずはこの第1号端末、そして本格的な評価は次のeSIM対応の新製品のデキ次第ということになりそうだ。
「これからのFREETELに楽しみにしてほしい」と語る吉田氏。
(文・石川温、撮影・小林優多郎)