60年にわたり、人と街と働き方を見つめてきた。
創業から60年にわたり、東京をはじめアジアの都市開発に携わってきた森ビルは2018年、ニューヨーク発のコワーキングスペースWeWorkをアークヒルズサウスタワーとギンザシックスに迎えた。
六本木ヒルズという職住近接の都市モデルを築き、アジアの金融センターの一つである上海環球金融中心を手がけるなど、都市づくりを通じて街や人を見つめてきた森ビル。働き方をめぐる価値観が大きく変わろうとする現代をどう見るのか。WeWorkを招いた狙いとは。副社長の森浩生氏に聞いた。
タレントを確保する役割
「人材不足の時代、タレント(いい人材)を確保することが何よりも大切。そこが鍵です。タレントを集められる環境をどうつくるか。オフィスや空間が大きな役割を果たすことは間違いない」
東京都港区にそびえ立つ六本木ヒルズ森タワーの高層階フロア。窓の向こうには、夕暮れ時の薄紅色に染まる東京タワーと六本木の街が広がる広大なオフィスフロアで、森氏は、これからの「働く空間」について、そう語った。
海外事業のトップを長年務める森氏は、インタビューの2日前にインドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロールから帰国した直後だった。グローバルIT企業が拠点を置く、現地のWeWorkも視察したという。
そこでも痛感したのが、オフィス事業者もテナント企業も「人材をいかに確保するか」に心を砕いたオフィスづくりだった。
東京港区を中心に都市開発を進めてきた森ビル。働き方もオフィスの変遷を見てきた。
遊びの中から仕事が生まれる
働き手と企業を内包する働く空間は、時代とともに移り変わる。
高度経済成長期を迎えた1959年創業の森ビルは、バブル崩壊、長引くデフレ経済にITバブル、リーマン・ショックと日本経済の変遷をディベロッパーの立場で体感してきた。
「私が就職した頃は高度成長期の後半。当時はみんなで一つのことを積み重ねれば、日本経済は成長を続けました。その後、外資系企業が来て日本の働き方も変わっていった。とくに外資金融は朝早くから遅くまでものすごく働くが、オンとオフの切り替えをする。そういうあり方を森ビルも意識していました」
1990年代半ばから2000年代にかけて米ゴールドマン・サックスや米リーマン・ブラザーズなど名だたる投資銀行が来ると、スターバックスが入り、果物や軽食のカフェテリアがあるようなオフィスがブームになった。トレーディング(株や証券の取引)や為替の部署がワンフロアに集まるような、広大なオフィスの登場もその頃だ。2003年に竣工した六本木ヒルズの大空間オフィスは象徴的だ。
上海、ジャカルタと海外事業を担ってきた森副社長。この日もインドのバンガロールから帰国したばかりだった。
その後、2008年9月のリーマン・ショックで、一部の外資金融は退出。グーグル、アップルなどテック系企業が台頭すると、オフィスはポップになった。卓球台やエアーホッケー台があって、カフェも充実している。
「むしろオンとオフの境目をなくすというか、遊びの中から仕事が生まれている。機械化も進み、ものを作るのではなく、頭を使う、新しい製造業の形が生まれて来ました。そこで必要となったのが、働き方のイノベーションです」
「少子高齢化で人は増えない、残業規制で時間も増やせない。となると、効率を良くするしかない。仕事の仕方を変えるしかない」と、森氏は指摘する。
そこで求められるオフィスは、どんな空間になるのか、
1. ニューコンビネーション
「イノベーションとはニューコンビネーション(新結合)です。同じような島で、同じような仕事の仕方を繰り返していては、イノベーションは起きない。そこで注目されるのがコワーキングスペース。新しい考え方を入れて、かき混ぜていくことで、新たなものが生まれる」
森ビルが、WeWorkに注目したのもそこにある。
「WeWorkには人々をコンバインさせる(結びつける)システムがある。共用システムで、自分はこういう仕事をやっていると示せば、誰かがそこにアクセスして新たな仕事が生まれる。これは、会社のあり方をも変えていくのではないでしょうか」
2. ウェルビーイング
出張から帰ったばかりのバンガロールにもヒントがあった。
「ウェルビーイング認証(※編集部注:人を中心に心身ともに健康で快適な建築空間を認証する制度)が取り入れられ、人に優しいオフィスをどう提供するか真剣に考えられているというのが、1番の印象でした」
オフィス事業者による照明や空調、湿度の最適化はもちろん、テナント企業も社員に託児所や分煙環境を提供し、常に救急車が待機していた。
「人に優しく、快適に働ける環境を提供する会社に人が集まります。ソフト・ハード共にビルの果たす役割は重要になる」
3. 多様性あるネットワーク
仕事だけではない、オフィスの外やオフタイムのネットワークも、働き方には大きな要素となる。
森ビルはこれまでもヒルズブレックファースト(※編集部注:六本木ヒルズの朝活)やオフィスワーカーを対象としたゴルフ、フットサル大会など、テナント同士のネットワーキングに力を入れてきた。2017年12月には、六本木ヒルズ森タワー6階に、PARK6という、人が集えるワーキングスペースをオープン。
「オフタイムにおける良さも感じてもらいたい。地下鉄からオフィスに向かって歩きながら、互いにあいさつするような、ヘルシーな世の中にしたい。そうした延長にオフィスがあるかもしれない」
森ビル43階のフロアには、東京の街のジオラマが広がる。全て社員による、手作りだ。
東京の価値
インタビューをした高層階のオフィスフロアには、東京の街を1000分の1に縮小したジオラマ(模型)が、床いっぱいに広がっている。
発泡スチロールの模型に写真を貼って再現された建物や緑の全てが、社員による手作りだ。この制作だけでも15年以上をかけ、今なお続いているという。都市開発にかける、森ビルの熱量を象徴する光景となっている。
世界一のスピードで少子高齢化が進む日本の首都・東京は、どこへ向かうのか。上海、ジャカルタと森ビルの海外事業を担ってきた森氏はこういう。
「東京は居心地がいい。清潔で食べ物は美味しく、人のレベルが高い。これは東京の大きな魅力です。そして実際に訪れた人の印象が非常にいい」
スターバックスに通えて大空間のワークスペースのあるオフィスをいち早く取り入れた、六本木ヒルズ。
だからこそ、インバウンドの観光事業は「まだまだ伸びる」と見ている。
「東京をブランディングするのに1番いいことは実際に来てもらうこと。ホテルの数をどう増やすなど、ポテンシャルは大きい。海外から人が来れば、自ずとビジネスが生まれる。ビジネスが生まれればオフィスも増える。東京はまだまだ大きな可能性を秘めている」
そのとき、働き手には高齢者も増え、多様な人材が働きやすいオフィス環境づくりが、さらに求められることは間違いない。
(文・滝川麻衣子、分部麻里、写真・今村拓馬)
森浩生:森ビル副社長。1986年東京大学経済学部卒。日本興業銀行を経て、1995年森ビル入社。営業部長、常務取締役、専務取締役を経て2005年上海環球金融中心投資代表取締役(現職)、2013年より現職。海外事業に長く携わると共に、イーヒルズ社長、森ビルホスタピタリティコーポレーション社長も務める。
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森ビル副社長、森浩生氏も登壇する、一般社団法人at Will Work主催の働き方を考えるカンファレンス2018「働くを定義∞する」が、開催されます。森氏は、髙橋 正巳氏(WeWork Japan 合同会社 日本ゼネラルマネージャー)と「働き方にイノベーションは必要か 」をテーマに対談します。
▼日時:2018年2月15日(木)10:00-20:00(※途中入場途中退室可)
▼場所:東京都 港区虎ノ門 1丁目23番3号 虎ノ門ヒルズフォーラム(虎ノ門ヒルズ森タワー 5F)
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