ソフトバンクの群戦略は投資会社への転身宣言——孫氏肝いりの親子上場に浮かぶ3つの疑問

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孫正義社長の頭の中にはどんなグループ像が描かれているのか。

撮影:小島寛明

ソフトバンクは*社債投資家にとって、それなりのスプレッドを常に提供してくれる発行体であり、発行総額も大きい。

だからこそ*社債投資家にとってソフトバンクは、どれだけ債務を増やそうが、どれだけ投資を続けようが、無視できない。無視をすれば、それだけ自らの投資の幅やリターンの機会を狭めることが明らかで、社債投資家に合わない経営方針を掲げるソフトバンクでも、何とか投資できる対象として調整するのが普通だ。

社債投資家:企業が発行する債権(社債)に投資する者。社債を購入した投資家は、その金利による収入が収益源となる。

社債投資家を遠ざけるビジネスモデル選択

1月15日、ソフトバンクグループ(以下SBG)が子会社のソフトバンクモバイルの親子上場を検討していることが、新聞紙上を賑わした。2月7日の決算発表当日には、孫正義社長はトップ企業だけを集めた「群戦略」というものを掲げ、300年間成長を続ける組織体になる野望を語ると同時に、ソフトバンクモバイル上場の本格的検討を発表した。

孫社長の発したメッセージはクリアだ。

トップ企業だけの集合体である場合、ソフトバンクという名前が付いているかどうかは関係がないと言う。収益力のある企業とない企業が渾然(こんぜん)一体となって、相互扶助の精神を働かせるという財閥的結びつきではだめだとも言う。“実を採る”戦略で、SBGは通信事業を中心とする安定的にキャッシュフローを得る方法から、グループ内に集めたトップ企業から配当を蓄える方法に変えるというものだ。

この群戦略の発表は、言うなれば、従前の「情報通信事業者」から「投資会社」への転身発表ととらえることもできよう。

情報通信事業者は収益性を安定させることによって社債投資家フレンドリーな経営が可能だが、投資会社となるとその逆で、ボラティリティ(変動率)が高いのが普通で、株式投資家フレンドリーな経営体制であるといえる。巨額な社債発行体である割に、社債投資家からますます離れゆくビジネスモデルをソフトバンクは選好しているようにさえ見える。

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ソフトバンクモバイルの上場でグループのあり方が変わる?

2018年3月期 第3四半期 ソフトバンクグループ投資家向け説明会資料

その流れでいえば、子会社上場も群戦略の一つだ。

しかし、子会社上場についてはいくつか疑問もある。第一に、そもそも子会社上場は可能なのか。第二に、子会社上場の狙いは何か。第三に、子会社上場が可能になった場合に、資金調達はどういう構造になりうるか。

以下では、こうした疑問を整理しながら見ていくことにする。

東証の上場審査パスへのハードル

第一の子会社上場の実現可能性については、悩ましい問題がある。

上場のためには、東京証券取引所の独立性審査をパスする必要があるが、その際、ソフトバンクモバイル(子)がSBG(親)の社債等の利払いの連帯保証を付与していることを整理しなければならない。東証の新規上場ガイドブック「Ⅲ上場審査の内容(有価証券上場規程207条関係)」の記載によれば、事実上親会社等の一事業部門と認められる状況にないことや、親会社等への依存度を慎重に測ることが必要との規程がある。

すなわち、ソフトバンクモバイルの上場審査には親会社からの独立性が一般的に問題になる。

ただし、新たに上場するソフトバンクモバイルの資金調達能力は携帯事業を中心としたキャッシュフローに支えられている、と考えられることから、必ずしも子から親への保証が絶対にあってはならないというわけではないかもしれない。

とはいえ、通常そうした保証はないほうが審査はスムーズなはずであることは容易に想像がつく。

では、保証を切るために対象社債を全て繰り上げ償還すればいいというかもしれないが、事はそう簡単ではない。

2017年3月期の有価証券報告書を見ると、対象保証債券は円債2.24兆円、外貨建社債44.85億ドル及び28.75億ユーロである。ざっくり言えば、総計3.12兆円(ドル円109円、ユーロ円137円で概算)分も保証債務があることになるためだ。

もっとも、社債の繰り上げ償還だけで言えば、一時的に3兆円かかることを覚悟し、その後、再び保証なしの社債を発行することもできなくはない。さらに社債の保証分を減らしても、これとは別に借り入れに対する保証は2017年3月時点で5.69兆円あることも考えておく必要がある。

連帯保証の解除についてはソフトバンク社債の*目論見書の中の「担保の保証」の部に記載があり、金銭消費貸借契約書上で借入人による全額の期限前返済が可能な規程となっている。

目論見書:投資家に対して発行者や発行する有価証券などの内容を説明したもの

つまり、契約上は繰り上げ返済することも可能なのだ。

とはいえ、SBGが総計9兆円弱の資金を用意することは現実的ではない。

社債だけ償還し、借入金は銀行との再契約という方法などがあり得るのか。あるいはSBGが独自の資金調達能力を有していなくても、子であるソフトバンクモバイルが一事業部門であると認識すれば、ソフトバンクモバイルには十分すぎる資金調達能力があると想定されるため、保証付きのままで上場が可能だと東証が判断するのだろうか。どんなウルトラCが繰り広げられるか見ものだが、親子間の保証問題をクリアするのは一筋縄ではいかないだろう。

気になる調達資金の使い道

第二の子会社上場の狙いも釈然としないところがある。

1月15日付の日経新聞によると、子会社上場により2兆円を調達し、事業の独立性や成長分野への投資を担保する狙いがあるとしている。しかし、2兆円規模の巨額投資、しかも成長分野への投資ならば、先に設立したビジョンファンドビークルを使うのがむしろ自然であろう。当該投資について、ビジョンファンドビークルとソフトバンク本体のどちらから資金を出すべきなのかを決めるのは外からは区別できない。

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親子上場を成功させるためには解決しなければならない課題が多い。

撮影:小島寛明

ソフトバンクモバイルを上場させて資金を捻出するというのだから、狙いが気になるところだ。

親子上場が認可されるためには、時価総額や事業継続年数、利益の額などのほか、流動性要件を満たさなければならない。東証第一部に上場することを前提にすれば*流動株式比率として最低35%は必要である。

流動株式比率:発行済み株式に対する流通可能な株式の比率

逆に言えば、SBGとして、35%分の*キャッシュフローを放棄することになる。

キャッシュフロー:会社のキャッシュの増減の純額

モバイルが2017年3月期の1年間に叩き出した*フリーキャッシュフローは5618億円であるため、35%分は2000億円弱に相当する。新たに投資して得られる含み益がそれ相応にならなければ、虎の子を上場させる意味を見出すのが難しいということになる。

フリーキャッシュフロー:本業で得たキャッシュから事業で投資に回したキャッシュを引いた純額

とはいえ、だ。ソフトバンクは、調達した資金を投資するとは言及していない。2兆円を現金として保有したり、負債の整理・再編に使うなど、財務改善に使われる可能性もゼロではない。

第三に、仮に子会社上場を果たした場合に、新たなグループのあり方やそうした状況での債券での資金調達はどうなるのかも整理しておくべきであろう。

SBGの中に、ヤフーやアリババ、スプリントと同様にソフトバンクモバイルも上場会社として存在する形になる。ソフトバンクモバイルには、安定的なキャッシュフローを創出する携帯電話事業があるため、高い格付けを維持できる。

ただし、SBG傘下にある以上、もっとも高い格付けが付与されたとしてもSBGの格付け(ムーディーズ/S&P/JCRでそれぞれBa1/BB+/A-)に影響されるため、*1ノッチ上の格付け(同じくBaa3/BBB-/A)程度となろう。資金調達はSBGでもソフトバンクモバイルでも実施することになる可能性はあるが、1ノッチでも格付けの高いモバイル債は主に個人投資家向け、SBG債は機関投資家向けといった区別になることも考えられるのではないか。

ノッチ:格付けのランク

親子上場は、独立が必ずしも証明されないなどガバナンスの問題が想起されやすいことから、時代には逆行している。

しかし、SBGの群戦略の展開はすでに始まっている。取り沙汰されるスイス再保険への投資もAI関連先への投資を広げているだけなのだろう。だとしたら時代の流れに反しながらも、300年間成長を続ける組織体として、携帯電話事業会社からの転身を図るSBGの野望が成就するかどうか、ますます目が離せない。

(文・中空麻奈)


中空麻奈(なかぞら・まな):BNPパリバ証券投資調査本部長、チーフクレジットアナリスト。1991年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村総合研究所入社。野村アセットマネジメントに転籍後、クレジットアナリストとして金融セクター、ソブリンを担当。モルガン・スタンレー、JPモルガンを経て、2008年BNPパリバ証券、2010年より現職。著書に『早わかりサブプライム不況』など。

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