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習近平の盟友・王岐山の処遇、中国国家副主席就任をめぐる共産党の暗闘

中国の旧正月を約1週間後に控えた2月8日午後7時ごろ、広東省広州市に本社がある有力紙「南方週末」の編集部に1本の電話が入った。

「明日の朝刊に掲載する予定の海南航空の2ページ特集を外せ!」

相手は、北京の共産党中央宣伝部の幹部。中国のメディア審査は原則的に所在する省の宣伝部が担当することになっており、中央宣伝部から命令されることは極めて珍しいという。その翌日、同紙の段功偉(ドゥアン・ゴンウェイ)編集長が更迭されたことが中国のメディア関係者に大きな衝撃を与えた。

海南航空

王岐山氏の親族が経営に深く関わっているとされる海南航空。

Shutterstock.com

王岐山のスキャンダル掲載を阻止

同紙関係者によれば、2月9日付の新聞に掲載しようとしたのは、海南省にある航空会社の財務危機と乱脈投資の実態を詳しく紹介する記事だった。

習近平(シー・ジンピン)国家主席の盟友で、前中央規律検査委員会書記、王岐山(ワン・チーシャン)氏の複数の親族が海南航空の経営に深く関わっていることは関係者の間ですでに公然の秘密になっている。この記事には王氏の親族の名前こそ出てこないが、「海南航空から巨額の資金を借りて、海外で不動産と証券を買いあさっている」といった内容は、王氏の親族の行為を指していることは一目瞭然だった。

王氏一族と海南航空の関係は、2017年春にアメリカに亡命中の実業家、郭文貴(クオ・ウエンコイ)氏によって暴露され、欧米や香港メディアなどに大きく報じられたが、中国メディアはこのニュースを完全に黙殺した。1年近く経ってから、南方週末がこれを報じようとしたのは、「3月5日から開幕する予定の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、王氏の国家副主席就任を阻止することが目的だ」と指摘する共産党関係者もいる。南方週末は改革派の新聞として知られ、最高指導部メンバーの李克強(リー・クーチャン)首相、汪洋(ワン・ヤン)副首相らに近いとされる。

3月の全人代は、2017年10月に習政権の2期目が発足して以降、初めて開催される。新たな政府・議会人事が選出される予定で、李首相の続投や、栗戦書(リー・チャンシュー)氏の全人代常務委員長、韓正(ハン・チョウ)氏の筆頭副首相などの選出がすでに折り込み済みだが、唯一の懸念は、国家副主席のポストに誰かつくのか。国内外から高い関心が持たれている。

共産党筋によると、今のところ、国家副主席候補として名前が上がっているのは3人。2017年秋の党大会で、69歳という年齢のため党の役職を引退した先述の王岐山氏。最高指導部で序列5位、宣伝などを担当する王滬寧(ワン・フーニン)氏。習主席の側近である重慶市党委書記の陳敏爾(チェン・ミンアル)氏である。

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盟友・王岐山(左)起用には習近平の意向が強く働いている。

REUTERS/China Daily/File Photo

その中で最も有力なのが、習主席が全力で押している王岐山氏だ。

習政権の1期目で反腐敗を担当し、大きな実績を残し、経験も豊富な王氏の能力を高く買っている。習氏には、引き続き自分を支えてほしいという思いがあるほか、王氏を抜擢することで、将来、自らが党の役職を退いた後、政府の重要ポストを続投できる前例を作りたいという思惑もあるといわれる。

党関係者によれば、習氏は金融、財政などを担当する副首相を務めたことがある王氏に、国家副主席として対米交渉や金融改革などを主導してもらいたいと考えているという。

副主席就任に立ちはだかる二つのハードル

これに対し、党内で習氏と距離を置く勢力は、習派の力をこれ以上拡大させないため、王氏の国家副主席就任阻止に躍起になっている。

党内には68歳定年制という江沢民(チアン・ツォーミン)時代に定着した制度があるが、国家副主席の年齢規制はない。現在69歳の王氏が就任しても、制度上全く問題がない。

しかし、王氏の就任には二つの高いハードルがある。一つは前出した海南航空の不祥事だ。汚職撲滅を主導し、多くの重要幹部を粛清してきた王氏自身に汚職スキャンダルが浮上したことは大きなダメージとなった。王氏一族の経済問題を調べるべきだという声も党内で浮上している。

もう一つは、政治局員でもなければ、中央委員でもない王氏には、党内の重要会議に参加する資格がない。中国では、重要な方針や政策はすべて党の会議で決めることになっているため、会議への参加資格すらない王氏に大きな権限を与えれば、共産党一党独裁体制そのものの否定につながりかねない。

1980年代末から1990年代にかけて、当時の最高実力者・鄧小平(デン・シャオピン)氏が、引退後も特別ゲストとして政治局会議に出席した前例がある(その場合は会議の名称が「政治局拡大会議」となる)。王氏も鄧氏の前例にならい、特別ゲストという形での会議参加も不可能ではない。

しかし、中国を改革開放に導いたカリスマ指導者・鄧氏との格の違いがありすぎる王氏の特別ゲストとしての出席は、党内で理解を得られるかどうかは不透明だ。

今回、南方週末の記事は発売する直前に阻止されたことで、今のところ、王氏を国家副主席に就任させようとする勢力が党内で主導権を握っているように見える。全人代代表による国家副主席の投票まであと1カ月、この間に新たな問題が発生しなければ、王氏選出の可能性は高いとみられる。

ある党関係者は「王氏が無事選出されたとしても、終わりではない。力のある国家副主席になる可能性もあれば、ただのお飾りに終わってしまう可能性もある。王氏にどんな権限を与えるのか、党内の攻防はこれからも続く」と話している。

(文・矢板明夫)


矢板明夫(やいた・あきお):産経新聞外信部次長。1972年中国・天津市生まれ。15歳のときに残留孤児2世として引き揚げ、1997年慶應大学文学部卒業。松下政経塾、中国社会科学院日本研究所特別研究員などを経て、2002年産経新聞入社、2007年中国総局(北京)特派員、2017年から現職。著書に『習近平 なぜ暴走するか』『習近平の悲劇』など。

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