原点は残高2万円台の預金通帳。10年10個のビジネス生むCASH光本氏のアイデア源

たった2カ月で社員の数は6人から30人。ノールック買取サービス「CASH」を運営する「BANK」は、2017年2月20日の創業から1年で急成長している。代表の光本勇介(37)は、前代未聞のCASHの失敗と成功を少年のように語る。この無邪気さは何なのか。

光本の人生を紐解けば、すでに高校時代に商売をはじめ、自身が開発したサービスはCASHで10個目を迎える。アイデアが湯水のように湧き出る光本の目指す先とは。

CASH光本氏 

引越し前のオフィスでインタビューに応じた光本。このオフィスとも2月中旬でお別れし、4倍の広さのオフィスに引っ越した。

渋谷区内にあるBANKのオフィス、机の島に収まりきらない机と椅子が壁際まで並んでいる。取材をした2018年2月上旬は、オフィスが引越しをする前の最終週だった。光本はオフィスの一番奥の机から、顔を出した。

取材に同席した社員(光本の高校の同級生)は、光本を「平和な人」と例える。顔をくしゃっとして笑いながら聞く光本は、その印象にぴったりだ。

一方、起業家たちから見ると、光本は「天才肌」。1981年前後に生まれた起業家たちが集まる「81会」を通じ、光本やDMMの片桐孝憲社長らと親交がある起業家は、光本をそう表現した。「(2017年10月にDMMが70億円でBANKを買収し、)DMMは70億で光本さんを買ったようなもの」というベンチャー企業の幹部もいる。

高校生の夏休みに月300万円の売り上げ

「天才肌」と言われる所以は、高校時代に遡る。

一番最初の事業は、ネットの掲示板を通じたTシャツの販売。父親の仕事の関係で、10歳〜18歳までデンマークとイギリスに8年間住み、高校生の夏休みに帰国した時、「僕も掲示板に書き込んでみたら、売れるのかな」とTシャツを販売してみると、「瞬間的に売れちゃったんですね」。

神奈川県二宮町から東京まで1時間半かけ、売る目的で洋服を買いに出かけるようになり、帰宅してはすぐに掲示板に書き込む。ネット回線が重たくて画像は載せられないため、服の柄は文字で説明する。

5000円で買ったものを2万5000円で売ってましたね。1日10万円くらいの(販売)を毎月やってました

テレビでキムタクが来たTシャツを売ったり、フリマの雑誌にも料金を払って広告を出したり、購入者にDMを売ったり。工夫次第で売り上げが変動した。

「会ったこともない人が買ってくれる。今は普通ですけど、すごく新鮮すぎて。物を売る経験が面白くて、インターネットってすごいなって」

大学生時代は翻訳サービスと留学斡旋

CASHレコード

光本の高校時代から現在に至るまでのサービス・商売の一覧。

翻訳サービス

光本が大学生のころに制作した、翻訳のクラウドソーシングのHP。

提供:光本勇介

留学支援サービス

大学生のころ開発した、留学斡旋サービスのHP。

提供:光本勇介

これまで手がけたサービスの年表は?と光本に聞くと、スマホを見ながら教えてくれた。

メモをしてあるとはいえ、自分でも忘れてしまうほど。

青山学院大学の学生時代は、翻訳サービスのクラウドソーシングと留学斡旋サービスをリリースした。

地方にいる翻訳者をリスト化し、業務を割り振った。

「翻訳業者でホームページを持っているところが少なくて、検索をすると、僕のホームページが初めに出てきて。結構大きい企業からそれなりに大きい案件がぼこぼこと入ってくるようになりまして。500万円の仕事を受注して、400万円で発注して利益を得てました」

留学斡旋のサービスも、当時の翻訳者とのつながりを生かして展開した。






いつも持ち歩く預金2万円の通帳写真

通帳

預金残高は2万円台まで下がった時がある。

提供:光本勇介

なぜ、こんなにサービスを思いつくのか。

光本は言う。

「今でこそベンチャーキャピタルとか、いっぱいありますけど、(初めて会社を起こした)2008年はリーマンショックのすぐ直後で、お金を調達できなかったんですよ。結局自分の金で食べてくしかなくて、稼がないといけない。違うこともしなきゃって

創業当時はエンジニア1人を新卒で採用、「新卒だからお給料が一番安いと思って。本人は内定先が倒産か何かしちゃって、どこでもよかったって言ってましたよ」と笑う。

光本はスマホをこちらにかざし、STORES.jpができるまでの苦労を物語る写真を見せてくれた。預金通帳の残高は2万2614円。次々と事業を進める中、資金がなくなっていった。

いつも写真を持ち歩いているんです、そのころを思い出すんで、気が引き締まるっていうか

危機的な状況でもサービスを思いついていくと言う光本、「ビジネスとか事業のネタにこまったことないですね」とふらっと言う。

「結構、情報はアンテナを張って取るようにはしています。いろんな会社のビジネスとか見るのが好きで、まとまってるブログとか毎日チェックしてますし、Twitter、Facebookとか詳しい人をフォローすれば情報が入ってきます」

毎朝、ジムに行っては走りながら情報を見て、「僕だったらこうするな、ああするな」と想像を巡らせる。

1日2万円でも人生をショートカットできる

2017年2月にBANKを設立し、CASHをリリースした。CASHの1人当たりの1日の買取の上限は2万円だ(2018年2月14日には、査定後に振り込む上限なしの新機能も追加)。

この「少額資金ニーズ」を感じたのは、STORES.jpのサービスだった。STORES.jpは、店舗ごとの管理画面にスピードキャッシュというボタンを作り、翌日に売り上げを送金するオプションを設けた。ただし手数料は3.5%、「結果、めちゃくちゃ(ボタンが)押されたんです。世の中の人たちって、すぐお金がほしい人がたくさんいるんだって

CASHによって少額の資金ニーズに応えられれば、「小さなキッカケや幸せ」を満たすことができるのではないかと話す。

光本勇介

大きな声で笑ったり、目をじっくり開けて語りかけたり、光本の印象は表情がとても豊か。

「このサービスをやろうか考えていた時に、自分の中で考えたのが『このサービスは世の中を豊かにするか』という軸。キッカケは、堀江さん(ホリエモン)が書いていた連載を読んだ時。その記事はいろんな人の質問にホリエモンが答える形式で、私が読んだのは、20歳の女子大生の相談。『卒業したらウェブデザイナーになりたいから、1年かけて30万円貯めて、1年後にMacBookを買う。それでデザインを勉強したい』という相談があって。『今借金して買ったほうがいい。そしたら今日からウェブの勉強ができる』。 今から勉強すれば、半年後にはウェブデザイナーになれているかもしれない』と」

大げさに言うと、人生をショートカットできる。1万円があったからこの参考書が買えて、子どもの誕生日にディズニーランドに連れて行けたとか、人生を豊かにできるかもしれない。少額でも、その人の小さい一歩や幸せを創出できるかもしれない」

マスのサービスに向け「大実験中」

よく光本はCASHを「性善説の社会実験」に例える。

あらゆるウェブサービスって、悪い人を排除する仕組みが組み込まれてるんです。これを認証、確認してくださいとか。全体的に見れば、悪い人なんてごく一部ですよね。いい人が圧倒的に多いのに、その仕組みをするなんて、すごいイケてないというか、もったいない」

ならば、全員を「全力でいい人だ」と信じ込んで、コストを吸収できるなら、その方が無駄がなくなる。

「それを成り立たせてる人はいなくて、自分たちは大実験をしているんです」

CASH

オフィスのデザイン、サービスの設計ともにシンプルかつおしゃれだ。2017年12月撮影。

撮影:伊藤有

まだCASHをリリースして8カ月、「今はまだ、大きな葉っぱの本当に端っこをむしっているような感覚」(光本)だ。

夢は「自分の手で市場をつくるとか、マスのサービスをつくること」だ。「そのあたりを歩いている人ってCASHとかSTORES.jpとか知らない人がたくさんいる。マス的な観点に立つと、ネットのリテラシーのない人が圧倒的に多い。思考停止状態で使えるぐらいのサービスの方がいい」と使いやすさにこだわる。

「例えば、クックパッドとかメルカリ、インスタグラムとか、マスのサービスにできるチャンスって、一生に一度あるかないか。CASHはありがたいことに、そのポテンシャルを持っていると思う。だから全力でフルスイングして、チャレンジしたい」

光本は、「で」と間を置いてから、(CASHが有名になった時には)「それ(CASHを作ったのは)俺!言いたいんですよね

自分を指差しながら、屈託のない笑顔で夢を語った。 (敬称略)

(文、撮影・木許はるみ、室橋祐貴)

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