驚きのコンビニ革命「Amazon Go」のすごい仕組み、魔法のようなAI技術の真実

オープンしたAmazon Goの本社の様子

米ワシントン州シアトルのAmazon.com本社横に設置されたAmazon Goが正式オープン。

「レジなし無人スーパー」として米ワシントン州シアトルで1月22日、一般公開された「Amazon Go」。アメリカ本土はもとより、世界各国のニュースメディアが取り上げる、まさに大騒ぎという事態になっている。

今回筆者は、海外取材の合間を縫って、シアトルにあるAmazon Go店舗を訪問してきた。その体験は率直に行って衝撃的だ。アマゾンが考える全く新しい小売店の姿を、現地体験レポートとしてお伝えしていこう。

シアトル1号店舗は待ち行列なし、入り口には誘導スタッフ

「多くの人が店内にいるなかで、どうやってスムーズに“レジなし”決済を実現しているのか」

誰もが感じる疑問を確かめるべく、Amazon Go初訪問では、あえて昼12時過ぎの一番混んでいそうな時間帯を狙った。

Amazon Goは、一言でいえばアメリカで最近増えてきた「軽食コーナー併設コンビニ」の、軽食コーナーのみが独立したような店舗だ。だから、弁当や各種飲料、お菓子類は充実しているが、一般的なコンビニほどそのほかのアイテムは充実していない。

オープン当初に報道された「入店待ち行列」は、訪問した2月初旬時点で既になかった。日本のコンビニ程度の広さの店舗に、多くの人が入店しては、レジ待ち滞留なく次々に店内から出てくる「回転率が異常に高い小売店舗」。それがAmazon Goを最初に見たときの印象だった。

一般オープン当初は店舗前にあった入店待ち用の行列ラインだが、筆者が訪問した2月初旬にはすでにそのような列は存在しなかった。店舗の入り口には、入店にあたってアプリをインストールするよう指示がある。

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店舗外側は軽食やディナー用の食事キットを作るシェフらが作業するスペースになっている。利用客はその調理の様子を外から眺めることもできる。

店舗に近づくと、玄関口外側には数人のスタッフが立っている。彼らは、来店者に買い物バッグを配布したり、入り口で少しでも戸惑っている客がいれば、すかさず声をかけて利用方法を説明したりしている。

入店にあたってはスマートフォンに3つの設定が必要だった。

  1. 「AndroidまたはiOS端末(スマートフォン)」
  2. 「Amazon Goアプリ」
  3. 「Amazon.comのアカウント」

入店のための事前準備周知がまだ十分でないのか、店頭前で説明を受けつつ端末を操作する客は、滞在中の3時間ほどの間に何組もみかけた。

オープン初日に報道された大行列が消えたのは、当初は物珍しさで集まった人々が減って、おそらく2回目以降の来店客が中心となったからかもしれない。

店舗前のスタッフは買い物バッグの配布のほか、入店に際してアプリ登録が必要なことの説明と、そのサポート的な役割を果たしている。

店舗内部の様子。店舗面積は1800平方フィート(約167平方メートル、約50.6坪)で、日本の標準的な施設内コンビニと同程度の広さ。入り口にはゲートを管理する専任スタッフのほか、商品搬入等で3〜4名程度の人員がひっきりなしに動いている。

Amazon Goアプリを導入していざ店内へ

App StoreでiOSデバイス向けAmazon Goアプリをダウンロードする。このほか、Android向けにGoogle Play、Fireデバイス向けにAmazon Storeからアプリを導入できる。

初期設定時に表示されるAmazon Goの利用ガイドは、利用にあたって必要なルールがすべて書かれている。特徴があるのでここで紹介してみる。

  • ゲート通過前には、アプリに表示されるQRコードをスキャンすること
  • 1つのQRコードで何人ゲートを通過させても良い(ただし1人が通過するごとにスキャン)
  • 棚の商品を手に取るとバーチャルカートに追加され、戻すとカートから削除される
  • バーチャルカートは入店時にスキャンしたQRコード情報に紐付いており、同じQRコードでゲートを通過した客全員で1つのバーチャルカートを共有する
  • 店内での客同士の荷物の受け渡しは厳禁
  • チェックアウトはゲートから出るだけ。後でバーチャルカートの内容がまとめて決済される

店内での人同士の商品の受け渡しは厳禁。これは棚からの取得行動がそのままバーチャルカートへの追加と認識されているため、正しい精算が行えなくなるから。

いよいよ入店。ゲートに読み取り機があるので、アプリに表示されているQRコードをかざすと、すぐに「go」の表示が出て中に入れる。

スマホが必要なのは、この入店の瞬間だけだ。いったん店に入ってしまえば、あなたの行動は店内に設置された各種センサーで常に追跡され、自身に紐付けられたAmazon.comアカウントに対して会計処理が進むからだ(この処理メカニズムを観察すると非常に面白い。詳細は後半で紹介する)。


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アプリの準備をしてQRコードをゲートにスキャンさせる

読み取りに成功すると「go」の表示が出る。時間的にはほぼ一瞬だ。

日本でも受けそう? 充実した軽食を取揃える店内

入店すると、目の前には流行のオーガニックブームを反映した品揃えと、お洒落な内装。アマゾンが買収した高級スーパー・ホールフーズのオリジナル商品のほか、現地シアトル発祥のスターバックスコーヒーの商品、さらには同店のみで購入可能な「Amazon Goグッズ」の販売もあった。

一方で、肉系の食品やハーフガロン(約1.9L)サイズの牛乳、今晩のおかずを作るミールキットも販売。家庭の食料買い足しにも利用できるスーパーマーケット的な側面もある。

奥には酒販コーナーもあり、このエリアのみ唯一人手を借りて専任スタッフがIDチェックをしていた。

ゲートくぐってすぐの場所にあるサンドイッチの販売コーナー。オフィス街の真ん中にあり、軽食を求める利用者のニーズを反映したもの。

食品の棚にはアレルギー成分表示などがあり、これだけを見ると普通のオーガニックスーパーの食品コーナーに見える。

既製品ではない、Amazon Go店内のみで扱われる加工食品には丸と四角が並んだコード表示のようなものが見受けられる。これは商品の画像認識に使うための補助マークか。

すぐに食べられる軽食のほか、今晩のおかずに使えるような肉・乳製品、パスタなどの販売コーナーもある。

今晩のおかずメニューを作成するためのAmazon Goオリジナルの“ミールキット”も販売されている。

本日販売されているミールキットの紹介ウォール。全体にこうしたちょっとしたお洒落な装飾があり、買い物を楽しませてくれる。

アルコール類販売コーナーもある。ただし21歳以上への販売が義務付けられているため、常駐する1名のスタッフによるIDチェックが行われている。

アマゾンが買収したオーガニックスーパーWhole Foods Marketの商品販売コーナーもある。

Amazon Goオリジナルグッズを販売するコーナーもある。

入り口横のゲート外にイートインコーナーもある。オフィスや周辺の公園だけでなく、買ってきた商品をすぐに食べることが可能。座席数が5席と少なく狭いが、目の前の通りを行き交う人々を見ながら食事ができる。

Amazon Goの行動分析は「騙せる」仕組みなのか?

Amazon Goの本領である「レジ精算をしない」買い物体験は、本当に強烈なものだった。来店者は、「棚から好きな商品を取る」「そのまま店外に出る」だけで決済が完了する。アマゾンはこのレジなし決済技術の詳細について明かしていない。

店舗の中は、さながら各種センサーの実験室のようだ。天井を見ると至る所にセンサーらしきものが設置されていることがわかる。

監視カメラのような仕組みを使って、来店者の全行動を把握。棚の位置から商品を特定するほか、画像認識など複数の技術の組み合わせで追跡システムを実現している。これによって、「仮想買い物かご」である「バーチャルカート」の仕組みを実現している、というのが筆者の予想だ。

気になる行動解析システムの認識精度はどうなのか? システムを混乱させるために、あえて「素早く何度も商品を取り出したり戻したりする」「しばらく店内を徘徊してから商品を戻す」「商品を取り出すときにわざと布で表面を隠してカメラでの識別を難しくする」といった行動を試してみた(結果はのちほど)。

店内の天井には至るところにセンサー類が設置されており、つねに利用者の動向を観察している。

別の角度から見上げたところ。複数種類のセンサーを組み合わせていることがわかる。

さて、買いたい商品をカバンに入れて退店してみる。退店時にはオフィスビルのように一人ずつゲートを通って外に出る仕組み。興味深いことに、実はこの時点では決済処理は行われていない。

それどころか、自分のバーチャルカートに何が入っているか(何を買ったと認識されているか)も確認できない。カートの中身を確認できるのは、退店後から10分ほど経過してからだ。

具体的には、退店直後にアプリを見ると、「Thanks for visiting!」と表示されていた項目に、10分ほど経過すると商品点数が表示される購入品目と滞在時間、商品の価格を確認できる。必要なら、この時点からリファンド処理などの修正も行える。

この時点ではまだ決済は完了していない(保留扱い)。決済が行われるのは、退店からさらに1時間以上が経過してから。ステータスが「completed charges」になり、決済完了がアプリで報告される。

それで、先ほどのシステムを混乱させる行動の結果は? もちろん結局すべて正確に認識されてバーチャルカートの決済が行われていた。

バーチャルカートの内容はアプリで逐次確認できる。その変化を時系列でみていく。入店直後は何も選択できないが、退店から10分ほど経過するとカートの中身を確認できる。

追加されたアイテムは後で削除してリファンドすることができる。

今回購入したものの一覧。滞留時間と商品の詳細が確認でき、これが入店時に登録したアカウントのカードに請求される

入退店を繰り返し、3回目の買い物を行っているところ。退店直後には「Thanks for visiting!」と表示され、買い物中の場合は「Enjoy your trip!」と表示される

買い物終了後しばらくは課金はペンディング扱いとなっているが、1時間ほど経過したころから順番に「completed」という形で課金が完了したことが確認できる。なお、何も購入しなかった来店は、表示そのものがリストから消えるようになっている。

決済処理が実はリアルタイムではない? Amazon Go動作の秘密

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「バーチャルカートの処理から決済まで一連の動作は、実はリアルタイムじゃない」ここに、Amazon Goの秘密が隠されている気がする。

ここからは筆者の推測だ。

入店直後からユーザーの追跡が始まり、店舗に滞在中はすべての行動は常に把握されているはずだ。

ゲートをくぐって外に出た時点でこの追跡はいったん終了する。続いてこれがトリガーになってバッチ処理のようなものがスタートし、滞在中の行動分析からバーチャルカートの処理が始まる。

これに要する時間が、先ほどのバーチャルカート表示までの「約10分」ではないか。

店舗のスタッフに聞いたところ、Amazon Goを「まだテスト段階」と発言していた。つまり、一般公開されたとはいえ、まだシステムには進化や精度向上の余地が残されていると、彼らは認識しているわけだ。

そう考えると、退店から決済完了までの「10分+1時間」の待ち時間は、ユーザーの行動解析と、それによる商品の認識を修正しているのかもしれない。

この処理中に利用者を店内で待たせてしまってはユーザー体験を大きく損ねることになる。そこで、「とりあえず客をいったん外に出してしまう」というのが、現状のAmazon Goの「魔法のようにスムーズなレジなし決済」の真実の姿ではないか?

決済が完了する前にユーザーを店外に出してしまう、というのは大胆な判断にも思える。しかし、実際のところ誰が買い物(入店)したかは入り口ゲートのQRコード提示で特定できており、さらにクレジットカード情報なども把握している。だから、商品の持ち逃げはやりようがない。これが従来の小売店と大きく異なるポイントだ。

Amazon Goが「店舗で働く人の仕事を奪う」は本当か?

入り口には複数のスタッフが立っており、買い物用バッグを配布している。何の仕掛けもないただのバッグなので、持参のエコバッグや店内で配布しているペーパーバッグを使ってもいい。

「AI」活用や「無人化」という近年のキーワードには、必ず「(Amazon Goみたいな)無人店舗の増加はレジ係の仕事を奪う」という論調が展開されがちだ。

けれども、ここまでの写真を見てもわかるように、実際には店内では多くのスタッフが食材加工に従事しているし、商品補充で常時3〜4人ほどのスタッフが店内をせわしなく行き交っている。また酒販コーナーにはIDチェックの専任スタッフがおり、ゲートにも監視員が1人常駐している。

また臨時と思われるものの、店外には別の3〜4人ほどのスタッフがいて、バッグの配布や来店客の店内への誘導を行っている。

つまり、これだけで常時20人近いスタッフが1つの店舗で働いているわけだ。同サイズの日本のコンビニと比較しても、店舗面積に対するスタッフ数は5倍近い。「レジなし」ではあっても、「無人」どころかむしろ人が多いのだ。

10年先はわからないが、少なくともこのAmazon Goの形態を維持する限りは、コスト削減効果を目的とした人員削減という話にはなりそうもない。

アマゾンはAmazon Goで何を目指すのか?

Amazon Go店舗訪問でわかった最も重要なポイントは、その力点が「ユーザー体験」にあるということだ。「Frictionless Experience」(摩擦のない体験)という言葉がある。いかにストレスなくユーザーに最適なサービスや体験をさせるかという意味の言葉だ。Amazon Goは間違いなくこの面で業界の最先端にある。

「無人運営」という部分にのみ特化した中国のBingo Boxのような無人コンビニや、将来の労働人口減を見据えた無人レジコンビニを目指す日本などとは、狙いは実は大きく異なっていると感じる。

一方で、アマゾンが目標とする「全米に2000店舗」のハードルは、ある程度高そうだ。今は開店初期で物珍しさから注目を集めている。また所在地がハイテクワーカーが多いアマゾン本社敷地周辺(筆者は「アマゾン村」と呼んでいる)だからこそ成り立っている部分もあるだろう。今後全米の都市に拡大されたときに、ビジネス的に成り立つかは未知数だ。

このビジネスモデルを成功に導くキーの1つは、月並みだが「AI」の認識精度だ。2016年の社員向けベータテスト開始当初は「同時に数人程度」しか追跡できない精度だったと言われる。

それが、スタッフによれば現在は70人程度まで同時に入店可能だという。この70人という数字も「セキュリティ上(防災上)の理由によるもの」で、ポテンシャルはさらに高いという自信も見える。

Amazon Goは今後利用者が次々と買い物をしていくデータ蓄積を通じて、行動把握と認識技術をさらに強化していくはずだ。一つ確実に言えるのは、アマゾンが最新テクノロジーでどんな社会実験をやっているのか興味がある人なら、いますぐシアトル行きの飛行機に飛び乗るべきだということだ。

(文、写真・鈴木淳也)

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