アメリカのフィギュアスケーター、アダム・リッポン選手。
Matthew Stockman/Getty
- フィギュアスケートの選手たちは、長年にわたり厳しい食事制限や摂食障害に苦しんできた。
- 多くの選手は、コーチや審査員、そして自分自身からのもっと痩せなければというプレッシャーを感じている。これが厳しい食事制限や不健康な食生活につながっている。
- アメリカのフィギュアスケーター、アダム・リッポン選手は、より健康的な食生活を取り入れつつ、スケーターとしての目標を達成しようとする選手の1人だ。
世界トップレベルのフィギュアスケーターたちは、どんな角度から見ても、どんなに難しい技をやっても、美しく見えなければならないとのプレッシャーに常に直面している。
ニューヨーク・タイムズのカレン・クルース(Karen Crouse)記者が報じているように、フィギュアスケートの選手たちは、長年にわたり摂食障害や栄養不足に苦しんできた。アメリカのフィギュアスケーター、アダム・リッポン選手はこの問題に光を当てようと試みている。
クルース記者によると、リッポン選手はこれまでの人生を通じて、常に体重を減らさなければというプレッシャーにさらされてきた。成長するにつれ、リッポン選手はその筋肉質な下半身がフィギュアスケートの選手としては大きすぎると言われたという。2016年には、1日の食事量は全粒粉の食パン3切れとコーヒーのみだった。バターも塗らなかった。
「いま考えると、めまいがしてくる」リッポン選手はクルース記者に語った。
女子フィギュアでは、ロシアのユリア・リプニツカヤ選手、アメリカのグレイシー・ゴールド選手といった若い2人のスターが、すでに摂食障害の治療のために、競技生活を離れている。
フィギュアスケーターは、コーチや審査員、そして自分自身から、もっと痩せなければ、もっと痩せて見えなければというプレッシャーに常にさらされている。
「審査員にもっと体重を減らせと言われれば、健康的に痩せる方法など考えている時間はない」元オリンピック選手のブライアン・ボイタノ氏はクルース記者に語った。
コーチも残酷になり得る。クルース記者によると、旧ソ連の元コーチでリッポン選手を指導するラファエル・アルトゥニアン氏はかつて、選手たちを「太っている」と呼んで、体重を減らすよう動機付けていた。その後、アルトゥニアン氏はこうした批判がスケーターにとって良くないと学んだという。
だが、こうした変化はフィギュア界全体で十分に広がっているわけではない。ロイターは1月、日本の元フィギュアスケート選手、鈴木明子氏は、かつてジャンプに苦しんでいたとき、コーチに体重を減らすよう言われたことで、負のスパイラルに陥ったと報じた。同氏は治療を受けるまでに、2カ月で全体重の3分の1を失っていた。
「スポーツは、自己管理です」ロシアのフィギュアスケーター、エフゲニア・メドベージェワ選手は食生活について、ロイターに語った。「毎日、自分自身をコントロールしなければなりません。弱さに負ければ、自己嫌悪に陥る。それがどんな気分か、誰もが知っているでしょう」
こうしたカルチャーは、現役を引退した選手にも色濃く残っている。クルース記者によると、NBCのアナリストで元オリンピック選手のジョニー・ウィアー氏は、今でも1日1食、午後5時前には食事を終え、あとはコーヒーを飲むだけだ。ウィアー氏にとっては、1かけらのダークチョコレートもしくはスプーン1杯のキャビアがごちそうだ。
「それだけで本当に幸せな気分になれる」ウィアー氏は語った。
リッポン選手が食生活を変えたのは、2017年に足を骨折してからのことだ。クルース記者によると、リッポン選手はスポーツ栄養士とともに、より自然で栄養豊富な食生活を取り入れるようになった。
「自分が常にこんなに疲れていたとは、思っていなかった」リッポン選手は語った。食生活が変わったことで、食べ物は燃料だと見られるようになったと言う。
全米摂食障害協会(NEDA)のデータを引用したニューヨーク・タイムズは、アメリカでは2000万人の女性と1000万人の男性が、摂食障害に悩まされた経験があると報じている。この問題はフィギュアスケート界に根強く残っている。だが、徐々にではあるものの、スケーターたちは不健康な食生活を自分に強いなくても、身軽で細い体型を維持することはできると気付き始めたようだ。
(翻訳/編集:山口佳美)