ビル&メリンダ・ゲイツと働く日本人が告白するゲイツ財団と日本の関係

ビル・ゲイツ氏とメリンダ・ゲイツ氏は2018年2月13日、私立基金では世界最大のゲイツ財団として10年目となる年次書簡(アニュアルレター)を発表し、その中で「最も難しい質問トップ10」に答える内容をまとめた。

「どうしてもっとアメリカで寄付をしないのですか?」「おふたりは自分たちの価値観を他の文化に押し付けるのでしょうか?」「子どもたちの命を救うと人口過剰につながりますか?」……

10の質問の中には辛辣なものも含まれている。

書簡は、「世界に楽観主義が不足している」というステートメントから始まる。政治的分裂、暴力、天災など、世の中にはひどい見出しのニュースばかりが飛び込んでくると、両氏は述べる。しかし、そんなニュースタイトルとは関係なく、世界は良くなっていると強調する。

その楽観論を世界に広げる上で、日本の役割は大きいと話すのは、ゲイツ夫妻と共に働きビル&メリンダ・ゲイツ財団初の日本常駐代表である柏倉美保子氏。同氏は、10年目の年次書簡にあわせて、財団と日本の関係についてBusiness Insider に寄稿した。

ビル・ゲイツ氏とメリンダ・ゲイツ氏

2017年9月、ニューヨークで開かれたビル&メリンダ・ゲイツ財団のイベントに出席したバラク・オバマ前米国大統領とゲイツ夫妻。

REUTERS/Elizabeth Shafiroff


日本の方は、ビル・ゲイツという名前を耳にした時、おそらくビル・ゲイツのテクノロジーやコンピューターの世界への貢献を思うのではないでしょうか。

一方、最近はビジネスではなく新たな分野への挑戦で知られています。まだビルとメリンダが婚約中だった1993年の秋、二人は初めてアフリカを訪れ、極度の貧困を目撃しました。旅行中、先進国では防げるような病状で亡くなる子ども達の状況について二人は繰り返し話し合い、自分たちの財産をこの状況を解決するために使うことを決心をしました。そして、今でもアフリカでのこの決断こそが人生最高の決断だったと二人は言います。

4つの柱

2000年、ビルとメリンダは正しいモデルで取り組めば世界は必ず良くなるという信条のもと、極度の貧困を終わらせることを目標とした財団を設立しました。ビジネスで成功したビルとメリンダの考え方から財団の活動の柱となっているのは「イノベーション」「科学的根拠」「コラボレーション」「楽観主義」の4つです。

柏倉美保子氏

ビル&メリンダ・ゲイツ財団初の日本常駐代表・柏倉美保子氏。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団

財団で働き始めた当初最も驚いた事が、財団という形態でありながら民間企業以上に、戦略的に分析、検証、立証を繰り返す姿勢でした。私立基金としては世界最大の財団で、世界の保健衛生と開発支援を中心に毎年40億ドル(およそ4400億円)超を拠出しています。これは非常に大きな金額ですが、国際協力への資金全体から見れば一部にすぎません。

たとえば国家規模では、アメリカ合衆国が拠出する支援金は300億ドル(およそ3兆3000億円)、イギリスは180億ドル(およそ1兆8000億円)です。ゲイツ財団のお金の使い方としては、他の組織ができない、又はやりたがらないリスクを取り、最先端の研究や貧困層のためのイノベーションに資金提供することはできます。

一方、貧困問題の解決において最も重要となる、効果の高い対策を持続可能な形へとスケールアップさせることは、政府や民間企業にしかできません。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは

だからこそ、当財団にとって日本をはじめとする主要パートナーとの連携は、戦略上、大変重要です。日本と財団は、「あらゆる命は平等で誰一人取り残されるべきではない」という価値観を共有しています。貧困から抜け出して経済を発展させるためには、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、つまり国民全員の健康を目指した予防、治療、機能回復に関する医療サービスを支払い可能な費用で受けられるという経済活動の基盤が欠かせません。

日本が戦後、UHCを展開し被援助国から援助国へと変貌を遂げ、その経験に基づいて東アジア各国の成長を支えてきた重要な役割は、戦後語られたサクセスストーリーの中でも際立つ成功例です。日本からさらに多くを学び、連携を深めながら、ODAから持続可能な形で卒業する国を増やしていくことを目指していきたいと考えています。

ゲイツ財団はすでに日本とは長く良好なパートナーシップを築いてきました。ひとつの例が、世界中の人々の健康に貢献するために、世界にも類をみない、官民一体となったグローバルヘルス技術振興基金(GHIT)の立ち上げです。GHITは日本の製薬会社にワクチンなど、貧困層にある人々の手に届きにくいソリューションを開発してもらうことを支援する仕組みです。

結果を重視するプロジェクト

ビル・ゲイツ氏

2017年4月、スイス・ジュネーブで開催された「顧みられない熱帯病サミット」に出席したビル・ゲイツ氏。

REUTERS/Pierre Albouy

もう一つのパートナーシップの成功例は、エーザイを含む多様な提携先とのコラボレーションで達成した、これまで無視され続けた「顧(かえり)みられない熱帯病」の薬による2億700回の薬物療法投与で、ギネス世界記録にもなりました。

結果を重視するプロジェクトを好むという点でもゲイツ財団と日本の国際協力に対する姿勢をともにしています。GAVIアライアンス、グローバルファンド、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)などの多数国間基金に資金提供をしているのもそのためです。

これらの基金は日本政府やゲイツ財団などドナーからの資金をプールし、支援の緊急度などをもとに効率的に分配することでより大きな効果を発揮しています。たとえばGAVIアライアンスは、2000年以来6億人以上の子どもたちにワクチンの接種を行ってきています。同様に、エイズ・結核・マラリア対策基金であるグローバルファンドは、2002年の設立以来2200万人の命を守ってきました。

信頼できるリーダーを求める地球社会

東京都庁

2019年、2020年に世界のスポットライトを浴びる日本。日本のリーダーシップを揺るぎないものにすると話す柏倉氏。

REUTERS/Toru Hanai

開発援助資金が最も有効活用されている手法を日本政府が重視するのは、世界にとってもすばらしいことです。 2019年にはG20の議長国、2020年には東京オリンピックと、日本は今後数年間、世界のスポットライトを浴び続けることになります。

当財団としては、2019年のTICAD VII(アフリカ開発会議)や2020年の栄養サミットでも連携し、この機会に日本のリーダーシップを揺るぎのないものにすること、また国民の健康こそが国や経済の発展につながる、という日本の経験を世界の範として示す貴重な機会と捉えています。

先が見えづらい世界情勢の中、地球社会全体が信頼できるリーダーを求めているように感じます。今ほど信頼を大切にしてきた日本の外交や国際協力、安定したリーダーシップが世界に必要とされている時はありません。

これまでに無いことを達成できるのではないかという期待を胸に、日本政府、企業、市民社会が培ってきた知識、技術、モデルを必要としている世界各地域に届け、当財団と日本を繋ぐ仕事をできることを心から嬉しく思っております。


柏倉美保子 ビル&メリンダ・ゲイツ財団初の日本常駐代表。子どもの頃にメキシコで極度の貧困を目撃した体験から貧困問題撲滅を志し、金融業界で社会貢献インパクトを最大化するマーケット・インセンティブ作りと責任投資(ESG)を手がける。ゲイツ財団の前は世界経済フォーラムで日本地域のアジェンダと戦略作りを担当。慶応大学総合政策学部を卒業後、ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクールでMBA、世界経済フォーラムでグローバル・リーダーシップ・フェローのエグゼクティブ・マスターを取得。

(編集部より:寄稿文中の小見出しは編集部が加えました)

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