メルカリ内定時期から昇給、一律初任給廃止——内定者にも研修費用、新卒採用一気に増やす

新卒社員に一律の初任給を支給する給与体系に変化が起きている。

メルカリは2018年4月入社の新卒者採用に向け、内定者向けに入社前から昇給させる新制度「Mergrads(メルグラッズ)」を導入する。HRグループの石黒卓弥マネージャー(38)は「内定から入社まで1年の学生生活がある。その間も成長をしてほしい」と導入理由を説明している。

サイバーエージェントも、エンジニア向けに一律の初任給を廃止し、能力に応じた給与体系にする。

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メルカリの新制度は、内定から入社前までの学生の成長を昇給に反映させる。

撮影:今村拓馬

Mergradsは、2018年4月以降に入社する新卒新入社員が対象。制度は次の3つ(以下、メルカリリリースより)。

(1)適切なオファー・内定期間中の昇給制度〜内定者ごとに適切なオファーを学年・時期不問で提示。内定後のインターンシップの給与も個々に決める。内定期間中でも入社前にスキルや経験を身につければ、提示した報酬が上がる可能性あり。

(2)インプット支援制度〜各国で最新サービス・アプリを体験する制度「Mercari Tech Research」(海外出張費用を全額負担)を、内定者にも導入。プログラミング学習支援や技術書、書籍購入費用も全額補助。

(3)Global Operation学習制度〜語学学習制度(英語と中国語習得のための留学費用を全額補助。日本語学校の費用補助もあり)/クロスカルチャー研修(入社後は、メルカリのGlobal Operations Teamによる研修で、異文化のメンバーとの相互理解を進める)

内定者への取り組みは、内定後のオファー面談やインターンシップ、内定者懇談会などで情報を共有する。(1)については、学生時代の研究内容、アプリ開発、技術系のイベントでの発表など、内定後から入社前までの成長・成果を評価し、給与に反映する。

石黒氏は「うちは年功序列でもないし、何歳だろうと、中途、新卒だろうと関係ない。新卒者は内々定が出てから、15カ月くらいは(提示した給与は)ステイなんですね。それはおかしいと。1年もあれば、スキルは上がるし、私たちも1年働いて給与が上がらないといやじゃないですか。よく考えれば、新制度は結構真っ当なんですよね」と説明する。

メルカリが掲げる3つの「バリュー」のうちの1つ、「Be Professional-プロフェッショナルであれ-」の考えは、学生に対しても同じという。

「時速100キロじゃないですけど、入社後頑張ります、じゃなくて、モチベーション高く入社してほしい」(石黒氏)

メルカリが新卒採用を一気に増やす理由

石黒

人事担当の石黒さんは、山田会長から「予算無制限でめちゃくちゃいい学生とって」と言われたという。

メルカリは全社員のうち中途採用が8〜9割を占め、これまでの新卒採用は毎年6、7人程度だった。一方、2018年4月入社は、新卒者26人(台湾、香港、インド、イギリス、中国、アメリカ、日本などの出身者)に内定を出した。2019年4月入社は、新卒者50人の採用目標を掲げる。

山田進太郎会長は1年前、役員合宿で石黒氏に新卒採用を強化する方針を伝えた。

「今でも覚えているんですが、『予算無制限でいいから、めちゃくちゃいい学生とって』(山田氏)、以上!みたいな」と石黒氏は山田氏との会話を振り返る。新卒採用強化の「財務基盤が安定しつつあること、中長期的に会社を強くするため」(石黒氏)という。特に、エンジニアは3年以内に中途採用を含めて、現在の150〜200人から1000人に増やす方針だ。

同社は、安定して多くの人材を獲得できる新卒市場に目をつけた。

石黒氏は「新卒採用は、マーケットがわかりやすいんですよね。中途採用(の応募者)は、現職に残ってもいいけど、大学生は絶対に4年生の3月にどこかに行くことになるんですね。(新卒の)50万人のマーケットがあるので、そこに打っていかない手はないなと思った」と話す。

同社は、新卒採用の課題を「認知度」ととらえ、今回の新制度のお披露目により認知を上げたいという。新制度の(2)や(3)の項目の手厚い支援制度により、内定辞退も防ぎたい考えだ。

新卒者もリファラル採用、大学2年生に内々定

新卒入社の採用人数を大幅に拡大した2018年卒に対し、メルカリはどのような手を打ったのか。

内定者26人のうち、実は半分近くが「リファラル採用」(社員らが採用候補者を紹介する)だ。リファラル採用は、転職市場で広まりつつある手法。メルカリの中途入社の社員のうち6割がリファラル採用で、同社では新卒にも同じ傾向が見られる。

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100人の学生をアメリカ・イギリスに派遣するインターンシップ。

出典:メルカリ

インターンシップに参加した学生同士がつながって、友達の友達を同社に紹介したり、またその後輩とつないだり。座談会やランチなどを通じて、学生たちと会っていく。

優秀な人材となれば、学年も問わず内々定を出す。実際、インターンの参加は学年不問で、2017年夏のインターンに参加した大学2年生3人に内々定を出した。

2年生で内々定を受けていると、入社までの期間は長い。本人の努力次第では入社までにより高いスキルを身につけることも可能で、相当昇給もできる。それが学生にとってはモチベーションにもつながる。「社員だって2年いれば、相当上がることもある。ただ、昇給しない可能性だってあります。一人一人に向き合っていこうというのがメッセージですよね」(石黒氏)と実力の見極めは、あくまでも慎重だ。

サイバーもエンジニアの一律初任給を廃止

サイバーエージェントも2018年4月入社の新卒入社のエンジニアを対象に、一律の初任給の給与体系を廃止する。新たな給与体系は以下の2点だ(サイバーエージェントリリースより)。

(1)能力別給与体系:最低年俸450万円〜(月37.5万円〜)個人の能力別に自社独自の基準で評価する

(2)エキスパート認定:最低年俸720万円〜(月60万円〜)高度な技術や実績、成果を持つ人が対象

サイバー

サイバーエージェントもエンジニア向けに一律の初任給を改める。

撮影:今村拓馬

同社はこれまで、初任給は年俸408万円の一律だったが、「優秀なエンジニアを能力に応じて評価しよう」と新給与体系を導入した。学生が応募する際に、エキスパート認定による選考にチャレンジできる。

エキスパート認定は、「豊富なサービス開発経験や特定の技術領域への顕著な知見を持つ学生が対象」(同社)。入社前の実績を総合的に査定する。査定対象は技術的スキルや実績、AIの要素技術研究の成果、執筆した論文、自社でのインターンやアルバイト経験。新たな給与体系は、デザイナー職についても導入する(最低年俸は408万円〜)。

高待遇の特別枠を設ける企業

人材サービス「ビズリーチ」によると、一律の初任給を廃止するトレンドはまだ顕著にはないものの、企業によっては「特別枠」を設けて、高待遇で人材を迎えるケースがあるという。

企業が学生をスカウトする同社のサービス「ニクリーチ」は現在108社が導入、幹部候補採用のために「ランチスカウト」(ニクリーチのサービス)に取り組む企業が増えている。「(目立った数ではないが)ポジション、年収を変えて採用を強化する動きが出てきている」(同社担当者)。

大手でも通常採用と分けて採用活動を行ったり、入社後の配属や給与が異なる特別採用が生まれ始めており、小出毅・新卒事業部長は「就職活動の早期化、優秀な学生を採用したいというニーズからこのような動きが出てきているのではないか」と分析、今後の拡大については、「先行している企業の成否で変わるのではないか」と見通した。

メルカリやサイバーエージェントのような“実力給”は、数年、数十年後のトレンドになっているだろうか。

(文、撮影・木許はるみ)


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