もう1つの“平昌五輪”、サムスン電子が「初公開」5Gタブレットで実証実験

5Gタブレット

平昌オリンピック 江陵会場・アイスアリーナ内にある「5G ICT ZONE」には、サムスン電子製の「5G」対応タブレットが置かれていた。

スポーツの祭典「平昌オリンピック」は、通信業界においても重要な意味を持つイベントだった。

現在、各国のキャリアを中心に「第5世代移動通信システム」の開発が加速している。通信業界ではこの次世代通信規格を「5G(5th Generation)」と呼んでいる。日本のスマートフォンなどで使われている通信技術はLTEやLTE-Advancedだが、これらは「4G」の枠組みに入る。つまり、その名のとおり5Gは、そう遠くはない未来のための通信規格だ。

サムスン電子は、2018年2月9日から25日までの開催中の平昌オリンピックにおいて、「5G」のオープンイベントを韓国キャリアのKTとともに開催している。屋内競技の会場が集まる江陵(カンヌン)にあるKTのパビリオンには、業界関係者だけではなく、オリンピック観戦に来た一般の来場者も多く集まっていた。

平昌オリンピックで「5G」のタブレットが一般公開に

平昌オリンピック 会場

「5G ICT ZONE」では、フィギュアスケートの観戦客が5Gタブレットを自由に触れるようになっていた。

2社のオリンピックでの取り組みの中で、業界関係者の注目を最も集めていたのは、5Gの通信に対応したサムスン電子製端末だ。一般には初めて公開されたタブレットで、江陵の会場の端末から平昌で開催されている競技の様子をリアルタイムで確認できるサービスが実装されていた。


5Gタブレット

端末のアンテナピクトには「5G」と表示されている。通信に使うAPNの設定も通常のKTのものとは別の設定になっていた。

5Gタブレット

現在、多くのスポーツ観戦は各放送局のスイッチングで視点が変わるが、5Gでユーザー自身が同時に保存された各カメラの位置の映像をインタラクティブに指定できる(その分、データ量は増える)。

実際に公開された端末を触ってみると、同社および他社の洗練された既存製品と比べて分厚くて重く、いかにも「実証実験機」という雰囲気だ。とはいうものの、実物が目の前で動作して、さらに一般の来場者も触れられる形で展示されているわけで、5Gの現実味がまた増したと思える。

端末の詳しいスペックは不明だが、ディスプレイは7インチ前後で2K解像度。ソフトウエア関連は同社の「Galaxy Tab」シリーズがベースになっているようだ。ハングルや英語はもちろん、日本語の言語環境も標準で搭載されていた。また、同社によると、心臓部となる半導体(SoC)はサムスン電子製だという。

5Gタブレット

実験用の端末のため、まだ詳細な正式仕様は明らかになっていないが、5Gが遠い未来の話ではないと実感するのには十分な端末だった。

KTは「5Gでできること」を体験できるように工夫

KTのブースは、そんな5Gで実現できる世界観をひと足はやく体験できるブースとなっていた。いま話題の「自動運転車」や「Mixed Reality(MR)」「IoT」などといった分野が(実際の5Gでの実装ではないが)デモとして展示されていた。

江陵会場にあるKTのパビリオンは、5Gを前面に押しだしていた。

平昌オリンピック KTのパビリオン


体験スペースの前には、5Gに関する説明や「未来の世界へ行く」という粋な演出がある。

KT 5Gパビリオン


体験スペースの中央にある未来都市のジオラマは、プロジェクションマッピングでさまざまな解説に使われる。

KT パビリオン プロジェクションマッピング


これは自動運転技術に関する解説。地図上の赤い円が車であるという想定。

KT 5G 自動運転のデモ


多数のカメラでプレイヤーを読み取り、離れた相手とホッケーのPK戦をするというデモ。

KT 5G ホッケーゲーム


MRの謎解きゲームもあり。無事成功すると、手前の扉が開き「賞品」が出てくる。

KT 5G MR HMD


余談だが、KTは会場に集中するトラフィックをさばくため、移動基地局車を用意していた(ラッピングは5Gだが基地局は4Gのもの)。

KT 移動基地局車


5Gに本気、半導体もアンテナも端末も手がけるサムスン

KTがブースで示した各分野は、現在も各社が開発を進めているが、いざ現実的な展開をしようとすると以下の項目が重要となってくる。

  • より大きなデータを伝送する(大容量性)
  • よりたくさんの端末を接続する(多接続性)
  • より遅れなくデータを伝送する(低遅延性)

サムスン電子 常務

サムスン電子 ネットワーク事業部 常務の申東洙氏。

サムスン電子のネットワーク事業部常務の申東洙(シン・ドンス)氏は、5Gはこれら3つの特徴を網羅した規格だと説明する。

日本でサムスン電子と言えば、「Galaxy」ブランドのスマホやタブレットなどを展開する端末メーカーだが、全世界的にはネットワークや半導体など多岐にわたった事業を展開している。インテルやノキアなど、さまざまなネットワーク企業がある中、申氏は「5Gをエンドツーエンド(チップ、端末、システム)で提供できる」ことと、高速移動しながらの通信でも途切れにくい「高速ハンドオーバー技術」が同社の強みであると強調した。

ハンドオーバーとは、通信を切断することなく基地局を切り替える技術だ。日常生活で移動しながらストリーミング動画を楽しんでいたとしても、途中で途切れないのはこの技術のおかげだ。同社の高速ハンドオーバー技術に関しては、日本のKDDIとの取り組みが報告されている。時速200km前後で走るレーシングカー内との高速通信や、時速100kmを超える新幹線で約1.5km間、4K画質動画の送信と8K動画の受信に成功している。

5G 高速ハンドオーバー技術 実験

サムスン電子とKDDIは、韓国内サーキット場で「高速ハンドオーバー技術」の実証実験に成功している(2017年9月発表)。

サムスン電子

申氏は「5Gはスマートシティー、遠隔治療、自動運転、自動工場などに生かされる」と、今後本格化するであろう最新技術と5Gが密接な関係があると話す。5G自体の商用化の時期はKTやKDDI、そしてパートナーである米ベライゾンやドコモなどの通信事業者によるとの見解を示したが、各国の通信環境に精通する事業者の要望には柔軟に答える用意があると答えている。

5G

5Gの研究開発は着実に進んでいる。

ドコモ、au、ソフトバンクの日本の大手3キャリアは、2020年を目処に5Gの実用化を目指している。今回の平昌オリンピックでは試験運用どまりだが、2020年の東京オリンピックでは実用化ないしその一歩手前まで進んでいると考えられる。

国内キャリアだけではなく、サムスン電子のようなパートナーの動きも今後加速していくことになるのだろう。

(文、撮影・小林優多郎 取材協力・サムスン電子ジャパン)

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