親が保育園「不承諾通知」望むのは国の制度に問題。改定求める世田谷区

保育園の不承諾通知を望む親たちの心境を描いたBusiness Insider Japanの記事(「保育園落ちてもいい」親たち。待機児童の一方で「不承諾通知」歓迎と内定辞退続出の訳)は大きな反響を呼んだ。

近年、待機児童問題が社会問題となり、今年も「#保育園落ちた」がTwitter上を飛び交っている一方で、自治体によっては、認可保育園の内定辞退が相当量あるほか「落ちてよかった」と言う声も存在する。

世田谷区はこうした“矛盾”した事態を問題視し、政府に対して制度の変更を求めているほか、保育園だけでない「仕事」と「子育て」を両立しやすくするための新しい取り組みも始めようとしている。

保育園

無事に保育園に入れても、その後の育児と仕事の両立は過酷。保護者を取り巻く環境は厳しい。

撮影:今村拓馬

世田谷区は、待機児童が全国の自治体でもっとも多い自治体だ。2017年4月時点の待機児童は861人だった。そのうちの一部が本当は入園を望んでいない可能性がある、としている。

保育園に入園申し込みをしたものの、育児休業を延長するために「不承諾通知(入園待機通知書)」の取得が目的と想定される親は、最大で年間190人程度いると推定。複数園の申し込みが可能な入園申込書に、1園のみしか書かなかったり、入園内定通知を出しても辞退をしたりが、その根拠だ。

この“潜在待機児童”ならぬ“潜在育休延長希望者”は、本当に必要な保育ニーズの把握を難しくするほか、他の親や保育行政に膨大な負担を与えてしまっているのが現状だ。

こうした事態に対し、世田谷区の保坂展人区長は「制度の手続きに従っているだけで、親も引け目を感じている」と親たちへの理解を示しながらも、「待機児童問題を必要以上に深刻にさせてしまっている」と、現状を指摘する。

給付金の支給継続に必要な不承諾通知

保坂区長の言う「制度」とは何か。

現在は育児休業を延長し給付金の支給を継続しようとすると、保育園に入園できなかったことを証明するために不承諾通知が必要となる。

世田谷区では数年前から政府に対し、この制度の変更を求めている。

2017年10月には内閣府の規制改革推進会議(保育・雇用ワーキンググループ)において、「不承諾通知を根拠とする育児休業給付金の延長に関する手続きを廃止し、保育施設への申込みの有無に関わらず、育児休業給付金を最長2年間支給すること」を提案。

不承諾通知が不要になれば、不承諾通知取得が目的の申し込みはある程度減り、自治体は本当の保育ニーズが把握できるだけではなく、手続きが簡素化する。親にとっても、本当に入りたい人が入園できる可能性が上がる。

世田谷では不承諾通知希望の項目も検討

しかし、今のところ制度の変更が進む可能性は低い。

不承諾通知が必要な理由について、厚生労働省の職業安定局雇用保険課の担当者は「育児休業給付金は雇用保険の中から出ており、社会的な必要性を認められる必要がある」と説明する。現状は財政が逼迫している。より簡単に育児休業給付金を受け取れるようになれば、予算が大きく膨らむ懸念も存在する。

保坂展人世田谷区長

育児休業延長に関して、ルールの変更を求める、世田谷区の保坂展人区長。

撮影:室橋祐貴

これに対し保坂区長は、保育園に入れないという事情を証明する不承諾通知は「(育休延長は)よほどの事情があって保育園に頼らざるを得ないという旧体制の名残りであり、全く意味のないもの」だと反論する。さらに言えば、「0歳児は1人当たり保育費用として1カ月30万円以上かかるなど、子どもの保育にも多額のコストが生じている。2年間フルで育児休業給付金を支給した方が、財政的にも負担が少ない可能性もある」。

ただ、現時点では国の方針が変わる様子はなく、世田谷区では、とりあえずの措置として、入園申込書に「不承諾通知希望」という項目を作ることも検討しているという。

シェアオフィスに子どもを預かる機能を整備

一方で、昨今の変化の激しい時代において、2年間完全に仕事を休むことによるデメリットも大きい。

いきなり週5日フルタイムで働くことは難しいが、週2〜3日や時短で働きたい。そういう保護者は多い。

実際、世田谷区が区民を対象に行ったアンケート調査では、1カ月の理想の労働時間は「120から160時間未満」と答えた人が最も多かったが、現状は、160時間以上働いている人が最も多い。働く場所についても3割以上が「小学校低学年までは、自宅近くのサテライトオフィスや在宅勤務で働きたい」と答えているが、現状は約8割が事業所(会社)で働いている。

(現状は)保育施設に子どもを預けてフルタイムで働くか、保育施設に子どもを預けられないために仕事をしないかの0か100の働き方しかない。半日は仕事、半日は育児に当てられたらいい」(世田谷区「多様な働き方に関する座談会」参加子育て当事者)

そこで世田谷区では、2018年度より「子育て」と「仕事」の両立を支援し、新たな働き方の一つの提案として、「子どもの近くで働くことができるワークスペース補助事業」を始める。

具体的には、シェアオフィスに子どもを預かる機能を付加し、専任スタッフに子どもを見てもらいながら、保護者は近くで働くことができる。

世田谷区子どもの近くで働くことができるワークスペース補助事業

育児をしながら週2〜3日ほど働きたいニーズを満たす保育の公的な受け皿を提供する。

提供:世田谷区

2018年度予算案に運営費等の補助として約3000万円を盛り込む。シェアオフィスは、民間では徐々に広がっているが、子どもを預かる機能を付加したものはまだあまり広がっておらず、子育て中の人により使いやすい環境を整備していく考えだ。

仕事か子育てかの0か100かではなく、両立できる場が必要。こういう仕組みが普及すれば、男性も育休を取りやすくなる」と、保坂区長はその狙いを明かす。

「育児休業はライフスタイルの選択。親に後ろめたい思いをさせている不承諾通知の提出義務をなくし、仕事への復帰や育児の形に関して、より多くの選択肢を提供していくべき」

近年、保活はますます激化し、実際どこにも入園できなかった時の苦労は計り知れない。一方で、無事に入園できても、その後の生活は過酷であり、根本的な解決には、長時間労働の是正や在宅勤務など、仕事と子育てが両立しやすい環境の整備が必要だ。

保育機能付きシェアオフィスを自治体が支援するのは、市区町村では世田谷区の事例が全国初という。保育園の整備だけではない、自治体の新しい取り組みが期待される。

(文・室橋祐貴)

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