米国でも注目される「対北朝鮮の最前線」秋田、急増する北からの漂着

平昌五輪で北朝鮮の動向に注目が集まる中、秋田県では「日本における対北朝鮮の最前線」としての複雑な思いが渦巻いている。

秋田は北朝鮮がらみの話題が際立って多く、男鹿半島沖への度重なる弾道ミサイル落下もあって迎撃システム「イージス・アショア」配備が2017年12月に閣議決定、秋田市が候補地になった。

沿岸部には北朝鮮からとみられる木造船が相次いで漂着、防衛や治安が懸念される一方、見つかった遺体は荼毘(だび)に付されて男鹿市内の寺が供養、同情も広がった。そうした様子は米紙ニューヨーク・タイムズが紹介、海外でも関心が高まっている。

新屋演習場

イージス・アショアの配備予定地とされる陸上自衛隊新屋演習場(2017年年12月、秋田市)。

イージス・アショアは、秋田市の陸上自衛隊新屋演習場に配備されるとみられている。周辺住民が中心となった勉強会が2月3、4日に秋田市内で開かれ、2日間で約200人が集まった。

関心はレーダーが発する電磁波に集中。「人体や生活への悪影響を心配する声が多かった」(事務局)という。もう一つの候補地とされる山口県萩市の陸自むつみ演習場に比べ、新屋演習場はより市街地に近いためだ。

標的になる不安と経済効果への期待

だが、最大の関心はやはり「配備でミサイルの標的にされかねない」ことへの懸念だ。

年配の市民にとっては、第2次大戦の終戦間際に新屋にほど近い土崎港(現・秋田港)周辺で起きた土崎空襲が大きなトラウマになっている。1945年8月14日夜から15日にかけて起きた米軍B29爆撃機による大規模な空襲だ。秋田市には現在でも採掘可能な油田があり、当時は付近に大規模な製油所があった。それを狙った空襲とされている。

配備について、政府から県への正式な通知はまだない。佐竹敬久知事は「情報がない中、県としては賛成とも反対とも言えない」としつつ、配備の意義については「専守防衛であって攻撃ではない」との認識だ。

配備を歓迎する声も一部にある。6年後めどの運用開始までに、新屋周辺には自衛隊関係者とその家族が相当数、移って来るとみられる。ある県幹部は「地域の人口が増えて経済効果が期待できる。配備で想定される政府の交付金は、実はありがたい」と打ち明ける。保守系県議は「配備で『秋田はかえって安心安全』という考え方もある」と話す。

増える北朝鮮からの漂流・漂着

ニューヨーク・タイムズは、2017年12月8日付で「北朝鮮から来た遺体を積んだ船」と題する秋田についての特集記事を掲載した。

2017年11月、秋田県由利本荘市の沿岸部に北朝鮮籍の木造船が漂着し、漁師とみられる8人が保護されたこと、同時期に同男鹿市に漂着した木造船から8遺体が見つかり、荼毘に付された遺骨が供養されている同市の曹洞宗洞泉寺の様子などを、拉致問題の経緯とともに紹介した。

男鹿市の木造船

男鹿市の宮沢海水浴場に漂着した木造船は全長はが約7メートル、幅が約2~3メートルで、先端には「556-60756」の数字。船中から一部白骨化した8遺体が見つかった(2017年11月、秋田県男鹿市)。

秋田県では1970年代から80年代にかけて、北朝鮮に拉致されたと政府が認定した被害者が17人いる。

ニューヨーク・タイムズは木造船について、「誘拐目的でスパイが来たのでは」「すでに誰か上陸して町に隠れているのでは」といった由利本荘市の女性住民たちの不安の声を紹介した。ある建設業者は、「これまでハングル表記のあった洗剤ボトルなど、多くの漂流物が流れ着いた。船や遺体がいつ漂着してもおかしくないし、すでに工作員や武装集団が密入国しているかもしれない。北朝鮮の体制が崩壊して、難民が押し寄せてきたらどうすればよいのか」と表情を曇らせる。

海上保安庁の集計によると、2017年1年間で日本に漂着・漂流が確認された北朝鮮からとみられる木造船は104件、うち秋田県は14件だった。見つかった遺体は全国で35体で、うち秋田が17体、保護された生存者は全国で42人、うち秋田が8人と、いずれも相当数を秋田が占めている。

木造船内部

男鹿市の宮沢海水浴場に漂着した木造船の甲板にはライフジャケットや漁具などが散乱し、内部には電子機器が備え付けられていた(2017年11月、秋田県男鹿市)。

北朝鮮から日本海沿岸で相次ぐ漂着・漂流はハイペースで増えており、2018年に入ってからも2月9日現在、全国で21件、秋田で5件が確認された。

目的は日本海有数の漁場とされる「大和堆」での違法操業との指摘がある。国連の制裁決議をかいくぐり、燃料を調達して木造船で出航、漁で得たイカなどを国内の食糧不足の改善に活用すると同時に密売し、外貨を稼いでいるとの見方もある。

木造船や遺体などの漂流・漂着物は原則として、警察と海上保安庁が検分し、所属や身元がはっきりしない場合は地元自治体に処理が委ねられる。

春になったら無縁仏用の墓所に埋葬

木造船甲板

男鹿市の宮沢海水浴場に係留されている木造船の甲板には、ペットボトルやロープ、ライフジャケットなどが散乱していた(2017年11月27日、秋田県男鹿市)。

男鹿市では2017年11月から12月にかけて10体の遺体が漂着。市は木造船を処分、遺体を荼毘に付し、遺骨を曹洞宗洞泉寺に委託した。同寺の本堂では、白い布に覆われた10体の遺骨が他の無縁仏と一緒に供養されている。

洞泉寺には「かわいそう」との声が多く寄せられ、埼玉県の在日朝鮮人の女性から「供養してもらってありがたい」と1万円の現金書留が送られるなど寄付が相次いでいる。県外からお参りに訪ねる人も多く、「日本統治時代の朝鮮人の労働徴用が気の毒で」との声も聞かれるという。

洞泉寺の10遺骨

北朝鮮から漂着したとみられた遺体を火葬し、供養した。前2列の白い布に覆われた箱(2017年12月、男鹿市の洞泉寺)。

洞泉寺では身元不明で市が火葬した遺骨を供養してきた。これまで年間4~5体のペースで、中には北朝鮮からとみられる遺骨もあったが、まとめて10体もの対応は初めてという。小嶋良宣住職は「分け隔てなく供養するのが仏教の教え。同じ人間で、悪いのは国の体制であって国民ではない。曹洞宗では不本意かもしれないが、供養したい。いただいた寄付は市に相談し、供養に使わせていただくことにした」と話す。

北朝鮮からとみられる身元不明遺体は海上保安庁が検視の際、衣服や体格の形状、爪などから採取できるDNAの情報を保管する措置を取っている。日本赤十字社ではこれまで人道的観点から発見された自治体を経由して海保の情報提供を受け、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を通じて、朝鮮赤十字会に遺骨を返還してきた。今回の遺骨も、日本赤十字社秋田県支部が男鹿市に情報を照会している。

男鹿市の洞泉寺住職

洞泉寺の小嶋良宣住職(2017年12月、秋田県男鹿市)。

小嶋住職は「北朝鮮に返されたら、どんな扱いを受けるか分からない。寺で供養する方が故人のためではないか」と話し、雪が溶けた春以降、境内にある無縁仏用の墓所に納めたいとしている。

男鹿市では2017年3月、北朝鮮のミサイル発射を想定した国内初の住民避難訓練が行われた。沖合に何度も北朝鮮のミサイルが落下したことを受けた訓練で、小学生からお年寄りまでが参加、秋田県内でも特に北朝鮮に敏感な地域でもある。

その地で供養されている遺骨に対し、かの国の指導者は何を思うだろうか。

(文・写真、藤澤志穂子)

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