Daniel Brown/Business Insider
アメリカ海軍はその莫大なコストにもかかわらず、原子力空母に代わるものはないと考えている。
元アメリカ国防長官ウィリアム・コーエン(William Cohen)氏は「空母」なくして、アメリカは「発言力も影響力も行使できない」と語っている。明らかに世界中の多くの国もそう信じている。
ここ数年、空母については多数の興味深い進展があった。インドやスペインなどいくつかの国では空母が退役、一方、中国では初の空母が就役、そしてイギリスは再び数少ない空母保有国の1つとなった。
アメリカは2017年、最新鋭空母フォード級の1番艦「ジェラルド・R・フォード (USS Gerald R. Ford)」を就役させた。Business Insiderは同艦を見学する機会に恵まれた。
関連記事:世界最大の空母ジェラルド・R・フォードを見学! 実際に乗ってみた
世界では現在、20隻の空母が運用されている。見てみよう。
クイーン・エリザベス(HMS Queen Elizabeth):イギリス海軍の最新、かつ現在、唯一の空母
AP Photo/Marcos Moreno
全長 : 932フィート(約284メートル)
就役 : 2017年
推進システム : 統合全電気推進
※ガスタービン2基、ディーゼルエンジン4基、電動機4基
同級空母の1番艦で、世界の最新鋭空母の1つ。現在、イギリスが運用する唯一の空母であり、2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ(HMS Prince of Wales)」は建造中。
起工は2009年7月、進水は2014年7月、就役は2017年12月。Business Insiderは就役直後の2017年12月に同艦を見学した。
同艦の特徴は、航海用、航空管制用の2つのアイランド(艦橋)を持つこと。
艦載機は約40機、主力はF-35B。その他、CH-47チヌーク、AH Mk1アパッチ、AW101マーリン、AW-159ワイルドキャット対潜哨戒ヘリなどを搭載予定。
ジェラルド・R・フォード (USS Gerald R. Ford):アメリカ海軍の最新鋭空母
United States Navy
全長 : 1106フィート(約337メートル)
就役 : 2017年
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
2009年11月に起工、2013年10月に進水、2017年7月に就役。同級空母の1番艦で、計10艦の建造が予定されている。
現在、本格的な配備に向けて訓練中、艦載機は75機超、主力はF-35C。アメリカ海軍の最新鋭空母として、今後数年間でレーザーなど新兵器が搭載される見込み。
同艦は数多くの新技術を搭載している。その1つが電磁式カタパルト。従来の蒸気式カタパルトに代わるものだ。
最近では2017年7月、F/A-18Fスーパー・ホーネットの発艦テストを実施。2022年に本格配備の予定。
ヴィクラマーディティヤ(INS Vikramaditya):インド海軍、唯一の空母
Reuters
全長 : 930フィート(約283メートル)
就役 : 2013年(インド海軍)、1987年(旧ソビエト海軍)
推進システム : ボイラー8基、ギヤード蒸気タービン4基
2017年はじめに空母ヴィラート(INS Viraat)が退役した後、現在、インド唯一の空母。
旧ソ連のキエフ級空母を改良。旧ソ連海軍において1982年に建造され、1987年から1991年はバクー(Baku)、1991年から1996年にかけてはアドミラル・ゴルシコフ(Admiral Gorshkov)と、2つの艦名で運用された。
数年におよぶ交渉の末、インドが2004年に23億5000万ドルで購入。広範囲な近代化工事と改修工事を経て、2013年にインド海軍に引き渡された。
艦載機はミグ29K(MiG-29K)26機、カモフKa-31およびカモフKa-28などのヘリコプター10機、計36機。
最近、インド国営銀行のATMを設置したインド海軍初の艦となった。
遼寧:中国初の空母
Thomson Reuters
全長 : 999フィート(約304メートル)
就役 : 2012年
推進システム : 蒸気タービン、ボイラー8基
中国初の空母。元は旧ソビエト海軍の空母ヴァリャーグ(Varyag)で、1985年に起工、ソ連崩壊後、1998年にマカオの企業がウクライナからスクラップとして購入した。
中国はそれ以前にも旧ソ連から、観光用として空母2隻を購入していた。当初、遼寧は実際に使用するにはあまりに状態が悪いと見なされ、中国は潜水艦の充実に注力した。
中国への引き渡しには1年以上かかったが、到着後、すぐに近代化改修が行われ、2011年に完成、2012年に就役、2016年には宮古島沖の東シナ海で訓練に参加した。
艦載機は、J-15 26機、Z-18ヘリ 12機、Z-9ヘリ 2機。
ジョージ・H・W・ブッシュ(USS George H.W.Bush):ニミッツ級、最後の艦
US Department of Defense
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 2009年
艦載機 : 90機
乗員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム:原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の10番艦、同級の最新艦であり、最後の艦。艦名はアメリカ海軍のパイロットだった元大統領にちなんだもの。「アベンジャー(Avenger)」というニックネームもある。就役は2009年5月。
2014年には「イスラム国」への空爆に加わった。
カヴール(Cavour):イタリアが保有する2艦のうちの1艦、F-35を搭載予定。
Reuters
全長 : 735フィート(約224メートル)
就役 : 2008年
搭載機 : ハリアーほか、20〜30機
乗員 : 要員451名、航空要員203名、司令部140名、揚陸部隊325名
推進システム : ガスタービン4基、ディーゼル発電機6基
2004年に進水したカヴールはイタリア海軍の旗艦。最初の任務は、2010年のハイチ地震の支援。強襲揚陸艦に近い機能を持つ。
現在搭載している老朽化したハリアーに代えて、F-35Bを搭載する予定。F-35Bを格納庫に10機、甲板に6機搭載可能。
F-35BはF-35の派生型。STOVL(短距離離陸・垂直着陸)能力を備える。
ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan):横須賀に配備
Associated Press
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 2003年
艦載機 : 90機
乗員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の9番艦。2011年の東日本大震災では「トモダチ作戦」に参加した。
2015年より横須賀基地に配備されている。以降、アジアでの数多くの演習に参加、日本をはじめ、オーストラリア、インド、韓国と演習を行っている。
シャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle):フランス海軍の旗艦、アメリカ以外で唯一の原子力空母
Reuters
全長 : 858フィート(約262メートル)
就役 : 2001年
艦載機 : 20〜40機
乗員 : 1350名、航空要員500名
推進システム : 原子炉2基
アメリカ海軍以外で唯一の原子力空母。建造時、初期は不況による財政難、中盤はイギリスによるスパイ疑惑、終盤は技術的問題など数々の問題に悩まされた。
2001年の就役後、アメリカ同時多発テロ事件のあとの「不朽の自由作戦」に加わりインド洋に展開した。
最近では「イスラム国」への空爆に参加、フランスでは「シャマル作戦(Opération Chammal)」と呼ばれている。2016年にはモスル奪還作戦に参加した。
2017年2月から改修工事を受けており、完了まで18カ月かかる見込み。
サン・パウロ(São Paulo):2000年にブラジルがフランスから1200万ドルで購入
Wikimedia Commons
全長 : 869フィート(約265メートル)
就役 : 2000年(ブラジル海軍)、1963年(フランス海軍)
艦載機 : A-4スカイホーク、S-70Bシーホークヘリなど39機
乗組員 : 1920名
推進システム : ボイラー6基、蒸気タービン4基
ブラジル海軍の旗艦。海軍力の強化を目的に、1200万ドル(12億7000万円)という破格値でフランスから購入した。元は、1959年に進水したフランス海軍の空母「フォッシュ(Foch)」、世界中での数多くのNATOの作戦に参加してきた。
ブラジルに引き渡された後、2005年から2010年にかけて改修工事が行われ、その後、S-70BシーホークヘリやA-4スカイホークをクウェートから購入した。
だが同艦は現在、運用が中止されている。数回の火災や事故に見舞われて、運用が難しくなり、退役を待っている。
ハリー・S・トルーマン(USS Harry S. Truman):イラク戦争で数多く出撃
US Navy
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1998年
艦載機 : 90機
乗組員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の8番艦。「HST」「Lone Warrior」と呼ばれている。1996年に進水、湾岸戦争後にイラク南部に設けられた飛行禁止空域を監視するサザン・ウォッチ作戦に加わり、その後のイラク戦争では1300回出撃した。
2015年には「イスラム国」への空爆を実施。同艦空母航空団は1118個もの爆弾を投下し、それまでセオドア・ルーズベルト空母航空団が同年はじめに作った記録を塗り替えた。
チャクリ・ナルエベト(HTMS Chakri Naruebet):タイ王国海軍の空母
US Navy
全長 : 600フィート(約183メートル)
就役 : 1997年
艦載機 : S-70Bシーホークヘリ 4〜6機
乗員 : 455名、航空要員146名
推進システム : ガスタービン2基、ディーゼルエンジン4基
同艦はタイ唯一の空母であり、タイ王国海軍の旗艦。陸戦部隊675名を乗せることもできる。
1994年にスペインで起工、1996年に進水。予算不足のため、ほぼドックに停泊したままだが、2004年のスマトラ沖地震、2010年と2011年の洪水の際は救援活動にあたった。
月1回の訓練のほかは、タイ王室の移動に用いられ、ほぼそれが主用途となっている。
ジョン・C・ステニス(USS John C. Stennis):映画『トランスフォーマー』に出演
US Navy
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1995年
艦載機 : 90機
乗組員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の7番艦。「ジョニー・レブ(Johnny Reb)」とも呼ばれる同艦は、ミシシッピ州の上院議員ジョン・ステニス氏にちなんで名付けられた。
映画『トランスフォーマー』に出演したことでも知られている。
ジョージ・ワシントン(USS George Washington ):200ページにおよぶ漫画の主役に
Lt. j.g. David Babka/USN
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1992年
艦載機 : 90機
乗組員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の6番艦。「GW」あるいは「G-Dub」とも呼ばれる同艦は、2008年〜2015年まで横須賀基地に配備されていた。それ以前の2000年にはペルシャ湾に派遣され、アメリカ同時多発テロ事件後のニューヨーク港で防衛任務についた。
横須賀に配備されていたときには、その任務を解説するために200ページにおよぶ漫画が作成され、3万部を配布した。
アドミラル・クズネツォフ(Admiral Kuznetsov):ロシア唯一の空母
Reuters
全長 : 1005フィート(約306メートル)
就役 : 1991年
艦載機 : 41〜53機
※スホイ33(Su-33)14機、ミグ29K(MiG-29K)28機(予定)、Ka-27PL対潜ヘリコプター15機など
乗組員 : 1960名、航空要員626名
推進システム : ボイラー8基、蒸気タービン4基
正式名称は「アドミラル・オブ・ザ・フリート・オブ・ソビエト・ユニオン・クズネツォフ」。ロシア海軍唯一の空母であり、同海軍の旗艦。
同艦は1985年に進水したが、旧ソ連崩壊後、本格的な運用が始まったのは1995年頃から。姉妹艦「ワヤーグ(Varyag)」は就役することはなく、廃船としてウクライナから中国に売却された。のちに「遼寧」となった。
クズネツォフは、シリアにおける同国の軍事作戦支援のため2016年に地中海に展開、戦闘に参加したロシア初の空母となった。同艦の艦載機は420回出撃し、1252の標的を攻撃した。
だが同艦は老朽化が進み、アレスティング・ワイヤー(着陸拘束装置)のトラブルで2機を失った。最初の事故は2016年11月、ワイヤーの修理を待っていたミグ29K(MiG-29K)が燃料切れとなり、パイロットは緊急脱出した。2回目の事故はわずかその1カ月後、スホイ33(Su-33)の着艦中にアレスティング・ワイヤーが切れた。
これらの事故を受け、クズネツォフの艦載機はシリアにあるフメイミム空軍基地から作戦を行った。
エイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln):ブッシュ元大統領がイラク戦争の「任務完了」を宣言
REUTERS/U.S. Navy/Chief Mass Communication Specialist Eric S. Powell/Handout
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1989年
艦載機 : 90機
乗組員 : 3200名、航空要員2480名
推進装置 : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の5番艦。同艦は「エイブ(Abe)」とも呼ばれる。1990年、フィリピンのルソン島にあるピナトゥボ山が噴火したときには、島民の避難活動にあたり、その後、湾岸戦争に参加した。
2003年のイラク戦争ではペルシャ湾に展開、同年5月、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は、同艦に掲げられた「Mission Accomplished(任務完了)」という横断幕の前で終結宣言を行った。
2017年、4年におよんだ核燃料棒の交換および近代化改装が完了。
セオドア・ルーズベルト(USS Theodore Roosevelt):湾岸戦争では4000回以上出撃
Jackie Hart/US Navy
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1986年
艦載機 : 90機
乗員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の4番艦。同艦は「TR」または「ビッグ・スティック(Big Stick)」と呼ばれ、湾岸戦争において同空母航空団は4000回以上出撃、480万ポンド(約2200トン)もの爆弾を投下した。
2001年にはアメリカ同時多発テロ事件後の「不朽の自由作戦」、さらに2003年にはイラク戦争に従事した。
2013年にはボーイングが開発中の無人機(UAV)X-47Bのテスト(カタパルト射出や着艦)にも使われた。
「イスラム国」との戦いでも重要な位置を占め、同空母航空団は1800回以上出撃、1085発を超える誘導爆弾を投下した。
ジュゼッペ・ガリバルディ(Giuseppe Garibaldi):コソボ、リビア、アフガニスタンでの作戦に従事した、イタリア海軍の元旗艦
Associated Press
全長 : 591フィード(約180メートル)
就役 : 1985年
艦載機 : ハリアーII、アグスタウェストランドEH101ヘリコプター
乗員 : 要員630名、航空要員100名、司令部100名
推進システム : ガスタービン4基
イタリア初の空母で、就役は1985年。コソボ、アフガニスタン、リビアでの作戦など、様々な作戦に従事した。
艦載機のハリアーは1999年、バルカン半島に30回出撃。アフガニスタンでの不朽の自由作戦の最初の年に288回出撃した。
カール・ヴィンソン(USS Carl Vinson):甲板で大学バスケットボールの開幕戦
US Navy video by Mass Communication Specialist 3rd Class Matt Brown
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1982年
艦載機 : 90機
乗組員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の3番艦。艦名は第2次世界大戦中に海軍力の増強に努めたカール・ヴィンソン下院議員にちなんだもの。また同艦は「Starship Vinson」「Battlestar」「The Gold Eagle」「America's Favorite Carrier」など数々のニックネームを持つ。
2011年、ビン・ラディンの遺体は同艦で運ばれ、アラビア海で水葬された。また同年、NCAA(全米大学体育協会)男子バスケットボールの開幕戦が同艦甲板上で行われた。
2014年には「イスラム国」に対する作戦に参加してペルシャ湾に展開。同空母航空団は1万2300回発艦、うち2382回が戦闘任務であり、50万ポンド(約230トン)以上の爆弾を投下した。
ドワイト・D・アイゼンハワー(Dwight D. Eisenhower):イランアメリカ大使館人質事件で活躍
US Navy
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1977年
搭載 : 90機
乗員 : 3200名、航空要員2480名
推進システム : 原子炉2基、蒸気タービン4基
ニミッツ級空母の2番艦。「マイティ・アイク(Mighty Ike)」とも呼ばれる同艦は、1979年に起きたイランアメリカ大使館人質事件の対応にあたった。
ニミッツ(USS Nimitz):ニミッツ級空母の1番艦
Aiyana S. Paschal/US Navy
全長 : 1092フィート(約333メートル)
就役 : 1975年
艦載機 : 90機
乗員 : 3200名、航空要員2480名
推進装置 : 原子炉2基、蒸気タービン4基
「オールド・ソルト(Old Salt)」と呼ばれる同艦は、ニミッツ級空母の1番艦。艦名は第2次世界大戦中に海軍を率いたチェスター・ニミッツ元帥にちなんだもの。
1980年のイランアメリカ大使館人質事件ではインド洋に派遣され、1988年のソウルオリンピックでは警戒任務にあたった。1997年から1998年にかけて、世界一周の航海を行った。
最近では2017年11月、ロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルトとともに、海上自衛隊の艦艇と共同訓練を行った。
[原文:These are the 20 aircraft carriers in service today]
(翻訳:本田直子、編集:増田隆幸)