裏方だからこそ、力がなくては役に立てない/トランスコスモス吉止幸路さん、石井美彩さん
cafeglobeより転載(2018年02月19日公開の記事)
ずらりと並ぶと圧巻、彼女らは皆トランスコスモス社の役員秘書、そしてアシスタントだ。秘書と聞くとどんな人物像をイメージするだろう。華やかな空気をまとった肩書ではあるが自身が前に出ることはない。また一見、事務的な作業が多いが、企業の命運を左右する重要人物を支える仕事だけに社内外に与える影響は大きい。
顧客企業3000社、全世界従業員数4.7万人(契約社員含む)と日本にも海外にも多くの取引先や従業員を抱え、さまざまな分野でITを活用したサービスを提供するトランスコスモス社。同社の役員秘書の二人に、秘書として必要なスキルややりがいを聞いた。
優先順位を大事に、でもとらわれ過ぎずに
「仕事の中でうれしい瞬間は、たくさんのアポイントの日程調整がパズルゲームのようにうまくはまった時ですね」
同社で会長と社長の秘書を10年以上務めてきた吉止幸路さんは艶やかな笑顔でほほえんだ。しかし、ゲームのようにとは言うものの、現実に吉止さんが扱うブロックの数はゲームの比ではない。
「一度に10件ぐらいまとめて入ってくるのはふつうです」
10件もの調整を抱えていたら、どんなに急いでもどんどん次のアポイントの要請がたまっていってしまいそうだ。どうやって多数のタスクを同時に、なおかつスピーディにこなしているのだろうか?
「まずは優先順位の高いものを選び、緊急かつ重要なタスクから決めていきます。でも相手もあることなので、重要なものだからといってすぐに決まるとは限りません。その時、決まるまで、スケジュールを仮押さえして、その期間、他には手をつけないでおくと全体が遅れて、結局すべての選択肢を狭めることになってしまう。最初に決めた優先順位に固執し過ぎず、素早く決めていく決断力、臨機応変な判断力も問われるのかなと思います」
重要度だけでなく速さも重視するには理由がある。「他社の方からこちらにアポイント依頼があった際、『あ~! 1分前にご連絡いただいていたらその日時でも大丈夫だったのに』という状況がよくあります。なので、自分自身は1分でも1秒でも速い対応を常に心がけています。時間との勝負ですね」
会長や社長が動く案件だからこそ、その一件のアポイントが入れられたか否かで大きなビジネスが得られたり失われたりする可能性もある。アポイント調整の段階から大きな責任が生じていることを、吉止さんは肌身で感じている。
役員にあがってくる資料には事前にすべて目を通す
いざアポイントがとれ、役員が取引先へ出かける時には、担当部署からこれまでの経緯や課題をまとめた資料があがってくる。吉止さんはその資料すべてに目を通し、状況を把握し、また、資料に誤りや抜けがないかをチェックして、内容に相違があれば担当者に戻している。
「役員が取引先の方と会った後に社内で検討すべき課題を持ち帰ることも多いですから、それを滞留させずに社内の適切な担当者につなぐのも私の仕事です」
役員の目となり耳となり、手足となって、役員の仕事が最大化されるように支える役員秘書。立ち居振る舞いや言葉遣いの美しさはもとより、緻密で丁寧な仕事ぶりが光る。
どんな時間も自分の糧に
吉止さんの朝は早い。毎日5時には起きて、30分で食事とメールのチェックを済ませ、外へ走りに出かける。なんと、毎日6km、土曜日は21km!
「出社時間が早かったので、以前から毎朝5時に起きていましたが、7年前から早朝出社がなくなったので、その時間で走ってみようかなと思って。走るのは大嫌いだったのですが、始めてみたら習慣になってしまい、驚くほど健康的な体になりました」
吉止さんは、実はこんなこともやっているんです、と一枚の名刺を見せてくれた。名刺に記された肩書は「一級フードアナリスト」。食に関する幅広い知識を身につけ、わずかな差を見分ける味覚を鍛えなくては取れない資格だ。
毎日早朝に起きて走り、職場では秘書として第一線で活躍し、さらに空いた時間は自分磨きに使う。でも「自己研鑽のためにがんばっています!」という力みは感じられない。どんな時間も自分の糧になることのために使うのが、吉止さんにとって自然な過ごし方なのだろう。
単なる英訳なら誰でもできるけれど
石井美彩さんはいま、取締役 副社長執行役員(以降副社長)秘書として働き始めて2年半。幼いころのアメリカ生活や前職でのシンガポール駐在経験をいかして、主に副社長の業務をサポートしつつ、上席常務執行役員、常務執行役員の秘書も務める。
トランスコスモスは現在海外に16,000名を超える従業員を抱え、そのほとんどは日本語を母国語としない。そのため、海外事業の責任者も務める副社長の言葉に的確な英語訳を添えて発信するのも重要な役割のひとつだという。
「副社長の言葉を英訳する時は、副社長が伝えたいニュアンスに近い表現はどれだろうと徹底的に考えます。それは、単語選びだけでなく、文の構成や句読点の使い方まで、伝えたいメッセージを伝えるためときには大きく全体の流れを変えることもします。海外にいる方からは副社長の表情や様子は見えないので、文章に表情をのせることを意識しています。読み手はそれを副社長の生の言葉だと思って読みますから、事実があっていればOKではなく、どこに重点をおいているのか、どのような気持ちで言っているか、どのように思ってほしいから言っているのかが伝わるように中継しようと心がけています。それを瞬時に理解するには、普段から資料を読んだり会議に同席したりすることも欠かせないんです」
英語を流暢に操れる人ならいくらでもいる。しかし副社長が普段から大切にしていることや事業の現状をふまえた上で中継ができる人は秘書をおいてほかにいない。
「会議で通訳する時も、そこで話題になっている数字がいま当社にとってどんな意味をもつのかわかっているかいないかで訳し方が変わると思うんです。だからこれからも事業全般への理解を深めて、『この人でなくては』という存在になっていきたいですね」
段取りに必要なのは「想像力」
秘書には段取り力も求められると思う、と石井さんは言う。
「重要な会議が始まってから、この流れだったらあの資料があればよかったな、あの人にも参加してもらうべきだったな、と気づくのはもったいないですから。最初から必要だとわかっているものを用意するだけではなくて、想像力を駆使して必要になりそうなもの・人を洗い出し、会議の日から逆算して準備を進める。担当役員に唐突に手配をお願いされたものが、先読みによってすでに手元に用意できていたりすると嬉しいですし、やりがいを感じます」
「私は裏方ですから」と繰り返しつつ、言葉の端々から、会社の命運を左右する人を支えている責任の重さがにじみ出る。
「人を支える仕事だからこそ、自分自身に力がなくては役に立てないと思うんです」
鈴を振るような石井さんの声には、凛とした響きがあった。
オフィスの私物からもふたりの人柄が垣間見える。左:吉止さんは、上司がハリウッドに出張したときのお土産「セクレタリー・オブ・ザ・イヤー」のトロフィーをデスクに。「半ばジョークなお土産アイテムですが、いちばんの秘書だから! と笑顔でくださったのが嬉しくて」。処方にこだわったドクターズコスメも常備。右:「仕事柄メイク直しをしないですむメイクを心がけています。最近お気に入りのbeautyblenderのスポンジはとにかく優秀。メイクの持ちが格段に良くなるので、海外でまとめ買いしています」
文/江口絵理、写真/今村拓馬
Sponsored by トランスコスモス株式会社