Facebookなどソーシャルメディアが厳しい批判にさらされ始めた。
その支配的な規模ゆえに、ソーシャルメディアに投稿された暴力的なイメージのシェアや意図的な政治的広告が民主主義や社会秩序に悪影響を及ぼしているという批判だ。
フロリダ州で起きた高校での銃乱射事件。犠牲者の死を悼み、十字架の前で悲しむ生徒たち。
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ベッドの上に並べられた複数の銃。血を流したカエルの死体、自傷の写真……。
フロリダ州パークランドで2月14日、母校の高校生ら17人を銃殺したニコラス・クルーズ容疑者(19)は約1年前からInstagram(インスタグラム)などソーシャルメディアに、乱射事件につながる「予告」を残していた。YouTubeには「僕は、プロの学校襲撃者になる」というコメントもしている。
ニコラス・クルーズ容疑者(左)はYouTubeで殺人を「予告」していた。
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クルーズ容疑者はFacebook、Instagram、YouTubeに実名でアカウントを持っていた。Facebookは事件後、彼のアカウントを削除。「予告」とも取れるYouTubeコメントは、別のユーザーが「スパム」告発をしたために、かなり以前に削除されている。
ソーシャルメディア各社は、殺意や暴力などの懸念がある投稿に対し、アルゴリズムや人工知能(AI)、監視の人手を強化し、削除しているとする。しかし、アルゴリズムでユーザーの気を引くニュースや広告を管理できるシステムがある時代に、投稿をもっと厳しく監視することがなぜできないのか、という声が急速に高まっている。悪意に満ちた暴力的な投稿が、パニックなどの混乱を引き起こす可能性さえあるからだ。
一方、クルーズ容疑者の危険な投稿を見た人物が、連邦捜査局(FBI)に通報していたことも分かった。FBIは手違いから、通報を確認する調査を怠っていたことを認め、なぜそのような“失態”が起きたのか原因を探る内部調査が始まっている。
議会は偽アカウント販売会社への調査要請
ローゼンタイン米司法副長官は、2016年の米大統領選にロシアが不正に介入していた疑惑で、ロシア人やロシア企業を起訴したと発表した。
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フロリダ州での銃撃事件と同じ週、もう1件、ソーシャルメディアの信頼性を揺るがす事件が起きた。
2016年の大統領選挙にロシアが不正に介入していた疑惑に関して、ロバート・モラー特別検察官は2月16日、「アメリカ国民を分裂させようとした」として13人のロシア人と企業3社を起訴したと発表した。アメリカ人活動家のふりをして、ヒラリー・クリントン民主党候補の名誉を傷つけたり、批判する情報などを、Facebook、Instagram、Twitterのアカウントから拡散させたとしている。
「アメリカ人は、ロシア人とコミュニケーションしていることを知らなかったのです」と、同日会見したロッド・ローゼンスタイン米司法副長官。司法副長官の発言と起訴状からは、何も知らないアメリカ有権者がロシア人が流す情報にソーシャルメディアによって簡単に影響されていたという「怖さ」が浮かび上がる。
「トランプ候補をフランシスコ・ローマ法王が支持した」などというフェイク(捏造)ニュースを、ソーシャルメディアが大統領選挙戦中に頻繁に拡散したことは、すでに知られている。 ダン・コーツ米国家情報長官は議会で、ロシア政府が2018年11月の米中間選挙にまで介入しようとしていると証言し、衝撃を呼んだ。
こうした中、アメリカの議会も動き出している。
ジェリー・モラン上院議員(共和、カンザス州)とリチャード・ブルーメンソール上院議員(民主、コネティカット州)は、連邦取引委員会(FTC)に対して、TwitterやYouTubeなどの偽のソーシャルメディア・アカウントを販売する企業を調査するよう要請した。こうした企業の暗躍で、偽アカウントが取得しやすくなっている可能性を探るためだ。マーク・ワーナー上院議員(民主、バージニア州)らは、ソーシャルメディアの政治広告を透明化する法案に取り組んでいる。
FBの偽アカ投稿を目にしたのは1億5000万人
ソーシャルメディアに対する目が厳しくなっている中、メディア側の対応にも注目が集まっている。
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2017年11月、Facebookなど大手3社は下院情報特別委員会で証言、その内容に議員もアメリカ国民も驚がくした。ロシアが仕組んだ偽広告を見たユーザーは1000万人に上り、偽アカウントからの投稿は拡散によって1億5000万人が目にしたという数字も明らかになった。
Facebookはそれまで、偽広告などが全体に占める割合はわずかだとしていた。しかし、拡散によって偽広告を目にするユーザー数は、「わずか」ではなくなる。
ソーシャルメディアが精神衛生に及ぼす影響についても、過去に多くの調査結果が出ている。接している時間や接し方によって、偽アカウントからの影響を受ける度合いも異なるため、精神衛生との関係も今後クローズアップされるだろう。
フェイスブックは2017年12月、公式ブログで「流し読みなど受け身の姿勢で利用し、人々と交流していないと、精神衛生に悪影響を与えることもある」とした。インターネットというテクノロジーが、人々と交わることから遠ざけてしまうからだという。一方で、友人の投稿をシェアしたり、コメントしたり、ソーシャルメディアを積極的に使うことは、「ウェルビーイング」(健康、幸福)につながるとした。ブログは、ミシガン州立大学など複数の大学で学生を対象に行った調査に基づいている。
食品・日用品大手のユニリーバは、グーグルやFacebookへの広告掲載の中止を検討していることも明らかになった。CNNによると、「ソーシャルメディアに不快なコンテンツが増殖し、子どもを保護する手段もない現状が社会の信頼感を低下させ、民主主義を損なっている」ことが理由だという。
2017年のデジタル広告に占める割合はグーグルとFacebookの2社で6割を超える。世界有数の広告主にこうした動きがあることは、今後ソーシャルメディアにどんな影響を与えるのだろうか。
(文・津山恵子)