携帯電話などで読み取ることでお馴染みの「QRコード」とはそもそも何なのか?(写真のQRコードを読み取るとBusiness Insider Japanトップに飛びます)
スマートフォンを利用している人なら、アプリのダウンロードなどで一度はQRコードを読み取った経験があるはずだ。近年では、「Alipay」や「WeChat Pay」といった中国系のモバイル決済での利用が盛んになるなど、俄然注目度が高まっている。
国内でも、従来のQRコードを使った特殊な事例も登場している。沖縄のゆいレールなどでは、リーダーの特殊な読み取り光のみ通す特殊インクでQRコードの一部を塗りつぶし、コピーによる複製を防止している。
沖縄「ゆいレール」の切符も新しいQRコードの使い方の実例のひとつだ。リーダーの特殊な読み取り光のみ通す特殊インクでQRコードの一部を塗りつぶし、コピーによる複製を防止している。
北九州モノレールもゆいレールと同様の仕様で、代表的な活用例だ。
このQRコードを発明し、特許を保持しているのは日本企業のデンソーウェーブ(本社・愛知県)だ。もともとは自動車部品メーカーのデンソーの1部門だったが、2001年10月に2次元バーコードに関する部門と産業用ロボットの部門が同時に分社化し、設立された。
デンソーウェーブはモバイル決済によって再燃したQRコードブームのおかげでさぞかし儲かったのでは……と考えたくなるが、実はそんな単純な話ではないという。
驚くことに、デンソーウェーブはQRコードそのもののライセンス料では1円も儲けるつもりがない……というのだ。では、QRコードビジネスは一体どんなものなのか? デンソーウェーブに聞いた。
「あるモノ」を売るためライセンスフリーになった
デンソーウェーブ AUTO-ID営業部 マーケティング室 エンジニアリング部 コトづくり推進室 担当課長 田野敦氏。
簡単に読み取れて、汚れにも強いQRコード。もともとは、工場での部品や製品の管理用として開発されたものだが、現在のようにアプリダウンロードのコード表示からモバイル決済まで広く使われるようになったのは、使用にライセンス料を徴収しない「ライセンスフリー」という点も大きな理由だ。
なぜ、デンソーウェーブはQRコードをライセンスフリーで利用できるようにしたのか。
AUTO-ID営業部コトづくり推進室担当課長の田野敦氏によると「(当初は)QRコードを読み取れるリーダーを売るのが主な目的で、QRコードでお金を取ろうとは思わなかった」のだという。
業界で広くQRコードが利用されるようになれば、当然QRコードを読み取るリーダーが必要になる。QRコードを含む2次元バーコードリーダーを開発している同社は、そこをビジネスにしようとしたわけだ。
ちなみに、QRコードはライセンスフリーと言っても、その範囲は「ISO/IEC 18004」で定められている国際標準規格の範囲内のみとなっている。国際標準規格の範囲内であれば無料で利用できるというだけで、もしその規格を逸脱してしまうと、デンソーウェーブの特許権を侵害することになる。実際に過去に規格を逸脱したQRコードを使用する事案がいくつかあり、その都度、注意喚起を行ってきた経緯がある。
収益の柱はクラウドソリューション「Q-revo」
デンソーウェーブの新しい収益の柱、それが「Q-revo」だ。
当初はバーコードリーダー販売をビジネスの出口にしようとしたが、携帯電話やスマートフォンなどの読み取り機能が普及したため、バーコードリーダー販売をビジネスの主軸に据えることは困難になった。
そこでQRコードビジネス収益化の新しい柱として進めているのが、2014年より提供している「Q-revo」と呼ばれるクラウドソリューションだ。Q-revoは、QRコードの作成や管理、分析ができる。
Q-revoで提供している代表的な2つの機能は、一般にはあまり知られていないQRコードのもう1つの姿だ。
1. セキュリティー機能を強化したQRコード「SQRC」
現在では、スマートフォンでQRコードが読み取れるのは当たり前。インフラ的な存在になって求められるのは「セキュリティー機能の一層の向上」という課題だ。そこで同社は、セキュリティーを強化したQRコードを開発し、Q-revoで出力できるようにしている。
セキュリティー機能搭載QRコード「SQRC」
SQRCは、許可された特定のリーダーでのみデータを読み取れる、特殊なQRコードだ。2007年に開発され、Q-revoでも作成できる。
SQRCの見た目は、普通のQRコードと変わらない。しかし、通常のリーダーで読み取れるコードと、仕様が非公開となっているコードが組み合わされており、実は特定のリーダーでのみ全てのデータが取得できるようになっている。
SQRCを一般的なQRコードアプリで読み取った結果。「123456」と表示された。
一方、SQRCをデンソーウェーブ公式アプリ「QRコードリーダー"Q"」で読み取るとこうなる。数列のほかに「電装波男、男、35歳」というテキスト情報が表示。これは、このSQRCが、公式アプリでの読み取りを許可しているためだ(読み取り非許可のSQRCを公式アプリで読み込んでも公開領域の情報しか読み取れない)。
デザインの幅も広げられる「フレームQR」
最近、イラストが一部に組み込まれているQRコードを目にする機会も増えている。それらは従来のQRコードの誤り訂正機能(最大30%まで汚れなどがついても読み取れる機能)を応用したものだが、利用基準から外れており、推奨しないという。そこで、自由にデザインが可能なQRコードとして、2014年に「フレームQR」が開発された。
フレームQRは、QRコード上に自由にデザインできる“キャンバス領域”が備わった最新のQRコードだ。キャンバス領域には、ユーザーがイラストなどを自由に挿入できるので、デザイン性に優れたQRコードを作成できる。もちろん、QRコード本来の誤り訂正機能はそのままだ。
このフレームQRはQ-revoでしか作成できない点も大きな特徴だ。これによって、優れたセキュリティー性だけでなく、管理や分析なども容易に行えるようになっている。
フレームQRの一例(写真右)。サードパーティー製アプリで読み取るとデンソーウェーブ公式アプリのインストールが促され、純正アプリで読み取るとQ-revo上で指定された動作をする。
2. クラウド連携するQR、マーケティング分析や商品の偽造防止に活用
フレームQRにはデザイン面の自由度以外にも、セキュリティー面で欠かせない「偽造に強い」という重要な機能がある。
通常のQRコードは、QRコードを読み取った端末内で解読される。セキュリィー機能を強化したSQRCも、特定リーダーのみに限られるものの、端末でデータが解読される点は同じ。しかし、フレームQRはデータの解読は全て“Q-revoサーバー上”で行われる。
ここがポイントで、フレームQRは作成から解読まで、全てQ-revoサーバー上で行われるため、作成者や作成日時はもちろん、読み取り日時や読み取られた位置情報までサーバーに保存される。これにより、単に印刷したバーコードでありながら、非常に優れたセキュリティー性を実現できる。
ユーザーはフレームQRから暗号化されたデータを読み取り、Q-revoサーバーに送ることで実際のコンテンツなどを目にすることができる。
例えば、製品にフレームQRを添付しておくことで、そのフレームQRがまるごとコピーされたものだったとしても製品の真贋を容易に判定する、といった用途が考えられる。
先に紹介したように、中国ではモバイル決済など様々な用途で標準のQRコードが使われている。しかし、同社によると爆発的な普及の裏では、なりすましや偽造といった問題も頻発しているという。仮にフレームQRを使えば、そういった問題は発生しないと、田野氏は指摘する。偽造品の防止やQRコードを利用した決済用途など、優れたセキュリティー性が求められる活用シーンは増えているが、フレームQRならそういった要求にも柔軟に対応できるとしている。
また、フレームQRはクラウドと組み合わせて使うため、いつどこで読み取られたのかといったログも収集できる。これも従来のQRコードとは大きく違う部分で、「利用動向の分析」からマーケティング戦略を立てることもできるという。
フレームQRで読み取ったデータ分析の一例。読み取ったスマホから、時間と位置情報を収集できるため、マーケティング用途のほか、海外からの並行輸入や海賊版などの監視といったことにも使えるとのこと。
「生体認証入りQRコード」という使い方も
QRコードの時代に合わせた進化という点では、生体認証への応用もある。具体的には、顔認証と組み合わせ、銀行での個人認証用途にも活用されはじめているそうだ。
時代に合わせていろいろな用途に対応する機能を増やしながらも、根本の「ただ紙に印刷するだけでOK」という手軽さは不変、これこそがQRコード技術がもつポテンシャルだ。日本が世界に誇る技術の進展は、今後も注目していきたい。
たとえば、イベントのプレスチケットのQRコードに生体認証を埋め込むとする(SQRCのため、顔の特徴点データは一般のアプリでは読み取れない)。
専用アプリでQRコードを読み取り後、顔にカメラを向ければそれだけで顔認証が完了する。運営側が生体データをサーバー側で管理しなくてすむので、管理コストや漏えいリスクが軽減される。
(文・平澤寿康/撮影・小林優多郎)