アマゾン本社ができて、地元の店が消えたシアトル —— 第2本社でも同じことが?

サウス・レイク・ユニオン地区の建設工事

アマゾン本社がある、シアトルのサウス・レイク・ユニオン(South Lake Union)地区で行われている建設工事。

Harrison Jacobs/Business Insider

アマゾンは20年で、ジェフ・ベゾスのガレージで誕生したスタートアップから、世界最大のテック企業へと成長した。

同社は1990年代後半に、本社をワシントン州シアトルに構えた。現在、本社の従業員数は4万人、面積は810万平方フィート(約75万平方メートル)にのぼる。

アマゾンの存在はシアトルを根本的に変えてしまったと、シアトル生まれ、36歳のシンシア・ブラザーズ(Cynthia Brothers)は語った。ここ数年、地元で愛されてきたコーヒー・ショップ、食料雑貨店、レストラン、バーが大規模な再開発のためにどんどん閉店していると彼女は指摘した。

ブラザーズと多くの都市化の専門家は、アマゾンの台頭は住宅費の高騰や交通量の増加、絶えず続く建設とともに、自営の店の廃業の要因になっていると主張する。

高級化するシアトルの風景に刺激され、ブラザーズはInstagramに「Vanishing Seattle(消えゆくシアトル)」を開設した。古くからあった店の幕引きの記録だ。これらの写真によって、アマゾンが「HQ2(第2本社)」と呼ぶ新本社の建設地に選ぶ都市の将来の姿が見えてくる。

Vanishing Seattleの写真を見てみよう。

ブラザーズは2016年に「Vanishing Seattle」を始めた。

Vanishing Seattle

eighth_generation/Instagram


最初の投稿は、ドラッグ・クイーン、アターシャ(Atasha)の動画。古くからあったレストラン・バー、Inay’sの最終営業日の夜に、映画『ドリーム・ガールズ(Dream Girls)』の「And I'm Telling You I'm Not Going」を歌った。

Inay’sは、シアトルのアジア系アメリカ人やLGBTコミュニティが集まる場所として人気の店だったとブラザーズは記した。

Inay’sの閉店は、家賃の値上がりが原因 —— アマゾンがシアトルで大きくなるにつれ、増えつつあること。

アマゾンのキャンパスにある広場に立つ男性

アマゾン本社にある広場に立つ男性。2017年4月27日。

AP


2000年以降、この地域では新たな雇用が9万9000件生まれた。その30%がテック系の雇用で、建設ブームの要因にもなっている。シアトル最大の固定資産税納税者であり、民間企業であるアマゾンは、スキルの高いテック系人材の流入に拍車をかけている。

サウス・レイク・ユニオン地区にある通り

アマゾン本社があるシアトルのサウス・レイク・ユニオン地区にある通り。

Harrison Jacobs/Business Insider

出典:The Seattle Times (12)

他のスタートアップもテックブームに乗ろうと、シアトルにやって来るようになった。

シアトルのサウス・レイク・ユニオン地区にある通り

アマゾン本社があるシアトルのサウス・レイク・ユニオン地区にある通り。

Harrison Jacobs/Business Insider


ビルが不足し、家賃の引き上げにつながった。結果として、古くからの住人や店が追い出されてしまった。

ビバ・ザ・サンライト・カフェ

シアトルで最も古いベジタリアン・レストラン、ビバ・ザ・サンライト・カフェ(Viva The Sunlight Cafe)。

crosscut_news/Instagran

街の高級化と小規模な店の倒産の関連は複雑だが、多くの自営の店は、急騰する家賃のプレッシャーに晒されているとブラザーズは語った。

サウス・レイク・ユニオン地区(地元民が「アマゾニア(Amazonia)」と呼ぶ地区)のアマゾン本社の近くでは最近、ハリケーン・カフェ(Hurricane Cafe)がアマゾンによって買収され、解体された。同社はここに、2棟のオフィス・タワーを建設する計画。

グリーンレイク

閉店したシアトルのバー、グリーンレイク(Greenlake)。

Vanishing Seattle


近くにある、50年続いた13コインズというバーは、再開発のため、1月1日に閉店。2、3週間前にはトゥー・ベルズ酒場も閉店した。

トゥー・ベルズ酒場

閉店したシアトルのバー、トゥー・ベルズ酒場。

Vanishing Seattle

トゥー・ベルズの閉店は「大打撃」とブラザーズ。

ブラザーズは、立ち退きはアマゾニアだけでなく、シアトル全域で起こっていると言う。

「The rent  is so high. It is time to say good bye.(家賃が高すぎるので、閉店します。)」と書かれた看板

閉店したシアトルのアンティーク・ショップ、アンティークス・アット・パイク・プレイス(Antiques at Pike Place)。

Vanishing Seattle


セントラル・エリアでは、5、6軒の主に黒人系移民による店が地域に深く根差し、人々が集まる場所となっている。

ビンテージ・グラフィティ

シアトルで取り壊されたばかりのビルに描かれた落書き。

Skkyphoenix/Instagram


プロムナード23というショッピングセンターは、食料雑貨品店のレッド・アップルを中心に構成されていた。

レッド・アップル

今はなきプロムナード23にあった、レッド・アップル。

Vanishing Seattle


2017年、マイクロソフトの共同創業者ポール・アレンのバルカン・リアル・エステートがその所有権を購入、530戸の住居に生まれ変わる予定。以下は完成予想図。

開発の完成予想図

Vulcan Real Estate and Studio 216


第2本社の建設地として選ばれる都市の小さな店も、開発によって脅かされるはずだ。根拠はある。

ザナドゥ

閉店したコミック店、ザナドゥ(Zanadu)。

Vanishing Seattle

不動産サイトのアパートメント・リスト(Apartment List)は最近、第2本社が候補地となっている15都市に与える潜在的な影響を検討した。その結果、家賃が年間最大2%引き上げられる可能性が明らかになった。

レポートによると、第2本社の誘致により最も家賃が上がるのは、ノースカロライナ州ローリー(年間1.5~2%)とペンシルバニア州ピッツバーグ(年間1.2~1.6%)。

シアトル生まれのブラザーズは、地元から定番スポットがなくなり続けていくのではないかと心配している。

M & Lレコーズ・アンド・モデルズ

家族経営のホビー・ショップ、M & Lレコーズ・アンド・モデルズ(M & L Records and Models)。

daniellekuhlmann/Instagram

アマゾン本社については、「見せかけのご近所」を作っただけと彼女は述べた。

フェリックス・ビルディング

フェリックス・ビルディング(Felix Building)。

Vanishing Seattle

「誰も仕事の後や週末に出かけない。今、そこにあるものは? おしゃれな家具ショップと、月200ドル(約2万1000円)もするフィットネス・クラブ。文化不毛の地になってしまった」

「カウンターカルチャーはどこへ行ってしまうのだろうかと不安になる」とブラザーズ。「それがシアトルのカルチャーだった。テクノロジーや利便性、消費、そして破壊や革新だけではない都市を作らなければならない」

「And I'm Telling You I'm Not Going」を歌うドラッグ・クイーンのアターシャ。

(敬称略)

[原文:Photos show how Seattle’s favorite businesses vanished after Amazon showed up — and it could be an omen for the HQ2 city

(翻訳:Ito Yasuko、編集:増田隆幸)

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