パルコやダイキンの「AI導入」最前線、支援するのはAIベンチャーABEJA:SIX2018

ABEJA SIX2018

2012年に設立されたAIスタートアップ企業のABEJA(アベジャ)が、初となる大型自社イベント「SIX 2018」を開催した。ABEJAは小売向けのAIプラットフォームを提供する、AI/深層学習(ディープラーニング)に長けたベンチャーとして注目されている。SIXで登壇したパートナー企業らは、まさに産業向けの最新のAI活用事例といえるものだ。

「AIはテスト段階から実用段階に入った」

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株式会社ABEJA社長CEO兼CTO 岡田陽介氏。

このイベントでABEJAは、複数の大きな発表をしている。従来は試験運用としてきたクラウドプラットフォーム(PaaS:Platform as a Service)の「ABEJA platform」を正式版としてリリース。新しいSaaS(Software as a Service)として製造業向けの「ABEJA Insight for Manufacture」、インフラ業界向けの「ABEJA Insight for Infrastructure」も発表した。

ABEJA Platformは、言ってみればグーグルが提供しているGoogle Cloud Platformの「Google Cloud Machine Learning」、アマゾンが提供しているAmazon Web Service(AWS)の「Amazon Machine Learning」と同等のサービスだと考えればわかりやすい。

同社の狙いは、既存サービスの成功をベースにして、主要顧客をこれまでの小売店から、製造業やインフラ業界にも広げ、次の成長を目指すことだ。

ABEJA社長兼CTOの岡田陽介氏は「SIX 2018」の基調講演の中で、

「2018年は日本におけるAI運用元年になる。これまでのAIはほとんどがテスト運用で、なかなか実用に至っていなかった。そこにはAIに詳しいエンジニアが足りない、実運用しようとすると乗り越えるべき“闇”があった。しかし、我々のABEJA PlatformなどのPaaS、ABEJA InsightのSaaSを使っていただくことで、そうした闇を乗り越えて実運用が可能になる」

と述べ、同社のサービスを活用することで、AIをビジネスに適用できるとアピールした。

実際、ABEJAは急成長を遂げている。同社は2012年に岡田氏を中心に創業されたベンチャー企業で、クラウドベースのAIソリューションを顧客に提供している。創業時は社員数3人、資本金100万円だった同社は、この6年間で急成長。現在は社員数70人、資本金約11億4851万円の企業になった。

出資している企業の顔ぶれは、NTT、さくらインターネット、セールスフォースなどの他、いまやAIの研究開発にはなくてはならない半導体を製造しているNVIDIAとも、2017年5月に資本業務提携を発表している。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOと言えば、ディープラーニング/AI界隈ではスター経営者だが、そのフアン氏のお眼鏡に適ったベンチャー企業がABEJAということだ。

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ABEJAの6年の歩み。NVIDIAとの業務提携は、NVIDIAがアメリカで主催するイベント「GPU Technology Conference(GTC)」での発表だった。

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ABEJAが主張するGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のAI開発環境との違い。「ABEJA Platformでは、課題となっている(AIを学習させるための)“教師データ”の作成をより簡単に行う仕組みなどを提供して、顧客ニーズに応えていく」と岡田氏。

ABEJAが支援する日本企業の「AI導入」の実例

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ABEJA Insightの解説。

今回のSIX 2018で発表した「ABEJA Insight」は、AIのアプリケーションだ。これまでは小売店向けに「ABEJA Insight for Retail」を提供してきた。ABEJA Insight for Retailを使うと、例えば来店した顧客の年齢や性別などをカメラの画像などから判別して、来客情報の分析データとして活用できる。

今回新たに小売店向けの“for Retail”に加えて、製造業向けの「ABEJA Insight for Manufacture」、インフラ業界向けの「ABEJA Insight for Infrastructure」が追加された。

ディープラーニング技術を中核とした最先端のAI活用にはどんなものがあるのか? SIX 2018では、ABEJAの顧客の事例が多数紹介された。基調講演で紹介されたのは、LIXIL、パルコ、武蔵精密工業の3社だ。

LIXILのAI活用:キッチンでのユーザー行動観察を3カ月→3日に短縮

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LIXIL理事/マーケティング本部デジタルテクノロジーセンター長・安井卓氏。

LIXILは住宅設備を販売するグローバルメーカーだが、AI導入によって、ユーザーのキッチンでの行動を観察したり、コールセンターの回答品質の安定化、工場での生産能力の改善などができないか検討していた。

LIXIL 理事/マーケティング本部デジタルテクノロジーセンター長・安井卓氏は「例えば、ユーザーのキッチンでの動きを観察するというやり方の場合、ビデオを見ながら人手で1つ1つ書き起こしており、従来は3カ月程度時間がかかっていた。それがAIを活用することで3日に短縮することができた」とそのメリットを説明した。

安井氏によると、従来はAIの構築にはエンジニア雇用など人手の確保が大きな課題だったが、ABEJA Platformを導入することで、人件費を最小限に抑えながら構築できたという。

パルコのAI活用:上野「PARCO_ya」でほぼ全ショップをAIで来店客分析

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パルコ 執行役/グループICT戦略室担当・林直孝氏。

パルコ 執行役/グループICT戦略室担当・林直孝氏は「小売店にとって大事なことは、しっかりとした接客。そこで、AIを活用して接客を拡張していくことが課題だった。最新の店舗であるPARCO_yaではABEJA Insight for Retailを導入して、ほぼすべてのショップで、ショップ毎の入店客数、属性、買上率などを分析データとして提供している」と語る。

今後は来店客の分析にさらに活用していくことで、スマートフォン向けのアプリを作ったり、近距離無線通信タグ「RFID」を活用した在庫管理や、さらにはVR/ARの活用と様々な接客のデジタル化を検討していると、林氏は説明した。

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パルコはまず店舗内のさまざまなデータを統合し、一元的にAIで分析・活用することでビジネスを加速させることを目論む。

武蔵精密工業のAI活用:AIで検品を自動化

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武蔵精密工業 代表取締役社長 大塚浩史氏。

武蔵精密工業は自動車部品を製造する部品メーカー。製造している部品のチェックに欠かせない「検品」の自動化を、AIで実現させている。武蔵精密工業 代表の大塚浩史氏は「ABEJA Platformを利用することでわずか半年で検品をAIに置き換えることができた」と述べ、スピード感をもって取り組むことができることがクラウドAIの良さだと説明した。


熟練の修理作業員の“勘”をAIに、ダイキン工業の取り組み

基調講演後に行われたセッションでは、空調機器のグローバルメーカーであるダイキン工業の事例が紹介された。

ダイキン工業電子システム事業部営業部SF営業グループ 課長の臼井晋介氏によれば、同社の電子システム事業部では自社に向けたITサービスの提供だけでなく、他社に販売する事業を行っているという。これまでも、業務高度化(例えばクレーム管理や修理対応の迅速化など)のソフトウェアである「SpaceFinder」と呼ばれるシステムを販売してきたが、そこにABEJA PlatformのAIを導入することで、さらなる生産性向上を目指しているという。

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ダイキン工業電子システム事業部 開発・技術部の河合詔之氏。

例えば、故障・修理対応では、サービス要員が現地に持って行く部品の選別にAIを活用している。

電子システム事業部開発・技術部の河合詔之氏によると、

「修理対応で重要なのは、サービス要員が現地に持って行くパーツの選別だ。持って行くパーツが少なすぎれば、もう一度行かなければいけなくなり、手間が増えるだけでなく顧客の満足度も下がる。かといって、たくさん持って行けば、今度は無駄が増える。これまでは、サービス要員のノウハウで持って行く部品を決めていたが、これからはディープラーニングを活用して持って行く部品を決める

と説明する。パーツ選定の“勘”をAIに置き換えることで、どんな作業員でも熟練の作業員と同じように高い確率を目指す。

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40万点もの部品のなかから、そのときの修理にあう部品だけを選ぶのは熟練の経験が必要。1度の修理で終了できるかは、顧客体験を大きく左右する。そこで持っていく部品の選択にAIを活用する。

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つまり、ダイキンが業務で使うAIは「熟練の作業員でなくても部品の選定をミスなくできるAI」ということになる。

パーツ選定AIの実現のため、同社ではデータベース化されている「修理に使用した部品リスト」を学習データとして活用し、ABEJA Platformを利用してAIを構築した。

河合氏によれば「従来はAIを構築するまでに膨大な時間がかかってしまい、新しいアイデアがあっても、すぐに試すことは難しかった。しかし、ABEJA PlatformのようなクラウドベースのPaaSを利用することで、実利用まで短い期間で達成することができた」と説明した。

海外のITジャイアントにどう対抗していくか?

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SIX2018公式サイト(タップすると遷移します)。

日本での事例が増加中のABEJAだが、課題は言うまでもなくグーグルやアマゾンといったITジャイアントにどのように対抗していくかになるだろう。

ABEJAの岡田氏は、

「ディープラーニングの学習モデルは作るだけなら難しくないが、環境やトレンドの変化によりすぐ陳腐化してしまう。そこで再学習などが必要になるが、将来的にはトレンドを検知して人間に再学習が必要だとフィードバックしたりできるようにしたい。

また作成したモデルを別のビジネスで使う場合には、データ傾向が違うためにデータ収集と学習をイチから行わないといけないが、データの傾向をつかみモデルを再利用できるフレームワークなどにも取り組んで行きたい」

と語る。“かゆいところに手が届く”ようなサービスの提供で差別化に取り組んでいきたいとした。

(文、写真・笠原一輝)

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