スペースX最大のライバル、70%以上のコストダウンを実現する“独創的”ロケットとは

ULAのバルカン・ロケットの予想図。ブースターのエンジンは打ち上げ後、回収される。

ULAのバルカン・ロケットの予想図。ブースターのエンジンは打ち上げ後、回収される。

United Launch Alliance

スペースXは2018年2月6日(現地時間)、ファルコン・ヘビー(Falcon Heavy)を初めて打ち上げ、世界の注目を集めた。

ファルコン・ヘビーの3基のブースターは、イーロン・マスクが所有するテスラ・ロードスターを宇宙へと運び、燃料が少なくなると切り離されて地球へと戻ってきた。

16階建てビルに相当する3基のブースターのうち、2基は無事に着陸し(3基目は海に落下)、打ち上げは大成功を収めたと称賛されている。スペースXは、一番の競争相手と比べて、2倍の重さのペイロード(積荷)を約25%のコストで打ち上げられることを証明した。これは数千万ドル(数十億円)のブースターの再利用が可能なためだ。

スペースXの最大のライバルは、大手航空機メーカーのボーイングとロッキード・マーティンが2005年に設立したユナイテッド・ローンチ・アライアンス(United Launch Alliance:以下ULA)。

ULAのCEO、トリー・ブルーノ(Tory Bruno)氏によると、ULA最大のロケットであるデルタIVヘビー(Delta IV Heavy)の打ち上げ費用は3億5000万ドル(約370億円)。スペースXの9000万ドル(約96億円)に比べて極めて高価な理由に、再利用できないことがあげられる。

ULAはあと7回ほどの打ち上げの後、デルタIVヘビーを退役させる予定。そしてスペースXやジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジン(Blue Origin)のような革新的な企業と戦うために、バルカン(Vulcan)と名付けた再利用可能なロケットを開発している。

「バルカンの初打ち上げは2020年半ばを予定している。コストは1億ドル(約107億円)以下になる見込み」とブルーノ氏は語った。これは現行のデルタIVヘビーと比べると70%のコストダウンとなる。

バルカンの性能、ULAのエンジニアが「独創的」と称するバルカンの再利用システム、そして競争が激化するなかでバルカンがどのように競合ロケットと戦っていこうとしているのか、見てみよう。

デルタIVヘビーは、かつて世界で最も強力なロケットだった。32トン近いペイロード(一般的なスクールバス2台分以上)を地球低軌道に乗せることが可能。

スパイ衛星を積んだULA製デルタⅣヘビーの打ち上げ。2013年8月28日。

スパイ衛星を積んだULA製デルタⅣヘビーの打ち上げ。2013年8月28日。

Joe Davila/USAF; Wikipedia (public domain)

出典 : CNN, SCAPT

2014年にブルーノ氏がCEOに就任して以来、さらに強力で再利用可能なバルカン・ロケットシステムの開発を進めてきた。2020年代半ばの打ち上げを予定。

2014年にブルーノ氏がCEOに就任して以来、さらに強力で再利用可能なバルカン・ロケットシステムの開発を進めてきた。2020年代半ばの打ち上げを予定。

United Launch Alliance

「『非常に強大なロケット』と言うだけでは収まらない。ロケットが軌道に乗った後、ユニークで派手なことがある」とブルーノ氏。

40トン(スクールバスおよそ3台分)を地球低軌道に乗せることができる。

40トン(スクールバスおよそ3台分)を地球低軌道に乗せることができる。

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「バルカンはモジュラー構造、頑丈なロケットブースターを追加してサイズを大きくすることが可能」とブルーノ氏。

だがペイロードは、70トン以上(スクールバスおよそ5台分)のファルコン・ヘビーに及ばない。しかも、ファルコン・ヘビーの打ち上げ費用はバルカンの4分の1。だがブルーノ氏は、2つのロケットには大きな違いがあり、バルカンは競争力を維持することができると語った。

だがペイロードは、70トン以上(スクールバスおよそ5台分)のファルコン・ヘビーに及ばない。しかも、ファルコン・ヘビーの打ち上げ費用はバルカンの4分の1。だがブルーノ氏は、2つのロケットには大きな違いがあり、バルカンは競争力を維持することができると語った。

Thom Baur/Reuters

出典 : SpaceX

大きな違いはロケットの上段部。ファルコン・ヘビーは燃料としてロケット用RP-1ケロシンを使っている。だが、宇宙空間では数時間で凍ってしまう。バルカンは極低温の酸素と水素を使用。宇宙空間の厳しい温度にも耐えることができる。

大きな違いはロケットの上段部。ファルコン・ヘビーは燃料としてロケット用RP-1ケロシンを使っている。だが、宇宙空間では数時間で凍ってしまう。バルカンは極低温の酸素と水素を使用。宇宙空間の厳しい温度にも耐えることができる。

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さらにULAは上段部のシステムをACES(Advanced Cryogenic Evolved Stage)として進化させようとしている。ACESは宇宙船を切り離したのち、数カ月あるいは数年、軌道上に留まり、「宇宙空間をさまよう残骸」として廃棄されるのではなく、燃料の再補給が可能。

さらにULAは上段部のシステムをACES(Advanced Cryogenic Evolved Stage)として進化させようとしている。ACESは宇宙船を切り離したのち、数カ月あるいは数年、軌道上に留まり、「宇宙空間をさまよう残骸」として廃棄されるのではなく、燃料の再補給が可能。

United Launch Alliance

「宇宙で燃料を再補給し、他の目的に使うことには実用性がある。つまり、単にシャトルとして使ったり、重すぎて地球低軌道にまでしか打ち上げられなかった宇宙船とドッキングし、文字通り、太陽系のどこへでも連れて行くことができる」とブルーノ氏は語った。

「宇宙へ行く方法と宇宙で何をするかが完全に変わるだろう」

「打ち上げコストを少し削減するというだけではない」とブルーノ氏。「地球と月、地球と小惑星との間での経済活動を可能にする交通システムとなり得る」

月面に設けられた拠点(予想図)。

月面に設けられた拠点(予想図)。

ESA/Foster + Partners


バルカンはまた、SMART(Sensible, Modular, Autonomous Return Technology)と名づけた着脱可能なブースターエンジンにより、打ち上げコストを削減することができる。「毎回、第1段階のブースターのコストの3分の2を負荷なく回収可能」とブルーノ氏。

出典 : ULA/YouTube

これが地球に帰還するための燃料を残しているスペースXのブースターとの違い。だが、ペイロードの重量次第では、燃料を全て使うこともある。この場合、ブースターは再利用可能であるにもかかわらず、宇宙空間での廃棄を余儀なくされる。

2基揃って着陸するファルコン・ヘビーの再利用可能なブースター。2018年2月6日。

2基揃って着陸するファルコン・ヘビーの再利用可能なブースター。2018年2月6日。

SpaceX/Flickr (public domain)

「なぜブースター全体を再利用しないのかと思うかもしれない。だが、毎回の打ち上げでそのほとんどが再利用できているとすればどうだろう?」とブルーノ氏。

「ブースターで最も高価なパーツはロケットエンジン。実際、ブースター全体のコストの3分の2を、たった1つのパーツが占めている」

ロケットエンジンが切り離されると、高速での大気圏再突入に備えてエアロシェル(防護殻)が膨らむ。シェルは、時速数千キロで大気中を進む際に発生する高熱からエンジンを守る働きもある。

出典 : ULA/YouTube

次に細いパラシュートが開き、SMARTはゆっくり地表に向かう。だが、途中で助けが入る。1960年代に開発された技術を使って、大型ヘリコプターがパラシュートを引っ掛けて回収する。

「初めてそのコンセプトを聞いた時は耳を疑ったし、もう少しで吹き出しそうになった。だが、空中での回収方法の歴史を調べてみると、実際、とても独創的な方法だと分かった。海水などの厳しい環境に晒すことなくエンジンを回収して、再利用することができる」とULAでバルカンに関わるエンジニア、ジェレミー・ブラウナゲル(Jeremy Braunagel)氏は紹介ビデオの中で語っている

ACESのデビューは2023年か2024年とブルーノ氏。SMARTはもう少し時間がかかる。

アトラスロケットから再利用可能なバルカン・ロケットへの移行のタイムライン。

アトラスロケットから再利用可能なバルカン・ロケットへの移行のタイムライン。

United Launch Alliance


小型の人工衛星はより小さくなっているが、大型の人工衛星は常に大型化が求められ、またより遠くに到達することが求められる。バルカンは主に大型人工衛星の打ち上げを担う。

NASAのゴダード宇宙飛行センターのクリーンルームで、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の白色光検査を行うエンジニア。メリーランド州グリーンベルト。

NASAのゴダード宇宙飛行センターのクリーンルームで、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の白色光検査を行うエンジニア。メリーランド州グリーンベルト。

NASA/Chris Gunn

「打ち上げ能力を減らして欲しいという顧客からのリクエストは聞いたことがない。ある意味、それが我々がこの戦略を採る理由だ」とブルーノ氏は語った。ブースター全体を地球に帰還させることは困難さが増していくと付け加えた。

ブルーノ氏によると、デルタIVヘビーの退役は「2020年代のはじめ」、それまでに年に1、2回の打ち上げを行う。これはファルコンヘビーに対する大きな対抗策となる。なぜなら、マスク氏によると、スペースXはACESと同等に極低温に対応できる上段部の開発に取り組んでいるところ。

マスク氏は、もしバルカンが「2023年よりも前に国の安全保障にかかわる宇宙船を打ち上げることができたら」、帽子に「マスタードつけて」食べてみせると語っている。

Joe Skipper/Reuters

マスク氏は、もしバルカンが「2023年よりも前に国の安全保障にかかわる宇宙船を打ち上げることができたら」、帽子に「マスタードつけて」食べてみせると語っている

スペースXはまた、ビッグ・ファルコン・ロケット、別名BFRと呼ばれる全長348フィート(約106メートル)の惑星間ロケットの開発に大きなリソースを投入している。

スペースXのビッグ・ファルコン・ロケットの完成予想図(マスク氏は時々、「Big F---ing Rocket」と呼ぶ)。

スペースXのビッグ・ファルコン・ロケットの完成予想図(マスク氏は時々、「Big F---ing Rocket」と呼ぶ)。

SpaceX/YouTube

マスク氏は、2020年にはビッグファルコン・ロケットの一部を公開し、2022年3月の打ち上げを予定している。

一方、ジェフ・ベゾス氏のロケット企業ブルー・オリジンは、ニュー・グレン(New Glenn)と名づけた巨大で再利用可能なロケットの開発、製造にハイペースで取り組んでいる。

一方、ジェフ・ベゾス氏のロケット企業ブルー・オリジンは、ニュー・グレン(New Glenn)と名づけた巨大で再利用可能なロケットの開発、製造にハイペースで取り組んでいる。

Dave Mosher/Business Insider

出典 : Business Insider

ロケットの未来はますますエキサイティングに、革新的に、そして競争が激しくなっている。ULAやブルー・オリジンは、スペースXの凄まじいペースについて行くことができるのか、あるいは、紛れもない新宇宙競争の中に活路を見出すことができるのかはまだ分からない。

ニューグレン・ロケットは再利用可能で、推力はNASAのサターンV型ロケットの約半分、385万ポンド(約17.5トン)。

ニューグレン・ロケットは再利用可能で、推力はNASAのサターンV型ロケットの約半分、385万ポンド(約17.5トン)。

Blue Origin

出典 : Business Insider

[原文:SpaceX's biggest rival has a 'genius' plan to cut its rocket launch costs more than 70%

(翻訳:conyac/編集:増田隆幸)

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