詩織さんとはあちゅうさんがセクハラ告発に至った覚悟とその後に起きたこと—— #MeToo対談【前編】

性暴力やハラスメントの被害を告白した、ジャーナリストの伊藤詩織さんと、ブロガー・作家のはあちゅうさんが2018年2月23日に都内で開かれた、ビジネスカンファレンス「MASHING UP」に参加した。「最終的に自ら話すしか方法がなかった」(詩織さん)、「自分の人生を守りたかった」(はあちゅうさん)。それぞれの思いを抱え、被害の告白に至った2人。告発後の二次被害や、今悩んでいる人へのアドバイスまで、浜田敬子・Business Insider Japan統括編集長が聞いた。

詩織さん

性暴力やハラスメントの被害を告発した、はあちゅうさん(左)と伊藤詩織さん(右)。

2017年は、世界的に著名人が自らのセクハラ被害を告白し、「#MeToo」として拡散。被害を明らかにする流れが拡大した。同年に被害を告発した詩織さんとはあちゅうさんは、#MeTooの前から、被害を表に出す行動を起こし始めていた。

詩織さんは、2015年4月に元TBSワシントン支局長から被害を受け、被害届と告訴状を警察に提出したが、検察が不起訴処分にした。いくつかのメディアの記者に被害を話し、一部で記事になっていたが、2017年5月に記者会見で公表するまで、大きく取り上げられてこなかった。

はあちゅうさんは、約7年前の大学卒業後に勤務した電通で、著名クリエイターの上司からセクハラやパワハラを受けたことを、2017年12月にBuzzFeed Japanで証言し、公にした。

会見が最後の手段だった

浜田敬子BIJ統括編集長(以下、浜田):なぜ、お二人は告発を決断されたのですか。

伊藤詩織さん(以下、詩織):できれば言いたくなかったですね。やっぱり自分の経験が、自分の名前と共に人に知られるのは耐え難いことでした。メディアで働く人間として、自分の話をするわけにもいかず、第三者の視点を持ちながら、どうしたら効果的に性暴力の問題が浮き彫りになるかと考えました。なかなか声が届きづらく、メディアでは直接的な言葉を使わないなど、隠されてしまう、という現状を目の当たりにし、最終的に自ら話すという方法しかありませんでした。色々と試した結果、これが最後のやるべきことでした。

詩織さん

「レイプ」の実態が広まらない理由の1つに、報道の仕方を挙げる詩織さん。

浜田:会見を見ると、突然のことだと思われるかもしれませんが、著書『Black Box』によると、警察への被害届、逮捕状の取り下げ、メディアの取材、いろいろなことがあっての会見だったと分かります。ただ、結果的に会見で話をするまで世の中にこの問題が広まらなかったのは、なぜだと思いますか。

詩織:以前、朝日新聞のマニュアルを拝見させていただいたのですが、性犯罪の被害者については名前を伏せ、言葉も直接的な言葉は使わないということが書いてありました。結果、性犯罪の報道をする時に、被害者A、「暴行」「いたずら」に置き換えられて報道されていたのかなと思いますが、(その伝え方では)実際起きていることはわからないですよね。

2017年5月に国会で刑法改正の審議(性犯罪の厳罰化)がされる予定でしたが、なかなか始まらず、早く解決しないといけない問題だったので、5月のタイミングで会見をしました。

浜田:詩織さんが著書の中で、「レイプ」という言葉を使われていたのが、すごく印象的でした。「起きたことをきちんと伝えたい」という思いだと感じました。私も新聞社にいたので、「被害者を守る」という理由で使ってきた表現が、結果的に性犯罪の実態を伝えてこなかったと、詩織さんの本を読み、改めて反省しました。

「自分の人生を守りたい」

はあちゅう

はあちゅうさんは、ハラスメントの経験により、自分の行動範囲にも影響が出ていた。

はあちゅうさん(以下、はあちゅう):私は社会のため、というよりも自分の身を守るためでした。誤解を受けがちですが、#MeTooが始まるずっと前から、BuzzFeedさんとはコンタクトをとっていました。記事が出る少し前に、#MeTooの動きがハリウッドに出てきたので、注目されたり、また反対に「#MeTooを利用した」という声もあったりしましたが、時期が重なったのは偶然でした。

私が(被害を)訴えた人は、2017年10月に書籍を出版する予定でした。本の編集者が友人(男性)で、セクハラを受けたことを伝えていたのですが、私の話を聞いた上で、本を出すという決定は覆りませんでした。そこで初めて、「本が売れたら、私のような被害者がまた増える」と恐ろしく思ったんです。また、彼が「本の帯コメント、はあちゅうさんくれませんか」と言ったんです。たとえジョークだったとしても、深く傷ついて。友人だと思っていた彼のことも嫌いになってしまいそうでした。どうしたらいいか分からず別の友人に相談すると、「友人関係のこじれはとりあえず置いといて、セクハラ(被害の話)を世の中に出した方がいいよ」と言われました。

記事が出たら、もともといた会社への裏切りや個人的な報復にも見えるだろうし、私がフリーランスで仕事をしていく上で、仕事が来なくなったりするかもしれないと戸惑いもあったんですが、詩織さんと#MeTooの動きの両方に背中を押してもらう形で記事が出ました。

(告発した相手とは)元電通同士ということで、以前から師弟対談を頼まれたり、広告業界のイベントに行くたびに「あの人がもしかしたらいるんじゃないかな」とドキドキしてしまっていました。そのせいで自分の行動範囲が狭くなったり、怯えなければいけなかったので、これからの自分の人生でそういうことがないようにしたいと思ったんです。告発は、#MeTooタグによって社会運動のように見えていますが、私自身に関して言えば、社会のためというより自分のためなんです。私自身は何よりもこの先の自分の人生を守りたいと思いました。

浜田編集長

2人の体験は働く女性たちが置かれている状況とも密接に結びついている。自身の経験を交えて、話を聞く浜田敬子・Business Insider Japan統括編集長(左)。

浜田:裁判ではなく、メディアで訴えた理由は。

はあちゅう:私がセクハラを受けていることを社内で、知っている人は何人もいました。ほかにも同じ人からの被害者がいたにもかかわらず、(相手が)偉い人、出来る人だから野放しにされていました。私が電通に在籍した当時は、会社内で地位のある人にも(被害を)相談していましたが、「あいつは厄介だよね」「仕事は出来るけど、面倒だよね」と言われるだけで終わり、悔しかった。

そんな空気の中で、私が彼を裁判で訴えても、「大げさだな」と思われるだけです。私が見えていないだけで当該の男性以外にも、会社では小さな被害がいっぱいあると思います。社会の体制を変えていかないと、被害は繰り返されると思いました。

#MeTooより過去の発言が拡散

浜田:告発後、どのようなことがありましたか。

はあちゅう:傍目には落ち着いたように見えるかもしれませんが、今も真っ最中で、あの時に付いた粘着質なネット上の人たちは、ずっと私の動向を見て、何か落ち度がないかと見張っているように感じますし、今でも、ツイッターで嫌な言葉を投げかけられているので、ファンの人たちとつながるために、日課のようにしていたエゴサーチを一切しなくなりました。

告発をした後起きたことは、まずはバッシングでした。それまで私がネット上で強いキャラクターに見えたことが関係しているのかもしませんが、「いきなり弱い女ぶるのか」「もといた会社に泥を塗るのか」「個人的な報復に見える」「女を使って仕事してきたくせに」などと罵倒されました。

次に、ネット上で私の過去の発言が、男性へのセクハラと受け止められてまとめられ、#MeTooよりもそちらの拡散の方が大きくなり、「お前もセクハラの加害者だから謝れ。謝った上で活動を停止しろ」と言われました。仕事相手の会社に「あいつを使うなら不買運動を起こす」というクレームが入ったこともあったそうです。告発から数カ月が経ちましたが、中傷はいまだに拡散し続けられていて、ネット上では一生言われるんだろうなと思っています。

自分のケアは後回しになっていた

metoo

2017年、世界中に#MeTooが拡散し、次々と出てきた証言は、これまで被害者がずっと考えてきた悩み。

Brendan McDermid/REUTERS

浜田:被害を受けた人に何かしたいけれど、何をすればいいか迷っているという人もいます。こんな支援、アドバイスがありがたかったということは。

詩織:最近、事件現場の近くに行くことがあって、久しぶりに重度のパニックアタックが起こってしまったんです。立ち上がれずに涙と過呼吸とでわけの分からない状態になってしまって。近くにいた同僚が「大丈夫だよ」とただただ声をかけてくれて。

そこで自分で気付いたんですが、私が(被害の)話をすることで何かできればと考えていて、自分のケアはできていなかったということ、自分の傷の深さを再確認してしまい、これからどう向き合えばいいか混乱しました

こういう被害に遭ったときって自分を責めることがあると思うんですね。でもそれも自然なこと。でも自分がどれだけ苦しかったかを一番知っているのは自分。ただただそれを信じることだと思うんです。

私の生まれた年、1989年の 新語・流行語大賞はセクハラだったんです。それから約30年たって、その定義が分かるようになってきた、それでもまだ伝わらないことがある。どうしたら相手の立場に立って考えられる関係性になるか、考え中なんです。

※編集部より:インタビュー後編はこちら。後編では、セクハラを防ぐために、被害を明らかにするために職場でできる事、日本の性犯罪の防止に対する歪みを紹介します。

(構成・木許はるみ、撮影・今村拓馬)


伊藤詩織(いとう・しおり):ジャーナリスト。海外メディアを中心に、映像ニュースやドキュメンタリーを届ける。著書に『Black Box』。

はあちゅう(はあちゅう):ブロガー、作家。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに活動し、著書に『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月 』など。

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