「インフルエンサーマーケティング産業の、仮想経済圏をつくる」。
そんな構想を打ち出し、2017年11月、約46億円のICO(イニシャル・コイン・オファリング、仮想通貨を使った資金調達の方法)を成功させたインフルエンサーマーケティングのためのプラットフォームがある。ポーランド発のベンチャー「indaHash(インダハッシュ)」だ。
ソルティシンスカさんは2月22日、女性活躍推進を目的として渋谷で開催されたイベント、MASHING UPに登壇。ビジネスの経緯とこれからの展望について語った。
写真:MASHING UP
indaHashを率いるのは、1987年生まれでポーランド出身の女性起業家、バーバラ・ソルティシンスカ(Barbara Soltysinska)さん。彼女が考える「次世代のインフルエンサーマーケティング」とは?
(編集部より:この記事は、2月22〜23日に渋谷で開催された起業家イベント「MASHING UP」の講演と独自インタビューをもとにしています)
SNSキャンペーンのプロセスを自動化する
indaHashは、SNS上でファンを集めるインフルエンサーと企業ブランドをつなげ、インスタグラムやFacebook、Twitterなどでキャンペーンを展開することができるプラットフォームであり、アプリだ。
現在50万人以上のインフルエンサーが登録し、70以上の国と地域にサービスを展開。すでにコカ・コーラ、マクドナルド、ピー・アンド・ジー(P&G)、ロレアル(L’Oreal)といった名だたるグローバルブランドと広告キャンペーンを実施している。
マクドナルドのキャンペーン例。ハッピーセットについてくるポケモンのおもちゃを購入して撮影、 特定のキャプションと「#pokemonmacdonalds」 というハッシュタグをつけて投稿を拡散する、というもの。
動画:indaHash
indaHashを始める前、YouTuberのマルチチャンネルネットワーク(MCN)であるLifeTubeを起業し、運営していたソルティシンスカさん。インフルエンサービジネスを現場から見つめるなかで、彼女はあることに気づいた。
トップYouTuberの信頼性の獲得がかつてより難しくなっている一方で、例えば5000人のチャンネル登録者しかいないマイクロYouTuberはファンへの影響力(エンゲージメント率)が大きい、ということだ。
しかし、実際にマイクロYouTuberを起用したインフルエンサーマーケティングには、条件の調整などに時間と手間がかかりすぎる。そのために、彼らに案件を依頼するブランドはほとんどいなかったという。
市場規模に応じたインフルエンサーのピラミッド。indaHashはフォロワー数が1万人以下のインフルエンサーにリーチできるところに強みがある。
参照:IDH Media Ltd.
そうした課題意識から、2016年に生み出されたのがindaHashだった。
「5000人、1万人、5万人しかいないYouTuberでもキャンペーンに参加できるように、私は(SNSでのインフルエンサーによるキャンペーンの)すべてのプロセスを自動化するアイデアを思いついたんです」(ソルティシンスカさん)
indaHashのサービスは、企業側にとっても革新的だ。例えば数十人、数百人の規模でインフルエンサーを使ってキャンペーンを打ち出したい場合、一人ひとりと条件を個別調整するのは極めて事務的で困難な作業だ。
indaHashを使えば、企業側が条件を公開するだけで自動的にインフルエンサーが案件をピックアップし、キャンペーンを拡散してくれる。キャンペーンに適したインフルエンサーの選定(ターゲティング)も、システム側で細かく対応してくれる。
もっとも人気のあるSNSは「インスタ」
調達したETHの国別ランキング。上から、ベトナム、日本、ドイツ、韓国、オーストラリア、イタリア、イギリス、カナダ、タイ、オーストリア、その他。
参照:IDH Media Ltd.
indaHashは2017年10月、日本版アプリをリリース。現在約1万2000人の日本のインフルエンサーが登録しているという。
2018年6月には東京・広尾にオフィスを設置予定、本格的に日本進出を開始する予定だ。
ソルティシンスカさんはポーランド出身、30歳の連続起業家だ。
写真:西山里緒
「ICOの結果を見ても、日本はベトナムに次ぐ世界第2の市場。日本市場の潜在性は非常に大きい」とソルティシンスカさんはいう。
多くの日本のブランドは国内だけでなく海外にもキャンペーンを展開している。70以上の国と地域をカバーしているindaHashにとって、「日本戦略」は国内と海外それぞれのインフルエンサービジネスを同時に構築できる、大きなチャンスになる。
今のところ、indaHashでもっとも人気のあるSNSはインスタグラムだそう。インフルエンサーにもっともよく使われているアプリであること、ブランド側もインスタグラムでのキャンペーンを好みやすいことがその理由だ。
必要な最低フォロワー数は300人
indaHashのアプリ。インスタグラムのフォロワーが300人になるまでは使うことができない。
画像:西山里緒
インフルエンサーになりたい人の登録フローは次のとおり。まずアプリを開くと、トップページでいくつものキャンペーンを見つけられる。
一つをクリックすると、キャンペーンの詳細が表示される。同時に指定のハッシュタグなどを含め、インフルエンサーに求められているコンテンツも提示される。
条件を承認して、キャンペーンに参加をクリック。任意のSNSからコンテンツを投稿できる。
投稿が完了したらアプリに戻り、完了をクリックすると、投稿がシステム側で検知される。
承認されれば、あとは投稿のエンゲージメント率とリーチ数に基づいて報酬が支払われる、というシンプルな仕組みだ。
indaHashを使うにはインスタグラムで最低300人のフォロワーと40の投稿、さらに高いエンゲージメント率が必要だ。より多くのキャンペーンに参加するためには700人以上のフォロワーがいることが望ましいそうだ。
ステップ別のindaHashアプリの使い方。
動画:indaHash
ICOで約46億円を調達、「トークン発行」にこだわる理由
indaHashが構想する仮想経済システム。インフルエンサーやブランドは法定通貨でも報酬のやりとりができるが、indaHash Coinには付加価値がつけられている。
参照:IDH Media Ltd.
indaHashの挑戦は、単なるインフルエンサーとブランドを繋げるアプリに止まらない。
「インフルエンサーマーケティング産業をトークン化する」として、indaHashは2017年11月から12月にかけてindaHash Coin(IDH)というトークン(引換券に相当するもの)を発行したICOを実施。
約5万3000ETH(イーサリアム、2018年3月6日のレートで約46億円)を調達した。
このindaHash Coin(トークン)はアプリ内で使える。すでにインフルエンサーは報酬をトークンで受け取ったり、トークンを法定通貨と交換したりすることができる。トークンは年度内にアプリに統合される予定だという。
なぜICOという方法を選んだのか?その質問にソルティシンスカさんは、報酬を支払うときの銀行のシステム上の問題を指摘する。
indaHashは、世界中のインフルエンサーを対象にサービスを展開する。国際送金には時間と手数料がかかり、最低送金金額があらかじめ設定されている銀行もあり、非効率なのだ。独自のトークンを使えば、より効率的かつ迅速に報酬を支払うことが可能だ。
企業ブランドは法定通貨でもトークンでもキャンペーンを実施できるが、トークンでの実施には付加価値がつけられている。インフルエンサーも法定通貨で報酬を受け取ることもできるが、トークンで受け取ると、法定通貨の20%増の値段が支払われることになる。
さらに今後、indaHash Coinをもとにして、インフルエンサーにも独自のコイン(トークン)を発行できるようにする計画もある。
インフルエンサー独自のトークンをファンが購入することで、例えばイベントに参加できたり、サイングッズがもらえたり、といった特典が提供される仕組みが導入される予定だという。
彼らのホワイトペーパー(目論見書に相当)には「今後の新しい市場開拓」として日本が記されている。果たして構想通りに行くのだろうか。
(文、西山里緒)