なぜミレニアル世代は早婚を望むのか。
彼ありきのライフプラン
2018年2月中旬、2人は結婚した。1993年生まれのカップル、24歳での早い決断だった。彼は、この春から博士課程に進学する。しばらくの間、一家の大黒柱となるのは、春から大手IT企業に就職する、ナナさん(仮名)だ。
付き合い始めたのは中学3年生の時。大学進学、ナナさんの留学など数々の変化を乗り越えて9年半交際を続けてきた。
とはいえ、彼の就職を待たずしての結婚。経済的な不安はなかったのだろうか。
「無くはなかったです。でも、彼は奨学金が決まり、私も就職先が決まり、月収の見当がついたとき、苦しいながらもやっていけるなと思うようになりました。」
「それよりも、4月からお互い環境が変わるので、一方が心変わりしてしまうことが不安で」
将来を約束し合って、安心して新しいスタートを切りたい。そのためには、自分が一時的に大黒柱になるという決断は、未来への価値のある投資だ。
「この人と結婚するという意志が固かったので、彼ありきのライフプランニングをしたいと思っていました。結婚してしまえば、妊娠、出産等も計画が立てやすくなると思ったのも、大きかったです」
結婚・出産前の予定がまだなくても、就活時から将来、仕事と育児の両立ができるかどうか不安を抱えている。そうした20代の女性たちを指して「幻の赤ちゃんを抱いて世代」という言葉すらある。
いつまでも「幻の赤ちゃん」を抱き続けるよりも、早めに決断して不確定要素を減らしたい。そんな気持ちが、ナナさんを後押しした。
いつまでも理想の相手を探し続けない
ミレニアル世代は白馬の王子様なんて待ち続けない。
就職前後での結婚は、ナナさんだけの珍しい事例ではない。
昨年末に友人たちと集まったときも「なんか、周りの結婚早いよね」という話題で盛り上がった。それほど、筆者のFacebookでは連日、1994年前後に生まれた同世代の結婚報告が相次いでいる。
今年(2018年)1月には、社会人1年目にして、大学の同級生1組が結婚、もう1組も婚約するなど、次々に20代前半で伴侶を決めた。
実際に「ある程度の年齢までに結婚するつもり」と「理想の結婚相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」という2択の質問に対して、「ある程度の年齢までに結婚するつもり」と答える人の割合が1997年に底を打って以降、増加を続けている(平成25年版厚生労働白書)。
都内のベンチャー企業勤務のリサさん(24)は、いつまでも理想の相手を探し続ける気はない。
「もっと良い人がいるかもと考え始めたらキリがないし、この人で良いと“決める”ことが重要だと思ってる」
都内の国立大学のアオイさん(23、仮名)は「結婚は“リスク分散”になる」と話す。
共働きを前提とする彼女たちにとって、病気や失職等のリスクを、一人で抱えるより、二人で支え合った方が安定的なのだ。家賃も二人で払えば、経済的にも無駄がない。
これを裏付けるように、結婚の利点として女性では「経済的に余裕がもてる」が増加傾向にあり、2015年に初めて2割を超えたというデータもある。
一方で、2000 年代以降、「精神的安らぎの場が得られる」と「愛情を感じている人と暮らせる」は減少傾向だ。
ミレニアル世代の女子達は、愛と安らぎを与えてくれる白馬の王子様を、いつまでも、いつまでも、待ち続けたりはしない。
男性側が抱える早婚への不安
教育費への不安や男性側の抵抗も依然として残るけれど‥。
ただし、早い結婚においては年収の少ない段階でやってくる、教育費負担への不安も残る。
先出の大学生アオイさんも「子どもを育てるとなると、どのくらい貯金すべきなのかなどの情報が足りていなく、不安ではある」と話す。
また、男性側は早めの結婚に対して消極的な意見も根強く残る。
商社勤務の男性(24)は「結婚をすると、家族を守らなければいけないのでリスクをとったチャレンジをしづらくなる。」と感じている。
その言葉を聞きながら筆者は「別に守って欲しいなんて思わないんだけど」と首をかしげるのだ。
支えられ、支えながらこそが安定
私たちは「人生100年時代」を生きている。長い人生の中で、きっと数々の変化に直面する。勤めている会社がいつ無くなるかもわからない。突然の事故や病気で働けなくなることもあるだろう。 大学院に入り学び直したり、起業などのチャレンジをしたりすることあるかもしれない。
もし結婚後に彼が大学院に行くと言いだしたら、「『大学院行くのね、おっけー貯金で学費払うんでしょ?食費くらいは出すわよ。』って感じ」と笑って話す友人に、私は思わず「わかる!」と手を打った。
安定の保証がない時代だからこそ、時には、彼に支えられ、彼を支えながら、二人で生きる道が良い。それこそが、安心であり、幸せなのだ。
彼が稼いできて、彼が幸せにしてくれる、そう信じて彼にだけ頼って生きるなんて、そんなにも不安なことがあるだろうか。
ミレニアル世代にとって早めの結婚は、 幸せにしてもらうための夢物語ではない。変化の多い社会の中で生き抜くための、合理的な選択なのかもしれない。
(文・新居日南恵、写真・今村拓馬)
終身雇用制度が崩壊を迎え、AIはじめテクノロジーの進化により急激なスピードで変化する現代。今を生きる20代のキャリアや人生観は、どう変わろうとしているのか。学生が子育て家庭と交流する「家族留学」のmanma代表で、1994年生まれの筆者が、20代のリアルと本音を描く。
新居日南恵(manma代表): 株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。”家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学