北極開発でも存在感増す中国——ロシアの協力で狙う「氷上シルクロード」

北極の経済的価値が注目されている。地球温暖化の影響で氷がとけ、資源開発や北極海航路の使用が可能になった。そこに目を付けた中国は北極版の「氷上シルクロード」計画に乗り出した。開発の成否のカギを握るのは、最大の北極沿岸国ロシアとの協力だ。

プーチンと習近平

ウクライナ危機で借りを作った中国。「氷上シルクロード」においてロシアの協力は不可欠だ。

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中国の北極開発の意図はどこにあるのだろう。中国外務省は1月26日、白書「中国の北極政策」を発表。中国を「北極圏に最も近い国の一つ」とし、「経済や環境など幅広い分野における北極の利害関係国」と位置付けた。そして「中国はエネルギーの消費大国であり、北極海航路や資源開発は中国経済に大きく影響する」と、経済権益を確保する意欲をにじませた。

記者会見した孔鉉佑次官は駐日公使も務めた日本通。資源乱獲や環境破壊に関する質問に、「中国は北極圏の国々の主権を尊重する。中国が資源を奪い環境を破壊するとの懸念が一部にあるが、無用な心配」と答え、軍事利用の可能性についても否定した。

日本や韓国も関心を示す北極航路については「国際貿易の重要な輸送ルート。関係国と協力し開発したい」と、排除ではなく協力開発する姿勢を示した。

世界の4分の1の埋蔵量

2017年暮れの12月8日、北極に面したロシア・ヤマル半島で「ヤマルLNG(液化天然ガス)」が正式稼働し、記念式典にはプーチン大統領も姿を見せた。「ヤマル」は北極最大のLNG開発プロジェクトで、中国も資金協力する中ロ協力案件。2019年に全面竣工した後、3本の生産ラインで毎年中国に400万トンのLNGを供給する。この量は中国が輸入するLNG総量の8%に相当し、中国はここを「氷上シルクロードの重要拠点」と位置付ける。

北極に眠る資源はいったいどのぐらいか。米国地質調査所が2018年公表した石油・天然ガス資源の埋蔵量に関する報告書によると、「未発見で技術的に採掘可能な世界資源のうち約22%が北極圏にある」。

アメリカ政府は2015年、石油メジャーのシェルに北極海での石油・天然ガス開発を承認、試掘を許可した。またロシア最大の石油国営会社「ロスネフチ」は2011年、北極の石油開発で米石油大手エクソンモービルと開発提携で合意。ロスネフチは、中国企業との間でも北極陸棚プロジェクトについてさまざまな協議を進めている。

北極資源をめぐる米中ロ3国の争奪は既に始まっている。

航海距離3分の2に短縮

北極海

北極航路の通年開通によって物流のコストは格段に安くなる。

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第2の狙いは北極航路である。

北極海ルートはこれまで、氷がとける夏以外に航行はできなかった。地球温暖化による影響だろう、航行可能期間は長くなり、2030年ごろには夏に氷海がなくなる可能性があるとされる。北極海ルートの商業利用が現実性を帯びてきた。

東アジアと欧州を往来する船の大半は現在、スエズ運河経由の航路を使っている。これを北極海航路に変えると、航海距離は約3分の2に短縮され、航行時間も約1カ月と約10日短くなる。このため燃料消費量も最大50%削減できるとされ、二酸化炭素や窒素酸化物の排出削減にもつながる。中東情勢の緊迫化という政治リスクを低減できるのも大きい。

新シルクロード経済圏「一帯一路」に全力を注ぐ中国にとり、欧州・中国間の新たな海上輸送ルートになれば言うことはない。中国の北極進出は2004年、初の北極観測基地「黄河基地」をノルウェー・スバールバル諸島に建設したのが始まり。2017年は3カ月かけて、気象や航路調査、海洋生物多様性調査などで北極を一周する調査活動もした。

日本も2015年、「我が国の北極政策」を発表し、航路や資源開発に取り組む姿勢を示しているが、中国に先鞭をつけられその差は開いている。

5沿岸国の中で対立する主張

北極開発は自由に行えるわけではない。国際海洋法に基づいて5沿岸国(米、ロ、カナダ、デンマーク、ノルウェー)が主権を主張し、排他的経済水域(EEZ)を設定している。EEZ内での開発には主権国家の同意が必要になる。安全保障上の問題では、航行の自由を主張するアメリカに対して、自国沿岸の管轄権行使を主張する他の沿岸国との対立が続く。法的規範はまだ整っていない。

そこでアジアー欧州航路の大半を占め、優位に立つのがロシア。ロシアは沿岸国として一方的行為が許容されている。

例えば、北極海航路を通る船舶は、ロシアに事前申請を求め許可を受ける必要があり、ロシア砕氷船のエスコートを義務付けられる場合もある。ロシアとの協力抜きには「氷上シルクロード」は成り立たない。

中ロ接近させた「ウクライナ」

中国にとって幸いなのは、アメリカの一極支配に反対し、多極化を主張するロシアとは、朝鮮半島や中東など主な国際政治や安全保障で、ほぼ立場を共にしていることだ。両国関係は旧ソ連を構成した中央アジア諸国を含め、友好・協力関係を維持している。

一方で、中国に隣接するシベリアや極東では、中国「経済覇権」への警戒も根強く、中ロ関係も一筋縄ではいかない。しかし日ロ関係改善が、日米同盟をめぐり足踏みしているのに対し、中ロ間に重荷は少ない。

先に紹介した「ヤマルLNG」を手掛けるロシア企業は「ノバテク」。このプロジェクト、実は国際政治の荒波にさらされた「政治案件」だった。ウクライナ危機があった翌2015年、アメリカが導入した対ロシア経済制裁で、「ノバテク」は、欧米資本市場から締め出されてしまった。

資金調達で困難に見舞われた同社は、提携先の中国石油天然気集団(CNPC)に泣きついた。手を差し伸べたのが、中国政府のシルクロード基金(Silk Road Fund)。ヤマルの株式の9.9%を保有し窮状を救った。ウクライナ危機が中ロを接近させ、中ロ協力による北極資源開発の象徴にもなったというわけだ。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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