精神力だけではダメ! トップアスリートに学ぶ、限界の超え方

クロスカントリーの選手

限界を超えて頑張れる人はなかなかいない。

Quinn Rooney/Getty Images

  • わたしたちが、ハーフマラソンで自分の記録を更新したり、目標タイムを切るといった自分自身の限界を超えられないのは、身体的な理由だけでなく、精神的な理由がある。
  • アレックス・ハッチンソン(Alex Hutchinson)は、著書『Endure: Mind, Body, and the Curiously Elastic Limits of Human Performance』の中で、耐久力における心とからだの作用について書いている。
  • そこで果たす心の役割の大きさから、心を訓練することで「身体的な」能力も変えることができるかもしれない。
  • それでも、走ったり、自転車に乗ったり、泳いだり、身体的なトレーニングにも努めなければならない。

耐久力や強さ、スピードには、物理的な限界がある。しかし、わたしたちの大半は、自分で思っている以上の能力を持っているはずだ。

オリンピックで金メダルを獲得した、アメリカのクロスカントリー・スキーの選手ジェシカ・ディギンズや、ケニアのマラソン選手エリウド・キプチョゲのようなトップアスリートは、わたしたちが考える以上に、自らの限界を超えることに長けている。

ある程度までは、それは身体的な限界だ。タスクのために必要な調整がされていなければ、一定の圧力のもとで筋肉は傷む。プールで泳ぐ人のからだが水中ではより多くの酸素を必要とするのも、そのせいだ。しかし、わたしたちが何かを成し遂げようとするとき、心もその大きなハードルとなる。

こうした心とからだの作用について書かれているのが、アレックス・ハッチンソンの新刊『Endure: Mind, Body, and the Curiously Elastic Limits of Human Performance』だ。

ハッチンソンは、より高い耐久力を追求する上では、からだを鍛えることで心も鍛えられると書いている。しかし、運動能力の研究に携わる一部の科学者たちは、脳を鍛えるだけで、わたしたちが考える以上に身体的な能力を伸ばせるのではないかと考えている。

倒れ込むエリウド・キプチョゲ選手

マラソン選手のエリウド・キプチョゲは、あと26秒で歴史を塗り替えるところだった。だが、2時間の大台を切ることはできなかった(2017年5月6日)。

AP Photo/Luca Bruno

痛みをやり過ごす方法を学ぼう

ハッチンソンの本は、南アフリカの医師でスポーツ科学を研究するティム・ノークス(Tim Noakes)が指摘する、わたしたちがその身体的な限界に近付くことはまずなく、それには相応の理由があるとの考えを検証している。

ノークスは、オリンピックの2位の選手を例に挙げる。「彼は生きていますよね? 」ハッチンソンの本で、ノークスは言う。「つまり、彼はもっと速く走れたかもしれないのです」

わたしたちの大半は、そこまでやりたいとは思わないだろう。だが、脳も、本当の限界に近付く前に「もう十分だ」とわたしたちに言わせているのだ。それを上手くやり過ごすには、身体的な限界を押し上げ続けるしかない。だからこそ、トレーニングが重要なのだ。

「トレーニングによって、筋肉や心臓の能力ももちろん向上するが、脳の設定を再調整することができる」と、ハッチンソンは書いている。ワークアウトの重要性に加え、ハッチンソンはトップアスリートのデータと逸話に触れ、身体的な痛みを受け入れることが、パフォーマンスを向上させると指摘する。

研究では、血圧を測るために腕を差し出す一方で、アスリートたちは自身のこぶしを繰り返し噛むことで、これをやっていた。あるトライアスロンの選手は、筋肉の深い部分に働き掛けるマッサージを受けるときにも、その痛みをやり過ごすのに必要だと話している。

より大きな身体的な痛みをやり過ごすだけで、ハーフマラソンのタイムが伸びるかどうかは、わたしたちには分からない。しかし、その可能性を示す根拠はある。

練習や試合の最中には、多くの痛みや苦しみ(怪我による鋭い痛みではない)を受け入れることになるが、それも歓迎すべき耐久力を伸ばすための努力の一部だ。

自由形で泳ぐケイティ・レデッキー

アメリカの競泳選手ケイティ・レデッキーには、限界があるのだろうか?

Dean Mouhtaropoulos/Getty

能力は向上すると信じよう

より良く、より速くなるためには、能力は向上すると信じることも重要だ。

多くのランナーにとって、重要なブレイクスルーの1つは、思ったよりもいいレースができたと感じたときに訪れる。ハッチンソンの場合は、レースで思ったよりもいいペースで走っていると言われたときに、自分自身もまだいけると感じていたため、ペースを上げ、自身の記録を更新するエネルギーが湧いてきたという。

信念と感情は、多くの点でパフォーマンスに影響を及ぼす。ランナーは、リラックスできていると言われれば、より少ないエネルギーで走り続けることができる。笑顔でいれば(もしくは「悪事を働いている」とイメージすれば)、パフォーマンスをより長く維持させることができる。気温が高くても、実際より低く知らされれば、暑さから受ける影響も小さい。

ハッチンソンによると、研究者が注目している比較的まだ実績が少ない手法もいくつかある。一部の科学者たちは、アスリートに退屈なタスクをやり続けさせることで、耐久力が試される場面でも、それに耐える心を鍛えられるのではないかと考えている。また別の科学者たちは、マインドフルネスを実践することで、試合につきものの不快感や感情の起伏に備えることができるのではないかと考えている。トレーナーの中には、パフォーマンスのピークを持ってくるため、いわゆるゾーンに素早く入れるよう、脳に電気刺激を与える実験を行う者までいる。

ハッチンソンが明らかにした、パフォーマンスの限界を押し上げるときに心が果たす役割を考えれば、これ以上パフォーマンスは良くならないと考える理由はない。

ハッチンソンは書いている。「事実、科学はこれまでアスリートが常に信じてきた、信じる意志さえあればそこにはまだ何かがある、という考えを裏付けたに過ぎない」

[原文:What elite athletes do to push themselves beyond the 'limits' of human performance — and how to incorporate that into your own training]

(翻訳/編集:山口佳美)

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