2019年卒の就職活動が本格スタートした。売り手市場しか知らない学生たちが登場する。
2019年卒の学生の就職活動が3月1日で、解禁となった。2019年卒は「空前の人手不足で企業は前のめり、就活生は余裕」との声が、就活市場からは聞こえてくる。
現3年生が入学した2015年は、大卒求人倍率が大きく回復した年で「売り手市場しか知らない学生」とも言われている。就活のエントリー企業数やセミナー参加数は年々減少。悲壮感を漂わせた就活生は今は昔。若手の採用難で、必死の形相なのは学生より企業になりつつある。
売り手市場しか見たことない
「100社エントリーしたとか、どこにも入れなくて焦っている就活生を見たことは、一切ないです」(国立大4年文系の24歳男性)
「行きたくない会社に行くくらいなら院に行けと、ゼミの先生に言われますね。2年後は東京五輪の年で景気もピークだろうから、それも悪くないかなって思います」(国立女子大理系3年21歳女性)
2019年卒の学生たちの就活が本格的に幕開けしたが、学生たちに焦りはない。
「やらなきゃなーという話はしますが、正直売り手市場だって、みんな知っています。選ばなければ(どこかの会社には)行けてしまうんですよね」
前述の国立大男性は、冷静に自分たちの就活環境を見ている。
「今年は学生側の立ち上がりは、のんびりしている印象。一番就活生に影響力を持つ先輩たちからも『就活は楽勝』と聞いているので、それほど心配していないようです」
新卒採用支援サービスを手がけける、エン・ジャパン新卒事業開発室長、林善幸さんは言う。
それに対し「中途も含めて、とにかく若手が取れないことを痛感しているので、企業側は必死です」。企業と学生の温度差が鮮明だ。
親会社の看板頼み
そうした傾向を象徴する動きの一つに「グループ合同説明会」が増えていることがあるという。
就活解禁で一気に始まる就職説明会だが、これまでは人気企業の単独開催や、就活支援サービス会社主催で異業種との合同開催がもっぱらだった。
それが近年、「グループ会社との合同説明会」が増えているのはなぜか。その理由を、10年以上にわたり新卒採用に携わってきた、採用コンサルタントの谷出正直氏はこう説明する。
夏のインターンから採用活動は始まっているが、学生が実際にエントリーしてくれるかは分からない。
Reuters/Yuya Shino
「人気の大手企業には学生が集まりますが、そのグループ会社がとにかく人が採れなくなっているのです。今の就活生は内定が取れるかどうか、ではなく行きたい会社に入れるか勝負になっていますから、学生に名前を知られていない会社の採用は本当に厳しいのです」
例えば総合商社は学生の応募が殺到する人気の就職先だが、そのグループ会社の小売りやリース、化学品などの子会社は、学生となかなか接点を持てない。
「名前の知られた親会社の説明会に来た学生に『こういう仕事もあるよ』とアピールするのです」(谷出氏)
「集客」が難しい
3月1日の「就活解禁」は実態としては形骸化しつつある。就活の実質的な開始時期はどんどん早まっているのも近年の特徴だ。
「1年中、新卒採用をしていて、気が休まることがない」
そう話すのは、外資系IT大手の採用担当者だ。
3年生の夏のインターンシップに始まり、理系院生の採用は3年生の秋から本番。先に内々定を出しても、結局、国内大手が内々定を一通り出す6月以降まで学生の最終的な返事は分からない。そうこうしていると、次の年の3年生のインターンが始まる。
「2019年卒はすでに夏のインターンシップから、採用が厳しいという感触をもつ企業が多いです。『(学生の)集客が難しい』との声をよく聞きます」
就活支援のディスコキャリタスリサーチの武井房子上席研究員は言う。さながら新卒学生は「お客様」だ。
インターンシップに参加してくれたからといって、実際に応募してくれるかは分からない。
「インターン同窓会やセカンド・インターン、社員との懇親会などあの手この手で学生と毎月コンタクトをとり、なんとか3月にはエントリーしてもらおうと必死です」(武井氏)
リクルートキャリアの「就職白書2018」によると、で2018年卒の「採用数充足・計」は47.5%で前年比マイナス2.7ポイント。つまり前年の段階で、企業は10人採用したくても5人程度しか採用できていない状況だ。
ディスコキャリタスリサーチ調査では2019年卒の採用活動の見通しを、9割の会社が「非常に厳しくなる」「やや厳しくなる」と答えている。
学生の就活量は、氷河期からは減っている。
出典:ディスコキャリタスリサーチ
携帯電話に飛び上がる採用担当
政府調べでは、2018年卒の大学生の就職内定率は97.6%と前年比0.3ポイント上昇。調査開始以降、過去最高だ。会社を選ばなければ、どこかには入れる状況だ。
それを裏付けるかのように就活量は年々、減っている。
ディスコキャリタスリサーチによると、2017年卒学生のエントリー企業数は45.8社。直近の就職氷河期の2010年の75.7社からは4割程度も減っている。
企業セミナー参加社も25社から17.8社に減少した。
内定社数は2.2社で、どの企業も「内定辞退」されるリスクがある。10月の内定式も目前の秋頃になって、内定を辞退する学生も出てくる。大手の追加募集もあるからだ。
「内定式まで人事部の採用担当者は、携帯が鳴るとドキッとして飛び上がるそうです。内定辞退の電話ではないかと恐ろしくて」
とある新卒採用支援サービスの担当者はそう明かす。
ひとたび入社すると、いろんな世代が混在している。
Reuters/Yuya Shino
採用は若者マーケティング
ただ、売り手市場で「どこかに入れる」にしても、行きたい会社に行けるかはもちろん別だ。就活自体が「楽になった」かどうかは「どんな就活をするか」によって変わるだろう。
リクルートワークス研究所の調査では、2018年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.78倍。全国の民間企業の求人総数は約75万人、学生の民間企業就職希望者数は約42万人。就活生には最低1つ、むしろ2つ近くは入社の席が用意されている。
出典:リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」
しかし企業規模別で見ると、従業員5000人以上の求人倍率は0.39倍、1000人から4999人で 0.59倍と、大手企業には希望者が殺到する「買い手市場」が現実だ。
入社してからも「売り手市場気分」が続くわけではない。
先輩や上司には氷河期入社組もいれば、残業当たり前で激務をバリバリこなして来た層もいる。バブル崩壊後の失われた20年で、就活事情も新入社員の置かれた環境は激変している。
採用コンサルタントの谷出さんは言う。
「氷河期から比べると就活は価値観のパラダイムシフトが起きています。選考は企業が学生を選ぶものだという会社より、採用もマーケティングだと思って若者を理解しようとする会社に若手は集まるでしょう。一方で、学生は入社後に(いろんな世代の社員と出会い)就活までの価値観とのパラダイムシフトを経験する」
入社1年後には新入社員の4割が転職を考えているとの調査もある。人手不足時代の就職も採用も、気を抜く暇はもはやない。
(文・滝川麻衣子)