スウェーデン、ウルグアイ、オランダ、カナダ……仮想通貨の普及が拡大する一方で、各国政府による法定通貨のデジタル化を研究する動きが活発化している。日本におけるデジタル法定通貨の可能性はどれほどあるのか?永田町のキーマンを通して浮かび上がる日本の現状を探った。
「中央銀行がデジタル通貨を発行したらどうなるか」という議論は1990年代から存在する。
Dado Ruvic/Reuters
キャッシュレス化が急速に進む北欧の国スウェーデンは、「eクローナ」と呼ばれる法定デジタル通貨発行の検討を始め、中央銀行であるスウェーデン国立銀行(リクスバンク)は2017年3月中旬、eクローナの導入に向けた3段階の工程表を発表した。2018年内に最終案をまとめる考えを示している。また、中国人民銀行は「法定数字貨幣」、オランダは「DNBcoin」、カナダは「CAD-coin」の研究を進めるなど、デジタル化の動きに拍車がかかっている。
南米ウルグアイでは、希望者1万人を対象に「eペソ」と名付けたデジタル通貨2000万ペソ(約7800万円)分を中央銀行が発行し、2017年11月から6カ月間の試験運用を始めた。ウルグアイ中央銀行(BCU)が発表した資料によると、利用希望者は専用サイトで登録し、携帯電話番号で管理する。保有するeペソは公共料金や店舗での支払いのほか、個人間でのお金のやり取りにも使える。eペソは中央銀行が発行しているため、最終的には中央銀行に対して請求権を持ち、民間のデジタル通貨よりも安全性が高いという。
報道によると、日本銀行の黒田東彦総裁も2017年10月、国際決済銀行(BIS)の会合で法定通貨のデジタル化に関してコメント。現時点で具体的な計画はないものの、「将来的に新しい技術を自らのインフラ改善に役立てていく余地がないのか、不断の研究を重ねていくことが求められる」と述べている。
国のデジタル通貨発行は歴史的な流れ
立憲民主党の中谷一馬衆議院議員は、日本政府も積極的に研究を進めていくべきと主張する。中谷氏は以前からデジタル通貨発行を提案してきた人物。Business Insider Japanの取材に対して、同氏は「法定デジタル通貨への移行によってコスト削減に繋がるだけでなく、ユーザー利便性の向上、金融政策の有効性確保、*通貨発行益(シニョレッジ)の減少防止にも繋がる」と話した。
通貨発行益:銀行券(日本銀行にとっては無利子の負債)の発行と引き換えに保有する有利子の資産(国債、貸出金等)から発生する利息収入(日本銀行より)
各国が法定デジタル通貨発行を検討する背景の一つには、デジタル化による紙幣の維持コスト削減という目的がある。シンガポールにおける研究では、現金や小切手といった紙ベースの決済手段の利用に伴うコストがGDPの0.52%に達するとする試算がある。同国では、現金から電子的な決済手段への移行を後押しする取り組みが進められている。
仮想通貨の普及などで中央銀行が発行する通貨が使われなくなると、金融政策の有効性や通貨発行益が減少するため、中央銀行自らがデジタル通貨を発行することでそれを防止できるという主張だ。
立憲民主党・中谷一馬衆議院議員は民進党にいた頃から積極的にデジタル通貨発行について進言してきた。
また、2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」において、Society5.0に向けた戦略分野の一つとしてフィンテックが挙げられ、「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」というKPI(成果指標)が示されており、政府としてもキャッシュレス化を推進する動きはある。
ただし、中谷議員が安倍内閣に日本円のデジタル通貨発行に関する質問主意書を提出したところ、「デジタル通貨発行は検討する」としたものの、デジタル通貨への移行によってどの程度の効率化が図られるのか研究や試算を行う予定はないとの回答を得ている。
一方、自民党の平井卓也衆院議員は通貨の歴史的な流れを考えれば、デジタル化は必然だという。
「日本では古くからコメや絹が通貨として使われ、硬貨や銅へと変わってきた。今われわれが使っている通貨の寿命がどのぐらいあるのかはわからないが、こうした通貨の流れからいうと、デジタル通貨が出てくるのは全く不思議ではない」
仮想通貨に対しては、「国家という後ろ盾がない通貨は大丈夫なのか?」という意見もあるが、政府が誕生する前から通貨は存在しており、違和感はないと平井氏は言う。
しかし、eペソと同様に、中央銀行が発行するデジタル通貨が誕生すれば、デジタル通貨としての恩恵を受けながら、中央銀行が流通量などをコントロールできるので資産としての安全性も保たれるようになる。そうすれば、仮想通貨をあっという間に支配してしまうかもしれない。
「もし政府なり日銀なりが保証する仮想通貨(法定デジタル通貨)が出てきたら、投機以外の手段はそこに収斂(しゅうれん)されてしまうのではないか」と平井氏。国の金融の将来を左右する可能性もある問題だけに、今後は国民的な関心をどう巻き起こすかも問われそうだ。
(文、写真・室橋祐貴)