2020年の東京オリンピックやインバウンド需要の追い風を受け、東京23区・大阪市・京都市の3大マーケットのホテル客室数が2017年から2020年にかけ、38%増加する見込みであることが、法人向け不動産サービスのCBRE日本本社の調査で明らかになった。
ホテルの建設ラッシュで供給過剰も懸念されているが、CBREは「東京オリンピックが開かれる2020年は、東京ではなお宿泊施設が不足する」と予測している。
一方、大阪、京都では訪日外国人旅行客が民泊やカプセルホテルなどの簡易宿泊所に流れており、宿泊施設業態の多様化と競争激化が鮮明になっている。
平昌オリンピックが終わり、東京オリンピックのマスコットも決まった。東京では会場整備やホテル建設が急ピッチで進む。
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オリンピックよりもインバウンドが追い風
CBREによると、全国8大都市(東京、大阪、名古屋、京都、福岡、札幌、広島、仙台)では2017年から2020年にかけて、ホテル客室数が計8万室新規供給される見込みで、客室数は2016年から32%増える。中でも訪日外国人の人気旅行先となっている東京、大阪、京都の3大都市の客室は同38%増加する見通しだ。
IT企業が運営するホステル「&AND HOSTEL」は、施設にIoTを取り入れている。写真は秋葉原にオープンしたばかりのホテル。
and factory提供
2020年には東京オリンピックというビッグイベントがあるものの、その後のホテル需要は不透明。だが、調査を担当した土屋潔ディレクターは「今のホテル建設ラッシュは、五輪よりも数年前からのインバウンドの伸びが刺激となっている」とし、オリンピック後に宿泊需要が急落する可能性は小さいとみている。
政府が掲げる2020年の訪日外国人旅行者数4000万人という目標に沿って試算すると、東京は同年時点でもなお3500室が不足する計算で、訪日客の激増が予測されるオリンピック開催期間中は、さらに需給がひっ迫する可能性があるという。
一方、2016年比客室が42%増える大阪では客室数が必要量を約1万3500室上回る見通し。同57%増える京都でも供給が需要を約1万1300室上回る計算になる。
稼働率全国トップの大阪は収益成長率がマイナスに
大阪ではホテル、簡易宿泊所が急増している。写真は大阪市・心斎橋に昨夏オープンしたカプセルホテル「カーゴ心斎橋」
撮影:浦上早苗
インバウンドの盛り上がりで、ホテルの予約が取りにくくなっている大阪府は2017年、シティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテルのいずれも、稼働率が全国トップだった。
しかし、ホテルの収益性を示す指標RevPAR(販売可能客室1室あたりの売り上げ)の大阪市の成長率は2016年に鈍化し、2017年にマイナスに転じた。
大阪市では2015年以降、宿泊需要が急拡大。同年は平均客室単価(ADR)が約30%上昇した。その結果ビジネス利用者が敬遠し、さらには新規供給による競争激化、民泊やホステル、カプセルホテルなど簡易宿泊所との客の奪い合いなどが発生し、ホテル事業者が稼働率を維持するため、客室単価を下げ始めたと見られる。
ビジネスホテルは競争激化
2月にはロボットが接客する「変なホテル」が東京・銀座に開業した。
Kim kyun hoon REUTERS PICTRES
宿泊需要は堅調な推移が見込める一方、ビジネスホテルの競争は激化しそうだ。CBREによると、主要8年の2020年までの新規供給の92%が宿泊主体型ホテルで、そのうち半分近くがビジネスホテルという。
坂口英治CBRE日本法人社長が、「例えば福岡では、インバウンド需要の高まりを受け、オフィスビルをビジネスホテルに建て替える動きなどは出ているが、インターナショナルブランドのホテルはあまり進出していない。潜在的需要はあるはずだが」と指摘するように、最近の新規供給は、ラグジュアリーホテルに比べて投資が少なく、稼働率が安定しているビジネスホテルに偏っている。実際、2019年に日本で初めて開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)も、福岡市開催で最終調整が進んでいたが、全体的なホテル客室数だけでなく、各国要人が宿泊するスイートルームの不足がネックとなって、大阪市に決まった。
宿泊統計に含まれない民泊も大きな市場に
また、今回の調査では統計の対象に入っていないが、今後の宿泊市場で間違いなく存在感が高まるのが、民泊や簡易宿泊所だ。政府がまとめる「外国人延べ宿泊者数」と「訪日外客数」の伸びは2016年以降、乖離が生じている。国の宿泊統計は、民泊やクルーズ船での宿泊をカウントしておらず、訪日外国人宿泊需要の相当数を民泊が受け入れていることを示唆している。
訪日外客数の伸びと外国人延べ宿泊者数の伸びは一致しなくなっている。
CBRE作成
安価な宿泊施設を求める外国人のニーズを取り込もうと、カプセルホテルやホステルも増えている。90%以上の稼働率を維持する福岡市のホステル運営者は「近隣にホステルが増えて、ドミトリー(相部屋)の1ベッドの単価がこの1年で数百円下がり2000円を切ってきている」と明かした。
スペースを広げ高級アメニティーを提供する高級カプセルホテルや、IoTを体験できるスマートホステルなど、特徴を打ち出し、業態間の垣根を崩すような施設も人気を集める。
土屋氏は「ビジネスホテルは宿泊するための施設としての機能だけでなく、体験の質を高めるような差別化が必要になるだろう」と指摘している。
(文・浦上早苗)