なぜ日本人だけが時間の正確さにこだわりすぎるのか

多くの日本企業が海外市場へ進出し、優秀な人材を確保するという点から、グローバル視点は欠かせない。その時に起きる課題が、違う文化や価値観の中でいかにお互いを理解し、共生し、同じゴールに向かえるかということだ。

日本と海外の文化の違いを視覚的にわかる「指標」で示し、文化の違いや隔たりから起きるトラブルや混乱を避けようと説くのが、フランスなどに拠点を置く経営大学院、INSEADの客員教授、エリン・メイヤーさん。著書『異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』はさまざまな異文化による違いを乗り越えるための示唆に富んでいる。

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「KY(空気が読めない)」ことは、日本ではご法度だが、メイヤーさんによると、日本以外で「空気を読む」国は、あまり多くはない。日本人ビジネスパーソンが、海外で戸惑うのは、この大きな違いを理解していないためだ。

こうした文化や考え方の異なる点をしっかり理解した上で行動することは、日本国内の職場での上下関係、ジェンダーの違い、環境の変化などにうまく対応していくのにも役立つ、とメイヤーさんは話す。

「異文化理解力」をつけるには、まず自分自身のこと、自国の文化をクリアに理解することが大切だ。それらをきちんと説明できるようになれば、相手との違いもよく見えてくる。

例えば、日本とアメリカのビジネス文化の違いを比べてみよう。

日本……「空気を読む」ことや上下関係を重んじる。決定には、関係者が皆関わって、長い時間をかける。しかし、決定すると変更はない。

アメリカ……組織はフラットで、ファーストネームで呼びあい、社長とディナーにも行く。決定は、ほとんどの場合トップダウンでスピード感がある。その代わり、良い結果が出なければすぐに変更を加えていく。

「日本は、一つの歴史と文化を長いこと社会が共有してきたため、世界のどこの国にまして、空気を読むというコミュニケーションが発達し、決定の過程が長くて保守的で、そして、最も時間に正確です」とメイヤーさん。

つまり日本人ビジネスパーソンは、日本だけが(1)コミュニケーションの仕方(2)決定の過程(3)時間の守り方で、世界で突出して異なる文化を持っているということを、理解しなければならない。

メイヤーさんの著書で最も興味深い点は、世界数千人の経営幹部に面談し、64カ国の「カルチャーマップ」を作成し、文化の違いを指標として視覚的に理解するのを助けていることだ。

空気を読む日本人のイメージ

「空気を読む」文化は日本独特だ。

撮影:今村拓馬

日本のように空気を読むコミュニケーション文化を「ハイコンテクスト」(コンテクストは文脈)とし、空気を読まず、「明快に曖昧さを取り除いて話す」(同著)文化は「ローコンテクスト」と分類し、指標にも示している。なんと、日本は世界で最もハイコンテクスト、アメリカは最もローコンテクストな国だ。

ハイコンテクストの最右翼である日本は、外国人には理解するのが難しい。あまりに多くのメッセージが言葉にされず、見えてこない。決断になぜ時間がかかるのかも理解できず、他の国の人から見ればフラストレーションが溜まるという。日本人はまず自分たちがそう見られていることを自覚することが必要だ。

メイヤーさんは、外国人も日本のことを理解することが必要とした上で、日本人には次のことを勧める。

1)なるべく、言葉にして、曖昧さを残さないではっきり伝える訓練をする。

2) 交渉やミーティングが始まる前に、日本での決定の過程が、他の国と異なることを伝えて、理解してもらう。

3)時間に正確なことは、外国では最も重要なことではないことを覚える。相手が遅れてきても、無礼に値しないということを理解する。

しかし、日本の企業がずっと外国人にとって分かりにくい、ストレスが溜まる存在であり続けているわけではない。少しずつ変化が見えるという。

「例えば東芝は、INSEADに長年、社員を送りこんできました。最初のころ、たくさん質問をしても沈黙ということが多かったのですが、2017年は異なっていました。かなりの努力をしたと思いますが、マネジャークラスの英語が上達し、態度も変化し、はっきりと自分の意見を言うことも徹底していました」(メイヤーさん)

一方、日本企業や政府は、女性の待遇についてもっと努力が必要だと強調する。

「日本の女性幹部クラスは、どうしてこんなにすごいのだろうと思うくらい才能があり、英語も達者です。日本企業は、“特に”女性を資産として活かせるということを理解すべきです。日本女性は、人材として最高だからです」

メイヤーさんが2017年に日本で登壇した女性向けのセミナーで、400人の主に女性の参加者にアンケートをとったところ、半数以上が将来海外で働くなど移住したい意向を持っていたという。日本企業が優秀な女性を活かすことができなければ、頭脳流出が起こる可能性もある。

日本国内の職場でも「相手の靴を履いてみる(=相手の立場に立ってみる)」ことが、相手に対する理解を深めて、人間関係をより良いものにできるという。「自分が女性だったら」「自分が部下あるいは幹部だったら」「自分がシングルマザーだったら」と想像力を働かせることが必要だ。

グローバルビジネスのイメージ

異文化理解は、相手の立場に立つことから始まる。

Rawpixel.com / Shutterstock

「違う立場、違う個性、違う文化を理解するということは、簡単なことではありません。でも、そういう身の回りのことから、グローバリゼーションに備える異文化理解が始まるのです

将来は、スマートフォンやスマートウォッチなどが外国語を瞬時に訳すというようなテクノロジーの進化が、言葉の壁を取り除くことも期待される。しかしそれだけに、今まで以上に、「異文化理解力」が必要になるとメイヤーさんは言う。機械が訳すことで、ミーティングなどの機会も増える。それだけに誤解が生まれないように文化・慣習の相違をきちんと理解しておくということが、マネージャークラスにとってのチャレンジになる。今から、「異文化理解力」を磨き、そのチャレンジに備えるべきだ。

(文・津山恵子)


ERIN MEYER(エリン・メイヤー):INSEAD客員教授。グローバルに事業を展開する企業の社員、エグゼクティブに異文化への対応「異文化マネジメント」を教える。アメリカ出身、パリ在住。


エリン・メイヤーさんが来日して登壇するイベントが開かれます。詳細はこちらまで。

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