リクルートが“GAFA”と戦い抜くために今やるべきこと —— 峰岸CEOが語る「世界一までの戦略」

ガーファ。Google、Apple、Facebook、Amazon.comの頭文字を並べて、GAFA(ガーファ)と呼ばれ、4社は国境を超えるインターネット空間で驚異的な存在を確立するプラットフォーム企業だ。この空間でビジネスをするあらゆるプレイヤーは常にGAFAに対する危機意識を持つ。それは峰岸真澄・社長兼CEO(最高経営責任者)率いるリクルートホールディングスにとっても同じだ。

2010年、海外事業の拡大路線に向けて大きく舵を切ったリクルートは、2020年までにHR(Human Resource=人材)ビジネスで世界No.1になる戦略ターゲットを決める。その後、5000億円近い資金を投じて、「人材募集のグーグル」と呼ばれる米Indeed(インディード)などの海外企業を買収し続け、リクルートはHRビジネスで世界のプラットフォーマーに進化するために邁進してきた。

峰岸真澄・社長兼CEO

年間の連結売上高1兆8000億円、時価総額4兆円を超えるリクルート。その経営の指揮をとる峰岸真澄・社長兼CEO。

そして、2030年には展開している全ての事業において「世界No.1」になるというもう一つのターゲットを掲げる。勢いを弱めることのないGAFAを目の前に、リクルートは今後、どうこの2つの戦略ターゲットを達成させていくのか?峰岸社長に聞いた。


海外投資家が疑問視した海外事業

BUSINESS INSIDER(以下、BI):2014年の株式上場から、リクルートは海外事業の拡大を図り、売上高と時価総額を伸ばし続けてきました。

峰岸社長(以下、峰岸):僕は上場前の2012年に社長に就任していますが、更にその前の2010年頃、経営企画の担当役員として当時のリクルートのボードメンバーと中長期戦略の検討を行いました。国内で圧倒的なNo.1を目指すのか、海外に出ていくのかが大きな論点で、喧々諤々(けんけんがくがく)議論しました。

結果、海外に出ていくことを決めました。そして、戦略的なターゲットも合わせて決めました。要するに100年かけてじっくりやるのか、世界のミドルクラスを目指すで良いのかといったレベル設定ですね。そこで2020年に向けて、まずは私たちのオリジンであるHRビジネスにおいて世界でNo.1を目指そうではないかと。そして、さらに10年後の2030年には、私たちが展開している全ての事業で世界No.1になろうと。

峰岸真澄・社長兼CEO

上場当時、海外の機関投資家たちはリクルートの海外事業拡大を疑問視した。

それを引き継いで僕は社長になった。そして、海外戦略を支える一つの資本戦略として上場の意思決定をするんですよ。2012年6月の未上場時の株主総会で、「上場します」とアナウンスしました。

上場の際、*ロードショーに出かけた時に、海外の機関投資家から言われました、「なんで海外なんかに出るんだ?日本企業で海外で成功している企業は少ないだろう」と。国内でしっかりとしたポジションを築いてるんだから、それをベースに広げていくことに集中したら良いじゃないかと言われました。しかし、それも今は言われなくなってきたので、ある程度評価していただけているということだと思います。

ロードショー:上場承認を受けた後、機関投資家に向けて行う会社説明会のこと。株式公開時の公募・売り出し価格の需給動向を判断する場ともなる(野村証券より)。

自分たちに勝ち筋はあるのか

BI:その後、リクルートは数千億円を使って海外企業の買収に乗り出しますが、重要視した点は?

峰岸:世界でリクルートに勝ち筋があるのかということでした。

HRテクノロジー、いわばインターネットのジョブボードと言われていたものがありました。当時アメリカに大きなジョブボードがあって、私たちは日本で展開しているリクナビやリクナビNEXT、タウンワークなどがありますが、ユーザー数の桁が違うわけですね。

峰岸真澄・社長兼CEO

2012年に買収したIndeed(インディード)はリクルートのHRテクノロジー事業の軸。

しかし、売り上げを見てみるとリクルートの方が高かった。これは、つまりインターネットの分野においては、私たちは*収益を上げる力があるのかもしれない。そして、他のインターネット企業に私たちのマネタイズ手法をノウハウとして提供すると、その会社の価値を上げることができるかもしれない。これは武器になるかもしれないと考えました。

「リクルートのビジネス3本柱」

HRテクノロジー(Indeedを軸に、グローバルでオンラインHRビジネスを拡大していくユニット)。

メディア&ソリューション(国内外の販促メディア事業、日本のHR事業とグローバル斡旋を統合したユニット)。

Staffing(人材派遣)(各国の派遣事業を統合した人材派遣ビジネスのユニット)。

BI:2010年代、リクルートが海外事業を進める上で、拡大を続けるGAFAに対してどれほど意識されてきましたか?

峰岸:インターネットでビジネスをしている企業であれば、どこでもGAFAに対して常に危機意識を持っているというのが一般的でしょう。

峰岸真澄・社長兼CEO

「リクルーティング・プロセスは何十年も“不”を抱えたまま、ほとんど変わっていない」(峰岸氏)

我々は2020年にHR産業でNo.1になることを目指していますが、このHR産業、とりわけリクルーティングのプロセスにおいては、企業サイドと個人サイドともにまだまだ課題や不安、不便、不安といった「不」が満載だと思うんです。企業は欲しい人材がなかなか見つからない。採用面接もたくさんしなくてはいけないし、多くの履歴書をスクリーニングすることは大変です。不はたくさんあるわけですよ。

個人サイドも、自分が働きたいジョブが見つかりにくいとか、面接をたくさんしてるのに全然受からないとか。想像していた会社と違ったとか、不が存在する。このリクルーティング・プロセスというのは、何十年もこの不を抱えたまま、ほとんど変わっていないです。

GAFAと戦い抜くポイント

BI:テクノロジーはその「不」を軽減してきているのではないですか?

峰岸:それを徐々に変える形で、私たちも人材紹介業や人材派遣業で、インターネットの求人サイトや求人検索エンジンをやってきました。しかし、まだまだ不が多くて、満足のいくレベルに至っていない。インターネットが登場して20年、スマホは10年。テクノロジーのおかげで便利になってきていますけど、ほとんど変わっていないポイントも多くあります

峰岸真澄・社長兼CEO

人材派遣事業はリクルートの売上高の過半を占めるが、利益の柱はメディア&ソリューション事業。

雇う企業サイドは、欲しい人物像が曖昧で、設定するのが難しい。個人サイドも自分がやりたい職業ななんだろう?自分が求める報酬はいくらだろう?報酬と勤務場所、職種のプライオリティは?と曖昧なところが多いですね。これをそっくりテクノロジーで代替するのは難しい。

言い換えると、人材紹介業とか人材派遣業がこの数十年成り立っている所以はそこにあるんですね。それぞれが曖昧で、扱っているものが人である。私たちは57年もこのビジネスをやっていて、インターネットでも展開しているし、人が介在しているビジネスも持っている。介在している人が、この曖昧模糊(もこ)としている要件を整理してマッチングしている。そこには秘密が隠されているわけですね。

リクルートのセグメント別収益(2017年4月〜12月期、単位:10億円

ビジネスセグメント 売上収益 *EBITDA
HR Technology 156.6 23.2
メディア&ソリューション 498.7 128.3
人材派遣 978.9 62.8
連結 1,618.8 215.6

(リクルート2018年3月期・第3四半期決算ハイライトから作成。EBITDA:企業価値評価の指標で、利払い前・税引き前・減価償却前利益(Earnings before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization))

BI:今後、具体的に焦点を当てていくところとは?

峰岸:今後、私たちはもっとHRにおいて、とりわけリクルーティングのプロセスの中に存在する、企業側と個人の不を改善するソリューションを磨き上げて、提供していきたい。そこにコミットしていきたいと考えています。

峰岸真澄・社長兼CEO

リクルートはトップ自ら働き方改革の掛け声をかけている。社長や役員の席も社員が働くスペースの一角にある。

2020年にグローバルNo.1になっていくということは通過点であって、HRの産業で企業も個人も飛躍的に利便性の高いサービスを提供していくことが、一番高いプライオリティかなと思います。

それが結果的には、GAFAと戦い抜くポイントでもあるのかなと思います。自分たちがやるべきことです。

(聞き手・構成:佐藤茂、浜田敬子、写真:小田垣吉則)

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