YouTuberヒカルが高卒就活支援に乗り出した理由 ——4割非正規雇用という現状を変えられるか

バズキャリ就活の様子

3月3日に開催された「バズキャリ就活」には、全国7000人の中から選ばれた44人の「非大卒者」が参加した。

中卒・高卒・専門卒・大学中退などのいわゆる「非大卒者」は、大卒者に比べて就職の選択肢が少ないと言われる。そんな非大卒者を対象にした就職支援イベント「バズキャリ就活」が3月3日、開催された。主催は人気YouTuberヒカルも所属する、インフルエンサーマーケティング事業を行うスタートアップ、VAZだ。

なぜYouTuberヒカルが就活を語るのか

バズキャリ就活の様子

ヒカルはイベント序盤に登場。自身も高卒者として、非大卒の参加者たちにエールを送った。

「僕も田舎で育ちましたが、田舎に生まれたってだけで選択が限られている。周りにIT企業で働いている人なんか本当にいなかった」

「バズキャリ就活」の序盤、ヒカルがスペシャルゲストとして登場し、高卒者である自身の経験を語った。

生まれた境遇で決まってしまう格差を突破してほしいとの言葉に、参加者は身を乗り出して聞き入っていた。

イベントにはサイバーエージェント子会社のシーエー・モバイルや串カツ田中など13社が企業として参加。全国7000人の非大卒者から応募があり、就職への熱量やコミュニケーション能力などを基準に選ばれた120人(2日間の延べ人数)が臨んだ。

プログラムは企業紹介、逆求人ドラフト(参加者による自己PR)、営業体験ワークなど。イベント後には実際、選考に進む参加者もいる。

企業の人手不足が叫ばれる中、参加企業の採用意欲も高い。イベントに参加した串カツ田中の人事課長、伊藤正弘さんは「そもそも大卒と高卒に能力の違いはないと思っている。今の状況で大卒でなければいけないと言っていたら、人材不足が解消できない」と語った。

「もう逆転できないのかな」

バズキャリ就活の様子

企業へ自己PRをするデロバツひかるさん(20)。大阪からイベントに参加した。

ああ、そういうことなんだ、と。1回大学進学をあきらめた人は、もう逆転できないのかなって

大阪から「バズキャリ就活」に参加したデロバツひかるさん(20)は、個人事業主として電力会社と契約、法人営業の仕事をしている。高校卒業後に今の会社に一度は就職したが、自分のやりたいことと両立するために個人事業主という雇用形態を選んだ。

だが、正社員でなければ研修などもないため、自身の能力を高める機会にも恵まれない。スキルアップのためにと求職活動を始めたが、仕事の内容や給料などの求人内容に大卒者との差を感じて落胆したという。

営業の仕事は歩合制のため、契約が取れる月と取れない月で、月収は20万円から30万円と大きく変わる。労働時間で換算すると厳しい時は時給1000円ほどになる月もある。

そんな中、人気YouTuberのヒカルが2018年1月、非大卒者のための内定直結型就職イベント「バズキャリ就活」を開催すると動画で発表した。「人生を変えよう」と参加を決意した。

遊戯王カードやゲームが好きであること、起業に興味があることなど、自分とYouTuberのヒカルは「考えていることが似ている」と感じていたのだ。

高卒者の10人に4人が非正規雇用

バズキャリ就活の様子

イベントに参加した調理師の男性(26)。

文部科学省によると、2017年の大学・短大進学率(現役)は54.8%。

1学年の約半数が非大卒者としてキャリアをスタートさせる計算だ。

一方で、大卒者と非大卒者の就職環境は大きく異なる。リクナビやマイナビといった大手就職情報サイトは基本的に大卒者を対象としており、高校生や高卒者の求人は少ない。

非大卒者の労働環境の問題もある。厚生労働省が行った2013年の調査によると、34歳以下の若年労働者のうち、高卒の非正規雇用比率は42.8%。大卒者の20.4%と比較しても高い。

企業への自己PRの時間には、前職での苦しい労働環境を言葉にする参加者もいた。

「高校を卒業してから8年間、和食料理店で調理人として働きました。労働時間は1日10時間から16時間。去年結婚して子どもも生まれたので、安定した生活を送りたい

自己PRでそう語っていた調理師の男性(26)は、高校卒業後に音楽の専門学校に行きたかったが、家の経済的な事情で断念したという。前職では朝8時から深夜0時まで働くことも。一人で生活していく分にはそれでも良かったが、家族ができたことで考えが変わったという。

潜在ターゲットは780万人

3月2日、VAZは就職支援サービス「バズキャリア」事業拡大のため、11億5200万円の資金調達を完了したと発表した。

VAZの森泰輝社長は、非大卒者のための就職支援サービスは今後大きな市場にもなる、と語る。

森氏の試算によると、現在の1学年の人口(2014年の18歳人口)が約118万人。その約48%の約57万人、大学中退者約8万人(この中には短大中退者も含まれる)も含めると約65万人が「非大卒者」になるという。

バズキャリアの対象年齢である18歳〜29歳までの12学年が就職市場に入ることになるとして、約780万人の潜在的なターゲットがいるという。

仮に10%の人が就職支援サービスを使い、一人当たりの紹介料を25万円と試算すれば、約1950億円の市場規模だ。

「これからがすべてだと思っている」

VAZの代表取締役社長・森泰輝氏。

VAZの森泰輝社長。

2017年、個人の価値を株取引に似た仕組みで売買するプラットフォーム「VALU(バリュー)」でとった行動が株式市場であれば「インサイダー取引」に当たるとして、ヒカルは批判を浴びた。

(関連記事:独占取材「YouTuberヒカルVALU大炎上」の舞台裏 VAZ社 森代表インタビュー

「(騒動後)ヒカルの動画は全て自分かマネージャーが事前にチェックしている。また何か新しいSNSを始める時には必ず(森氏に)事前に確認を取ることを義務付けている」と森氏はマネジメント体制の強化を強調する。

ヒカルはイベントでの取材で「これからがすべてだと思っている。毎日の動画の内容や、動画外の発言や行動において、誰に見られても恥ずかしくないようにしていくことに尽きるのではないかと思っています」と語った。

一方、イベントの参加者はヒカルへの理解も示す。

前述のデロバツさんは「被害者が怒る気持ちももちろんわかる。けれど、人気者だったら上に上がるたびに(批判は)起こるものではないか、とも思う。一度活動を休止したけれど、また再開したので、みんな(ヒカルを)求めているんだと思った」と語った。

VALU騒動で社会的責任を問われたヒカルは、自分と同じ非大卒の就職支援でファンの期待に応えることができるのか。

(文・写真、西山里緒)

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