時間の合間ビジネスに勝機あり —— 低価格ヘアカットQBが上場で狙う海外市場とスタイリスト人材

投資ファンドのインテグラルが過半数株式を保有し、国内外で600を超える低価格ヘアカット店を展開するキュービーネットホールディングス(本社・東京渋谷区、証券コード:6571)が3月23日、東証一部に上場する。*仮条件(2000〜2250円)の上限に設定された公開価格2250円で計算すると、想定される時価総額は約270億円に上る。

仮条件:新規公開予定の企業(発行体)の発行価格が決められる際、引受証券会社があらかじめ提示する価格帯のこと。市場環境や機関投資家などへのヒアリングの結果などを総合的に勘案し、主幹事証券と発行体が協議を行った上で決める。(野村証券より)

安くて、速いを売りにするヘアカットチェーンが次々と市場に参入し、競争が激化するなか、キュービーネットは上場によって、海外事業の拡大と国内でのスタイリスト人材の獲得を狙う。

QB HOUSE

グループ店舗数が国内外で650を超えるキュービーネット。

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キュービーネットは1995年に創業。約10分、1000円(税別)で散髪サービスを提供する「QB HOUSE」チェーンを国内に広げ、海外ではシンガポールと香港、台湾、ニューヨークで出店を増やしてきた。また、20代〜40代の男女をターゲットにしたカットサロンにも進出、予約なしで2000円(税別)で提供する「FaSS(Fast Salon for Slow Life)」の店舗数も拡大している。

時間と時間の間にある市場

「時間の合間をとらえたビジネスという観点で、(低価格ヘアサロン市場を)注目している」と話すのは、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト・矢嶋康次氏。「ビジネスマンは昼休みや移動の途中、出張先で利用することができるだろうし、前髪の直しやスタイリングのために利用する女性客も増えているのではないだろうか。景気が回復するなか、散髪サービスを受ける頻度も増えている」

キュービネットの連結売上収益(2016年7月〜2017年6月)は179億7100万円で、前年度から約8%増加している。連結営業利益は約6%増え15億200万円。上場申請時に同社が提出した有価証券報告書によると、キュービーネットのグループ店舗数は2017年6月現在、国内外合わせて659店。1年で36店舗、増加させた。

キュービーネットは過去10年の間、資本構成が何度か大幅に変わったことでも注目を集めてきた。2006年にはオリックスが投資を目的に資本参加して過半数の株式を保有。2010年、ベンチャーキャピタルのジャフコが株式を取得する。そして、4年後の2014年、佐山展生氏が率いる投資ファンドのインテグラルが買収し、有報によるとキュービーネット株式の約87%を保有している。

QB HOUSE

キュービーネットは今後さらに海外事業を拡大させる。(写真:東京・渋谷にある店舗)

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キュービーネット・IR担当は、「市場の信用を得ることが上場の一番の目的」と話す。「東証1部に上場して信用力が上がれば、海外事業を拡大させる上で有効であると考えている。国内でスタイリストの採用を進める上でも、信用力は重要」と述べた。

国内の低価格ヘアサロン市場では、サービスを工夫する競合が現れ始めた。神奈川、大阪、京都、奈良を中心に「美容室11カット(イレブンカット)」をチェーン展開させるエム・ワイ・ケーがその一つだ。2000年に創業して以来、同社は店舗数を187(2017年11月時点)まで増加させてきた。「コンサルティングに1分、カットに10分」で費用は基本1500円(税別)。客がヘアカラーを店に持ち込むこともできるという。

短期間で伸ばすスタイリストの経験値

また、低価格ヘアサロンをキャリア形成のために活用するスタイリストもいる。東京・目黒区の店舗で働くヘア・スタイリストは、「ここで(低価格ヘアカット店で)髪を切る経験値は、従来のヘアサロンに比べれば、短期間で圧倒的に高くなります。10〜20分で一人のお客様の髪を切るわけですから、1年続けば膨大な経験が積み上がります」と話す。

矢野経済研究所が2017年4月に公表したレポートによると、日本の理美容市場の規模は2兆1575億円(2016年度)となり、前年から0.4%減少した。理容市場は、店舗数の減少や客の高齢化、低価格サロンチェーンの台頭などにより、低迷しているという。一方、美容市場では、低価格美容サロンチェーンと高級志向なサロンとの2極化が進んでいると、同レポートは指摘している。

今後、国内の低価格サロン市場で主要プレイヤー達は、サービスをさらに工夫することで競合との差別化を図り、シェア拡大を図るだろう。その一方で、あらゆる小売市場が直面している少子高齢化と人口減少による影響を軽減するためには、海外市場における事業拡大が必要となる。今回のキュービーネットの上場はその動きを加速させる一手と言える。

(文・佐藤茂)

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