ウォレット・タブはアプリの下側(Androidでは上側)にあるメニューの一番右、「その他」タブのあった位置に表示される。ウォレット・タブではLINE Pay、その下にLINEポイント、LINEコインと続く。
LINE
LINEは3月7日、メッセージアプリ「LINE」のアップデート(更新)を行う。最新版は、機能の大幅な追加変更はなく、UI(ユーザインターフェース)の刷新のようにも見える。
しかし、実は今回のアップデートは、LINEが拡大を狙うキャッシュレス決済サービスにとって、大きな意味を持っている。
今回のアップデートで、アプリ内に「ウォレット」と呼ばれるタブが目立つ位置に新設される。ウォレットは、「LINE Pay」の残高やポイントなどを表示するハブとなる機能だ。ウォレットにスポットライトを当てることで、7300万人を超えるLINEユーザーにキャッシュレス決済の利用を促そうというのがLINEの狙いだ。
LINEの「一等地」で、非アクティブユーザーを刺激
注目はウォレットが表示される位置と役割だ。新設されたウォレットへの導線は、LINEアプリ内の「一等地」であるメインメニュー内の右端だ。さらにこの場所には、スタンプや着せ替えショップといったLINEの中でも象徴的な機能へのリンクが含まれているのも大きい。
同社によると、国内でのLINE Pay登録者数は約3000万人(2017年5月時点)。LINE自体の月間アクティブユーザー数は7300万人(2017年12月時点)と考えると、半分に近いユーザーがLINE Payを使える状態にあると言える。
LINE Pay株式会社 取締役COOの長福久弘氏。
LINE Pay株式会社の取締役COOである長福久弘氏はBusiness Insider Japanの取材に対し、「もちろん、全員がアクティブユーザーではない」と話す。2017年1月に行われた「LINEのお年玉」キャンペーンなどで、プレゼントされたLINE Payの残高を受け取るためにLINE Payの登録だけを済ませたユーザーが少なくないためだ。
この非アクティブ・ユーザーがスタンプなどを探そうと思ってウォレット・タブをタップすると、LINE Payの存在を再認知することになる。さらに、LINE Payに登録していない約4300万人のユーザーには、残高表示部にLINE Payの設定を促すテキストが表示され、新規ユーザー獲得につながるというわけだ。
LINE Payが使える場所は着実に増えている
公共料金などの支払いもLINE Payでできるようになる。現在は、TEPCOにのみ対応している。
もちろん、ユーザーが増えても使える場所が少なければ、サービスとしては普及しない。
LINE Pay(コード決済)が利用できる加盟店は着実に増えており、最近では量販店の「ジョーシン」やCD/DVDなどの販売を行なう「ゲオグループ」も仲間入りしている。
加えて、電気代(東京電力)の請求書の支払いにも対応している。4月上旬に電算システム、5月以降にSMBCファイナンスサービス、三菱UFJファクターの扱う請求書も順次LINE Payで支払えるようになる。
長福氏は「店頭に請求書を持っていき支払っているような方にも、LINE Payの利便性を知ってもらいたい」と、“現金主義”なユーザーへの普及も狙っている。
LINE Payは中国アリペイらに「対抗」しない?
今回のウォレットタブの追加は日本国内に留まる。中国企業が展開する決済サービスの勢いが増す中、LINE Payは海外市場をどう考えているのか。
長福氏は「日本以外では台湾とタイで成長している」と語る。とくに台湾では、税金の支払い時にポイントが貯まるサービスとして、大きくユーザー数を伸ばしたという。
ただ、同社の2018年1月末の決算会見では、LINE Payの海外を含む登録者総数は4000万人と発表された。単純に計算すれば日本以外のユーザー数は1000万人程度。この数は中国の「支付宝(アリペイ)」や「微信支付(WeChat Pay)」と比べれば非常に小規模だ。
徐々に対応店舗が増えるLINE Payだが、中国勢のような躍進は見込めるのか。
しかし、長福氏は「対抗するという気持ちはない」と独自の路線を歩んでいく考えを示している。
長福氏は「どういう特徴のサービスが支持を得られるのか、勉強するべきことはたくさんある」としつつも、「国土の規模や普及した背景の違いもあり、同じことをやるのは得策ではない。(展開する)国ごとに、便利で使いやすいサービスにしていくことが大切だ」と、まずは国内や展開済みの地域での普及に取り組むと話した。
“便利で使いやすいサービスを提供し、ユーザー基盤を獲得する”。この戦略的メッセージは、LINEが発表会などでたびたび発信しているものだ。国内のキャッシュレス決済サービスでは、NTTドコモなどの強力なライバルもいる。そうしたなかで同社がどのように規模を広げられるか、注目だ。
(文、撮影・小林優多郎)