結婚も出産も「今じゃない」20代。一人っ子政策廃止でも少子化進む中国

中国政府は2015年10月末、高齢化や労働力不足の問題に対応するため、1979年から続けてきた一人っ子政策の撤廃を発表した。その2年前には一人っ子同士の夫婦に限って第2子が持てるよう政策が緩和されていたが、完全廃止のインパクトは大きく、粉ミルクメーカーなど育児関連企業の株価が軒並み上昇。不動産業者は子ども2人を想定した住宅を開発するようになった。

あれから2年半、30代を中心に、2人目出産に踏み切る人が増える一方で、その一つ下の世代「90後」(1990年代生まれ)の出産意欲は高まらず、2017年の中国の出生数は前年比マイナスとなった。中国政府は2015年の政策転換時に、「“二人っ子政策”で出生数は2000万人を超す」と予測したが、実現は遠のきつつある。

中国の子どもたち

中国は2015年、36年間続けてきた一人っ子政策を完全に廃止した。

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2人目妊活に意欲的なアラフォー

一人っ子政策の撤廃が発表された2015年10月29日、中国・大連にある大学の日本語学科教員グループチャットは「ついに!」「産む?」と大騒ぎになった。

当時、中国人教員20人のうち16人が30~50代の女性。ほぼ全員が既婚者で子どももいた。30代半ば以上の中国人は、一人っ子政策導入前の兄弟姉妹がいる家庭で育っている人々が多いためか、一人っ子に対してどちらかと言えば「両親の世話が大変」「甘やかされ、わがままに育つ」「兄弟がいなくて寂しい」といったネガティブな感情を抱いている。一人っ子政策撤廃は、「産めるなら2人目を産みたい」と思っていたアラフォー女性たちの妊活魂に火をつけた。

妊娠している女性

兄弟姉妹がいる環境で育ったアラフォー世代は、2人目出産に意欲的だ。

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小学生の息子がいる40歳の女性教員は、博士号を取得するため日本と中国を行ったり来たりの生活を送っていたが、「妊活のために学位を断念するか」と真剣に悩んだ。出産するにも、教授昇進を目指して学位を取るにもぎりぎりの年齢だ。当面はキャリア優先だが、今も2人目を諦められずにいる。

別の女性教員(30代後半)は、仕事の事情で夫を単身赴任させ、自身は子どもと2人で暮らしていたが、妊活のために、仕事を調整して頻繁に単身赴任している夫宅を訪れるようになった。

この職場はこれまで1~2年に1人が出産し、休暇を取っていたが、2017年は30代の2人が第2子を妊娠した。2016年2月に1人目の子どもを出産した張秀梅さん(35)は2人目の出産を来月に控えている。「2人目は自然にできた」そうだが、「職場の先輩女性たちに『産めるうちに産んだ方がいい』と繰り返し言われたことにも影響を受けているかもしれない」と話す。

一人っ子政策廃止後、あるメディアは「第2子出産の主力となるのは、経済基盤が安定し、出産限界年齢が近い1970年代生まれだろう」と分析していた。実際、2人目を産みたいと公言するのは、自分も兄弟姉妹の中で育ち、安定した職業に就いている女性が多い。

彼女たちの多くは1990年代以降の経済急成長の中でキャリアと資産を蓄積して結婚し、不動産価格上昇前に住宅を取得している。子どもの教育コストは高いが、2人産んでも「何とかなる」とポジティブだ。

晩婚、晩産化で第1子出生数は大幅減

雑踏

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一人っ子政策撤廃翌年の2016年、中国の出生数は前年比131万人多い1786万人に増え、1999年以来の高水準となった。人口政策を担当する国家衛生計画生育委員会は、「これから政策転換の効果が本格的に表れる」との見通しを語っていた。

だが、中国の2017年の出生数は前年から63万人少ない1723万人にとどまった。興味深いのはその内訳で、1723万人のうち半数以上の883万人が「第2子」。第1子は2016年から249万人減の724万人で、大幅に減少していた

国家統計局の担当者は出生数減少の理由として、「20~29歳の女性の数が600万人近く減った」「経済成長に伴い、女性の晩婚、晩産化が進んでいる」ことを挙げた。

一人っ子政策廃止の結果、30代以降の世代が第2子出産に動き、急激な少子化にどうにか歯止めがかかっている形だが、子どものいない層にとって、第1子を産む大きな動機付けにはなっておらず、出生数は政府の期待ほど増えていない。

結婚はしたいけど、「今じゃない」

2018年1月に2017年の出生数が公表された際、クローズアップされたのが「90後の出産意欲の低さ」だ。

「一人っ子で甘やかされた小皇帝」

「消費力が上がり、好きなことに出費を惜しまない」

さまざまな説明がされる90後だが、「都会の20代は、自分の居場所を見つけるのに必死で、結婚や出産について具体的に考える余裕がない」というのが、当事者の言い分だ。

北京の街並み

北京など都市部では、結婚より経済的自立を優先する若者が多い。

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1993年生まれの趙麗麗さんは、2017年11月に会社を辞め、北京でルームメート5人と暮らしながら、就職活動している。

「子どもを産みたくないというわけじゃないけど、自分の生活基盤をつくることで頭がいっぱいで、彼氏も欲しくない

趙さんによると、結婚や出産は友達との会話でもしばしば話題になるが、一致しているのは「今じゃない」ということだ。

都市在住の90後は「恵まれた環境で育ち、仕事と勉強に一生懸命で、多様な価値観を許容できる世代」(趙さん)。

結婚やキャリアだけでなく、一人っ子政策が廃止されたことで、出産ですら上の世代に比べて選択肢が広がっている。その選択肢の広がりが、今決めなくてもいいことの「先延ばし」につながっているという見方だ。中国は、もともと結婚や出産を経ても働き続けるのが一般的である分、経済成長や進学率の上昇による機会の拡大で、「まず経済社会での居場所を確保する」ことが男女ともに優先事項となっている。

北京在住の会社員、王紅さん(23)は「結婚はしたいけど、子どもはいらない。子どももペットも同じだから、猫ちゃんがいればいい」と話すが、「子どもはいらない」と断言するのは少数派。公務員女性(23)は「子どもを持たないのは親不孝だし、自分の老後のことも不安だから、絶対に産む」と言う。27歳の会社員女性も「結婚して子どもを産むのは人生の使命だから、そのうち子どもがほしい」と考えているが、今、付き合っている人はいない。

時間節約のため、一気に三つ子を産みたい

自分自身が大事に育てられた一人っ子たちは、子どもにもそうするべきと考える傾向もあるようだ。

アメリカ留学中の男性、厳勇さん(23)は、「彼女は欲しいけど、結婚と子どもは28歳以降がいい。子どもの教育は人生で一番重要な目標だから、経済的に余裕ができて、人間として成長して、子どもにいい環境を提供できると自信がついてからじゃないと」と話す。

お年寄り

中国は一人っ子政策の結果である少子化に加え、高齢化も急速に進んでいる。

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カナダに留学している27歳の女性は「30歳ぐらいに2人か3人の子どもが欲しい。忙しいから、できるなら一気に三つ子が産みたい。時間の節約になる」

内モンゴル自治区の農村出身ながら、成績優秀だったため大連市の大学に進学した鄭晴晴さん(24)は、「私自身が罰金を払って生まれた2人目の子どもです」と打ち明けた。

「病気になると、父が自転車に私を乗せて、何時間もかけて病院に行くような貧しい家庭でした。子どもの頃、何度も親に『私を生まなければもっといい暮らしができたんじゃないか』と聞いたほどです。だからこそ、私は両親や兄がいる幸せを感じることができます。産めるなら2人産みたいですね」と話したが、すぐに「経済的なことを考えなければいけない。いざそういう年齢になったら、考えは変わるかもしれません」と付け加えた。

もう? まだ? 親の価値観との隔たり

90後は、結婚・出産の前に自活という問題が立ちはだかっている。趙さんは「私も含め、一緒に暮らしている6人で、彼氏がいるのは1人だけ。みんな忙しくて、相手を見つける時間もない」と苦笑する。適齢期になると結婚し、子どもを持つことが当たり前だった親世代と価値観の隔たりは大きい。独身の20代は春節(旧正月)に帰省すると、家族や親族から結婚圧力をかけられるため、大きなストレスになる。

日本で働く陳慧さん(26)は、この1年ほど、「恋人はいないのか」「結婚相手が見つからないなら中国に戻ってきて探せばいい」と親から頻繁に電話が来るようになった。今年の春節の帰省時にも「もう27歳になるだから」と、繰り返し言われた。

陳さんは、「中国は年齢を数え年で考えるので、去年から、もう27歳と言われまくっています。でも私の感覚ではまだ26歳なんです。就職してからまだ3年しか経っていなくて、彼氏もいないのに、どうすればいいんでしょう」とため息をついた。

(文中一部仮名)

(文・浦上早苗、アンゲロマ)

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