なぜ? 顧客たちが「それでもコインチェックを応援する」と語る理由

仮想通貨取引所コインチェックから580億円相当の仮想通貨NEM(ネム)が流出した事件。同社は3月11日の週に返金を開始し、一部サービスを再開するとしている。返金されれば、多くの顧客はコインチェックとの取引をやめてしまうのか。

実は、世界が注目する巨額の流出問題になった現在でも、コインチェックを支持・応援する声はいまだ根強い。裁判の原告や顧客に聞くと、「コインチェックに代わる取引所がない」「訴訟を取り下げたい」「また投資したい」と応援ムードすらある。

仮想通貨流出騒動をめぐる、もう一方の現実を取材した。

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会見に出席した和田晃一良社長。被害者の中には、2018年3月8日の会見の中継を見守る人もいた。

「コインチェックは外せないんです」とエンジニア男性

エンジニアの男性(47)は力説する。男性は、「コインチェック被害者の会」に所属し、今後同社に対する訴訟に参加する予定だ。

にも関わらず、男性は今も同社を支持している。

男性は、「コインチェックはほかの仮想通貨取引所に比べ、飛び抜けて使いやすい」と話す。男性は、同社のビットコインのレバレッジ取引を利用し、毎月100〜300万円の利益を出していたという。

「コインチェックは、送金手続きがしやすく、取引がしやすい」

男性はほか6つの取引所に口座を持っているが、「コインチェックに代わるところがないんです。(同社の)いいシステムをそのままどこかが引き取ってほしい。どこかと資本提携して、経営陣が変わって、刷新されてほしい」と強く願う。

弁護団

コインチェック被害者の会の設立が決まった初会合は、2月3日に開かれた。

同じく「コインチェック被害者の会」に所属し、2月26日の一次提訴に参加した原告の20代女性は、「来週以降、仮想通貨が戻ってきたら、訴訟は取り下げようかな」と話す。「誠意を持ってコインチェックが営業再開をするなら、若社長が頑張ってきたので、失敗しても叩きたくない。これを機に生まれ変わってほしい」と見守る。

「これで税金が払える」と語る男性

顧客の男性(32)は、2017年12月に130万円をコインチェックで投資、100万円分のNEMを購入した。同社の決め手は使いやすさと取り扱う仮想通貨の種類の多さだった。

男性は、2017年に会社を退職し、今はフリーランスで活動している。当初、NEMの返金の目処が立たず、貯金を切り崩しても、所得税や住民税の支払いができるか、心配していたが、「来週中に返ってくるので大丈夫かな」と一安心したという。

もし同社から返金されても、「返金された額の一部は、またコインチェックに投資したい。ベンチャーは失敗が付き物。(同社は)業界を盛り上げる1社になると思うので、応援したい」と前向きだ。

金融庁は3月8日に、仮想通貨取引所2社に対して、業務停止命令を出した。男性はそのことにも触れ、「コインチェックはそこと比べたらしっかりやっていたんだと思う。これまでは仮想通貨業界全体が怪しかった。そこに金融庁のメスが入ったので、コインチェックだけ責められるというより、業界全体の問題かな」と受け止めた。

時事ネタで左右されるレート疲れ、不満も

コインチェックや仮想通貨の発展に期待する原告や顧客たちだが、もちろん不満もある。

前出の原告の20代の女性は、仮想通貨が戻ってきたら、「ひとまず現金に戻したい」と話す。その理由は、「ちょっとしたニュースで、レートが変動する。8日の会見中もNEMが3割上がった。金融庁がどうこうした、とか変動の材料がいつ出てくるかわからないから」。仮想通貨をめぐる状況が落ち着くまでは、現金にしておいて様子見をしたいという。

レバレッジ取引で利益を出していた前出の男性は、コインチェックがサービスを停止中も取引の機会を逸しており、「もともと自己責任だと思っていたので戻ってくる(返金される)だけマシか」と思う一方で、同社の取引高が12月に3兆8537億円だったと会見で聞き、

もっと払える(補償できる)という感じがする。サービス再開は『順次』で、結局仮想通貨がいつ返ってくるか、わからない。事件から1カ月以上経って、しかも資産開示もしない。いい加減にして

とも言う。

コインチェックの事件を機に、業界団体のまとまりも加速し、自主規制の整備につながろうとしている。「国もタイミングがないと一斉捜査に入れないので、業界の未来には契機になった」と受け止める顧客がいる一方、「良くとらえるには、被害が大きすぎる」と深刻にとらえる原告もいた。

大塚

3月8日の会見に出席した大塚雄介取締役。

同社に対する訴訟は、仮想通貨の返還などを求め、現在「コインチェック被害対策弁護団」と「コインチェック被害者の会」の一部会員ら、2団体が集団提訴している。ほか1団体も、サービス停止中の仮想通貨の価値の下落分を取り戻す訴訟(担当はITJ法律事務所)を準備をしている。

コインチェックは会見で、仮想通貨の価値の下落分は、利用規約上、補償対象にならない見解を示したが、ITJ法律事務所は、提訴の方針は変更せず、3月中を目処に訴訟する。同事務所によると、第一弾の訴訟の原告は10人以下になる見通しだ。

(文、撮影・木許はるみ)

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