合併か破綻か?中国シェアサイクル業界に異変!技術のモバイクvs学生起業のofoの二強対決の行方

国有企業が幅を利かせていた中国で、民間企業が存在感を増している。

広大な国内市場の中で、最新のテクノロジーや斬新なアイデアを駆使し、「何でもあり」の起業家精神を引っ下げて、資本主義経済も真っ青の生存競争に挑んでいるのだ。こうした企業を率いるのは、強烈な個性を持つ経営者。その人物像とビジネスモデルを中国企業に詳しいジャーナリストの高口康太氏が紹介していく。初回は中国発のビジネスであるシェアサイクルの二強、モバイクとofoを取り上げる。

乗り捨て自由の利便性の高さ

中国のシェアサイクル

上海市の街頭に停められているシェアサイクル(2017年6月撮影)。

Kota Takaguchi

中国のシェアサイクルは、専用駐輪場を必要とする従来のレンタサイクルとは大きく異なり、原則乗り捨て自由が売りだ。わざわざ駐輪場まで行かなくても、あちこちに「放置」されている自転車に乗り、目指す場所についたら「乗り捨てる」仕組みだ。例えば、地下鉄などの公共交通機関の最寄り駅で降りて目的地まで歩いていたところをシェアサイクルを使えば、格段に利便性が増す。いわばラスト1マイルの移動をカバーする手段と言っていい。

この乗り捨て型シェアサイクルの普及が始まったのは2016年のこと。4月にモバイク、11月にofoがサービスをスタート。革命的なサービスだとして注目を集め、シェアサイクル業界に数十社が新規参入する大激戦が繰り広げられた。

生き馬の目を抜く中国シェアサイクル業界を牽引するのがモバイク、ofoの二強だ。モバイクは2015年の創業。新聞記者出身の胡瑋煒(1982年生まれ)が創業者として知られるが、自動車販売サイトの易車網、新興自動車ブランドmp蔚来汽車と2社の創業に成功したシリアルアントレプレナーの李斌、元フォードの夏一平など豪華メンバーが創業チームに集まっている。当初から「4年間メンテナンス不要の自転車」をコンセプトに、IoT機器のスマートロックや太陽電池による給電、ノーパンクタイヤの採用などハイテクが売りだ。

大学生のモラルに頼ったサービス

一方のofoは2014年に北京大学大学院生だった戴威が創業した。1991年生まれの俊英だ。起業当初は観光地でのレンタサイクル事業に取り組んだ。その創業ストーリーが興味深い。

ofoの戴威(Dai Wei)CEO。

シェアサイクル2強の一角、ofoのCEOを務める戴威。北京大学構内のシェア自転車から事業は始まった。

REUTERS/Hoang Dinh Nam

学生時代、戴威は青海省の農村でボランティア教師を務めた。ある時、近くの街までバスで出かけたが、乗り換えばかりで不便きわまりない。帰りは自転車で戻ったが、ツーリング中に目にした美しい自然に心を打たれた。この感動に突き動かされ、観光地でのレンタサイクル事業を立ち上げた。ところがこのビジネスは大外れに終わる。そもそもよくあるビジネスで新規性はないので、失敗も当然といったところか。起業からわずか1年ほどで破綻目前にまで追いやられる。会社の資金はわずか400元(約6700円)にまで目減りしていたという。

そこで思いついたのが大学専用シェアサイクルだ。中国は学生数が多いメガ大学ばかり。しかもキャンパスが広い。学内に限って乗り捨て自由にすれば、学生にとっても使い勝手はいい。自分で自転車を持ち込む学生も少なくないが、盗難の恐れがある。小銭を支払ってシェアサイクルを使えば、そんな心配もなくなるというわけだ。

戴威はまず在籍する北京大学で事業を始めたが、当初投入した2000台の自転車のうち半数は学生の私物だった。私物の自転車を提供した者は利用された回数に応じてお金がもらえる仕組みだったようだ。私物をサービスに組み込む仕組みはいたってシンプル。なんと普通の自転車にQRコードを貼り付け、ダイヤル式のロックをつけるだけ。スマートフォンでQRコードをスキャンすると、鍵の暗証番号が送られてくるのだ。

鍵の暗証番号は一定なので、覚えてしまうと勝手に使うことができる。「自転車泥棒したければどうぞ、でも20円ぐらい払えば合法的に利用できますけど、どうですか」という学生のモラルに頼った大胆なサービスだった。この大学専用シェアサイクルが大当たり。1年後には200校で採用されるほどの人気となった。そして2016年11月には市街地でのサービスを開始、先行していたモバイクに戦いを挑んだ。業界二強の座をつかんだofoは積極的な資金調達により、使用する自転車もハイテク装備の新バージョンに切り替えるなど業界トップの座を狙ってまい進する。

技術指向のモバイクと学生ノリの大胆さが売りのofo。使う自転車も前者が最初からスマートロックなどハイテク満載だったのに対し、後者は普通のママチャリからスタート。同じ中国型シェアサイクルといえども、両社のキャラクターはまさに好対照だ。

年間2500万台投入の焼銭大戦

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競争の果てに大量の自転車が街頭に放置され社会問題に。

REUTERS/Aly Song

2017年に入ると、両社を中心にシェアサイクル業界には一大戦争が繰り広げられた。シェアサイクルの利便性を決めるのは、なんといっても自転車投入台数の多さだ。乗りたい時、乗りたい場所に自社の自転車が「放置」されているという状況を作り出さなければならない。かくして各社はすさまじい勢いで焼銭(利益度外視の先行投資)競争を繰り広げ、現在までに計2500万台が投入されたとみられる。

またシェアサイクルには、街中に乱雑にとめられた放置自転車が歩行者の邪魔になるというデメリットもある。この問題に対応するために、自転車の整列や辺鄙(へんぴ)な場所に停められた自転車を、地下鉄出口付近などに運び直すための人員を確保する必要も生まれた。ここにも人件費が発生する。この他にもユーザーを増やすための割引キャンペーンなどマーケティング費用もかかる。

必要な投資額は莫大だ。モバイクは2017年6月に6億ドル(約700億円)、ofoは7月に7億ドル(約800億円)を調達したが、年末には資金不足が報じられている。月に100億円以上のペースでキャッシュが流出している計算となる。モバイクがこれまで調達した融資額は2000億円超、ofoも1500億円を超えているが、それでもまったく足らない状態なのだ。

シェアサイクルはいわゆるシェアリングエコノミーの一種として位置づけられている。しかし、個人の持ち家を貸し出すAirbnbや途家網などの民泊、個人の車をタクシーのように使うウーバーや滴滴などのライドシェアとは異なり、貸し出す自転車は企業が準備しなければならない。その一方で自転車の利用料金はきわめて安い。通常利用は30分1元(約17円)程度が相場だが、20元(約330円)で1カ月乗り放題となる定期券もある。この低価格では回収できるキャッシュなど焼け石に水だ。将来、業界を支配する地位につけば資金回収の手段はなにかある「はず」と算段しているのだが、現時点では資金を集め続けなければ回らない。

強まるモバイクとofoの合併観測

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整然と並ぶモバイクの自転車。

Kota Takaguchi

いつまでも焼銭は続かない。業界ではいずれ「モバイクとofoは合併し、一強企業が誕生する」との見方が有力だった。先例となるのがライドシェアの滴滴だ。ライドシェア業界でも焼銭大戦が繰り広げられたが、滴滴打車と快的打車の業界二強が合併し滴滴出行となり、さらにウーバーの中国業務を買収して支配的地位を確立したことで、戦いは終結した。同じ物語が繰り返されるはずと見られていたのだ。

実際、2017年11月にはモバイクの大株主であるテンセント、ofoの大株主である滴滴が主導し合併交渉が行われた。これで終戦ムードが高まっていたが、合併交渉は予想外の破談を迎えた。ofoの戴威が強く反対したと伝えられる。

これで戴威率いるofo経営陣と株主である滴滴との関係が悪化してしまったもようだ。中国メディアは、ofo経営陣の管理能力の低さに滴滴は嫌気が差したとまで報じている。

モバイクは2018年1月、10億ドル(約1100億円)規模の資金調達に成功し一息ついたが、ofoは資金調達ができないままでいた。中国経済メディア・財新網は、アリババグループ、ソフトバンクが出資の意向を示したにもかかわらず株主の滴滴が反対して話がまとまらないと報じている。

2018年3月4日、AI財経社はあるニュースを報じた。ofoが約1500万台の保有自転車を担保にアリババグループの関連企業2社から17億7000万元(約300億円)の融資を受けたというのだ。滴滴の同意が必要な増資ではなく、借り入れという形で資金を調達したものと思われる。

300億円は大金だが、昨夏に調達した7億ドルが年末には消えていたことを考えれば十分な金額とは言いがたい。資金不足とはいえ、新車投入やマーケティング費用をけちればモバイクとの競争には勝てない。

苦しい立場に追い込まれたofoは、この資金が尽きるまでに決断する必要がある。二強の合併か、滴滴との関係を改善させ再び資金調達を行うか、あるいは資金難での破綻か。モバイクの日本への進出も報じられる一方で、本家・中国シェアサイクル業界の転換点が注目される中、3月13日、ofoは複数の企業から8億6600万ドルの出資を受けたと発表した。リードインベスターはアリババグループ。株主構成の変化、滴滴の意向についてはまだ明らかにはなっていない。テンセントがモバイク、アリババグループがofoを支える形で、中国シェアサイクル戦争は今後も継続する公算が高まった。

(敬称略)

(編集部より:最終パラグラフにofoが3月13日に発表した資金調達の詳細を追記し、記事を更新しました。)


高口康太(たかぐち・こうた):ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国の経済、社会、文化を専門とするジャーナリストに。雑誌、ウェブメディアに多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』『現代中国経営者列伝』。

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