卵子の数で人生設計させられる女子高生——ライフプラン教育は「早く産め」と昭和的家族観の押し付けか

高校生を対象にした「ライフプラン教育」が盛んだ。ライフデザイン教育、ライフキャリア教育とも呼ばれ、進学や就職だけでなく、結婚や出産など人生のイベントも踏まえて将来の計画を立ててもらうのが特徴だ。

授業は主に家庭科、保健体育、ホームルーム、総合学習で行う。2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に推進策が盛り込まれたのをきっかけに、文科省も「ライフプランニング支援推進委員会」を設置。ライフプランを立てるときに何を知りたいかなど、高校生へのヒアリングを重ねてきた。

だが授業内容を見ると、国の少子化対策のために結婚や出産を礼賛するトーンが強い。多様な人生の選択肢を示すというよりは、昭和的な家族観の押し付けになりかねない内容となっている。

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高校生を中心に広がるライフプラン教育。本来多様な人生の選択肢を示すべきが、結婚と出産を礼賛する内容も少なくない(写真はイメージです)。

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前面に「未来のパパ&ママを育てる」

北海道『高校生向け少子化対策副読本 北海道の少子化問題と私たちの将来について考えてみよう』

秋田県『少子化を考える高等学校家庭科副読本 考えようライフプランと地域の未来』

京都府『子育て学習プログラム』       

岡山県『未来のパパ&ママを育てる出前講座』

これは地方自治体が独自につくった高校生向けのライフプラン教育の教材(副読本)とカリキュラムの一例だ。タイトルから、北海道と秋田県は「少子化」、京都府と岡山県は「子育て」を重視していることが分かる。

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秋田県『少子化を考える高等学校家庭科副読本 考えようライフプランと地域の未来』平成29年度版

出典:秋田県少子化対策総合ウェブサイト「ベビーウェーブ・アクション」ホームページ

大切なのは「いつ結婚するか」

秋田県の『少子化を考える高等学校家庭科副読本 考えようライフプランと地域の未来』平成29年度版の冒頭は、県内の出生数と合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子どもの数)の推移を示すグラフから始まる。データは終戦時の1945年までさかのぼって掲載されており、「秋田県の合計特殊出生率はここ 10年ほどは1.3台で推移している」が、「2.07以上ないと人口が再生産されず、最終的に社会が持続できない」と警鐘を鳴らす

「秋田の結婚事情」という章では、結婚にはさまざまな考え方があると断った上で、「単に結婚するかしないかだけではなく、『いつ結婚するか』ということも大きな意味を持ちます」と言い、平均初婚年齢や未婚率の推移のグラフを紹介。「未婚率の増加と晩婚化が少子化の原因の一つ」だと結論づけ、行政や商工会議所などが共同で設立した「あきた結婚支援センター」の活動を掲載している。結婚の長所と短所、自身の結婚観について生徒に考えさせるのがこの章の狙いだが、県民の声として載っているのは「大切な家族がいることの幸せ」「秋田で結婚して良かったなぁと思えること」などポジティブな意見ばかりだ。

子ども3人がデフォルト?

副教材は全部で21ページあり、他にも県内の文化や産業などを学ぶ。最後のページがこのライフプランニング表だ。ワークシートには自分、そして配偶者と3人の子どもの人生設計が立てられるようになっており、「準備・考慮すること」の欄には、初婚、そして第1〜3子出産時の平均年齢が記されている。

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秋田県の副読本に掲載されたワークシート。これを完成させるのがライフプラン教育の目標だ。

出典:秋田県少子化対策総合ウェブサイト「ベビーウェーブ・アクション」ホームページ

秋田県がこの副読本を作成し、県内すべての高校に配布するようになったのは2015年。担当者によると、もともとは性別を問わず活躍できる社会を目指す「男女共同参画」の視点に基づいた教材を使用していた。だが、大学進学や就職で他県に移り住む若者が増え、県内の未婚化・晩婚化が深刻化していることから、ライフプラン教育は少子化対策に特化すべきという声が県庁内で上がり、現在のようなかたちになったという。県政運営の指針「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」にも「次の親世代となる高校生」を対象に「家庭の大切さや家庭を築く意味等について理解を深めるとともに、結婚に対する自然な意識を醸成」するために、副読本を活用促進すると定められている。

古典的な家族観、LGBTも置き去り

このような動きに警鐘を鳴らすのが、ジェンダーと少子化対策に詳しい西山千恵子さん( 慶応義塾大学・ 青山学院大学ほか非常勤講師)だ。

「ライフプラン教育が少子化対策に取り込まれていることに強い危機感を抱いています。秋田県のワークシートに象徴されるように“結婚して子どもを2人以上産む”という古典的な家族観の押し付けになりかねないものや、LGBTなど性的少数者への言及もない自治体が多い。結婚しない、子どもを産まないという選択肢もあるとしっかり示すべきです」

西山さんはこれまで政府や自治体が作成した妊娠・出産に関する教材や啓発冊子を数多く見てきた。最も気になっているのが、そのほとんどに掲載されている「卵子の数」や「卵子の老化」に関するグラフだ。

「女性=産むための体」が強調されすぎ

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福岡県『My Life Design~人生を豊かに生きるには~』

出典:福岡県庁ホームページ

例えば、福岡県のライフプラン教育教材『My Life Design〜人生を豊かに生きるには〜』では、妊娠出産には適した年齢があるという見出しのもと、加齢とともに卵子は質も量も低下する、35歳を過ぎると不妊治療をしても出産に至る確率が下がる、40歳以上の妊娠では流産のリスクが急激に高まると説く。そして横軸が年齢、縦軸が卵子の数を示すグラフを掲載し、図の上に結婚と第1子〜3子までの出産の計画を書き込むように指導しているのだ。

「これは多様性を尊重していないとかそういうことではなく、個人の生殖の権利やプライバシーに踏む込むことで、あってはならないと思います。妊娠出産は女性が持つ特性のごく一部なのに、今のライフプラン教育ではそれが強調され過ぎていて、『女性=産むための体』というアイデンティティが形成されないか心配です。正しい知識は必要だと主張する人もいますが、だからといって出産の圧力をかけていいわけじゃないですよ」(西山さん)

文科省にもあった“不適切データ”問題

しかも、その知識が正しいとは限らない。

過去には文部科学省が不適切なデータを使用したこともあった。

問題になったのは2015年8月、文科省が高校の保健体育の啓発教材として発行した『健康な生活を送るために』の改訂版にあった「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」というグラフだ。妊娠しやすさのピークを22歳とし、それを過ぎると急激に衰えていくようなグラフが掲載されていたが、出典元のデータでは22歳から26歳までほとんど変化がなかった。他にも「あなたにとって子どもとはどのようなものですか」というアンケート調査で、「生きがい・喜び・希望」「無償の愛を捧げる対象」という回答をした人の割合を本来の数字より高く紹介していたことが発覚。どちらのグラフに関しても文科省は誤りを認めて正誤表を配布、馳浩文部科学大臣(当時)も第190回国会参議院行政監視委員会で、早いうちに産んだ方がいいという印象を与える教材だったことは間違いないと認めた。一連の経緯は西山さんの共編著『文科省/高校「妊活」教材の嘘』に詳しい。

「早く結婚してたくさん子どもを産んで欲しい、という意図が透けて見えるような改ざんでした。日本のライフプラン教育はまるで『妊娠適齢期キャンペーン』。そんなことよりも女子高生に本当に必要なのは、避妊の方法やデートDV・レイプなどの性暴力被害の問題、また10代で妊娠することの経済的リスクなどの知識のはずです」(西山さん)

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自治体のライフプラン教育担当者の多くは「結婚や出産は個人の自由」「価値観を押し付けないよう配慮している」と口を揃えるが、一方で、「40歳過ぎて『やっぱり若いうちに産んでおけばよかった』と後悔させたくない」と、その意義を強調する。

3歳児神話信じ、M字カーブ最下位の神奈川

そんな中、妊娠出産ではなくキャリアで後悔する生徒が出ないことを目指してライフプラン教育に取り組んでいるのが神奈川県だ。

背景にあるのは「若い女性の保守化」だ。

神奈川県では子どもができてからもずっと働き続けたいという女性はわずか19.7%で全国最下位(内閣府「地域における女性の活躍に関する意識調査」2015年度)。この傾向は若年層になるほど強く、2016年度の「県民ニーズ調査」では、ずっと仕事を続けたいという女性の割合が全世代の中で最も低く、逆に、子どもができたら仕事をやめて、子どもが大きくなったらパートタイムで働きたいと答えたのが最も多かったのが18~19歳の女子だった。女子高生に限れば、子どもが3歳ぐらいまでは母親は育児に専念する方が良いという考えに64%が肯定的で、これは男子高校生を上回っていた(県立かながわ女性センター「高校生の男女共同参画意識に関する調査報告書」2014年)。

女性の労働力率が結婚・出産の時期に低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する「M字カーブ」の底の値と深さは全国最下位になっている(総務省「国勢調査」2015年)。

専業主婦や非正規にはリスクもある

しかしその一方で、35歳から44歳の仕事に就いていない女性のうち、仕事が欲しいという割合は全国平均を上回る(総務省「就業構造基本調査」2012年)。

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神奈川県『mosimo book もしも、ちょっと未来のことがわかったら...』

出典:神奈川県庁ホームページ

「男性の賃金が下がり非正規雇用も増える中で、男性が働いて女性は家庭を守るという昭和のモデルは崩壊しつつあるのに、未だにそれに縛られて、年齢を重ねて後悔している女性たちがいるということです。こういうことを言うと専業主婦を馬鹿にしているとか、共働きを奨励しているという批判を受けることもありますが、決してそうじゃありません。でも自らそれを選択した結果として、相対的貧困に陥るリスクが高まることは知っておいても良いんじゃないかと思います」

と語るのは、神奈川県でライフプラン教育を担当する人権男女共同参画課・男女共同参画グループリーダーの大塚恭子さんだ。授業で使う啓発冊子『mosimo book もしも、ちょっと未来のことがわかったら...』には、女性のM字カーブや正規と非正規、共働きと方働きでどのくらい収入に差が出るのかも紹介している。

ライフプラン教育は子育て支援課が担うことが多いが、神奈川では男女共同参画課が担当しているのも特徴だろう。

冊子の冒頭は、成長とともにどんな欲求が生まれるのかをアメリカの心理学社、アブラハム・マズローの「欲求5段階説」をもとに考えることから始まり、18歳選挙権や将来のキャリアの選び方が続く。結婚の章では好きになる人が異性とは限らないと言い、LGBTのことや渋谷区で成立した同性パートナーシップ条例を紹介。出産・育児の章では日本の男性の家事育児の時間が海外に比べて少ないというデータを掲載し、夫婦の役割分担について生徒同士でディスカッションするよう促している。

物議を醸したのが、ワークシートの「わくわく妄想用婚姻届」だ。結婚出産は当たり前と考える女子高生たちには好評だったが、教師からは「学校にふさわしくない」「やり過ぎ」だと批判されたという。

女子高生の共感は「夫の転勤で退職」「2歳まで専業主婦」「資格勉強」

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批判された「わくわく妄想用婚姻届」。夫婦の呼び方を記入する欄もある。

出典:神奈川県庁ホームページ

教材には働く男女のロールモデルに特化した冊子もある。

女性では、建設会社の工事主任、パティシエ、保育士の他、結婚を期に退職し自宅でフラワーアレンジメント教室を開くなどさまざまな人が紹介されているが、特に女子高生から共感を集めているのは、夫の転勤をきっかけに退職→子どもが2歳になるまで専業主婦を経験し→現在は社労士の資格取得に向けて勉強している女性だという。

「県の調査では4割以上の女性がキャリアを考えるときに自分の母親を参考にしたという結果が出ています。『女性の社会進出が進んで家庭を守る人がいなくなったから少子化が進んだと母から教えられたし、私もそう思う』という女子高生の声もありました。だから彼女たちの母親以外で、普通の子が普通に努力すれば実現できるような、共感してもらえるようなロールモデルをどれだけ見せてあげられるかが大事なんです」(大塚さん)

大塚さんには、今後やりたいことがある。

「 理系か文系かの進路選択は高校1年生で行う学校が多い。今のライフプラン教育は高校生が対象ですが、中学生のうちから始めて、ジェンダーバイアスを取り除いてあげることが必要だと感じています。どうしてそう考えるの?それって周りに思い込まされてることじゃない?と、女の子たちを縛っているものから解放して、一つでも多くの選択肢を提示してあげることがライフプラン教育の役割ですから」(大塚さん)

高校時代から長期的な視点で自分の人生について考えるライフプラン教育は貴重だ。ただ、それがかえって選択肢を狭めることになり、置き去りにされて傷ついている生徒がいれば本末転倒だろう。

(文・竹下郁子)

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