文韓国大統領はなぜ米朝会談の道筋をつけられたのか——一変した東アジア外交の主役

ピョンチャン(平昌)オリンピックが東アジア情勢を一変させた —— 。

将来、そう評価されるときが来るかもしれない。南北首脳会談と米朝首脳会談の実現に道を開き、核戦争の恐れが現実味を帯びた窮状を緩和したのだから。

もちろん米朝首脳会談が本当に実現するかどうか、多くの変数がある。しかし、米朝の歴史的和解が実現すれば、大国間の利益の草刈り場になってきた朝鮮半島で、「南北コリア」という新主役による初の外交成果になる。ひいてはパワーシフト(大国の重心移動)が進む東アジアの政治枠組みに波紋を広げる一石になるかもしれない。

南北会談

平昌五輪をきっかけに急速に距離を縮めた韓国と北朝鮮。4月の南北首脳会談まで一気に話が進んだ。

KCNA/ Reuters

南北接触で信頼関係構築

膠着状態に風穴を開けたのは、中国でもなければロシアでもなかった。「何としても戦争だけは防ぐ」として、アメリカの軍事行動に協力しない姿勢を鮮明にした文在寅・韓国大統領、それにこのイニシアチブに金正恩・労働党委員長が乗った「南北協力」の成果である。朝鮮半島の近・現代史で、「南北コリア」が主役として、状況打開に取り組む初ケースでもある。

米朝会談については、トランプ政権も安倍政権も「対北制裁の成果」と自画自賛している。しかし実際は、戦争カードをちらつかせるトランプ氏こそが南北を接近させたのだ。核戦争になれば韓国、中国、日本という周辺国に数百万もの犠牲者が出るのを覚悟しなければならない。核戦争には勝者も敗者もない。

日本では評価の低い金、文の両氏だが、冬季オリンピックをはさんだ南北接触の中で、2人は信頼関係を築き、強めていった。平壌で正恩氏と会った大統領特使の一人は、「正恩氏が大統領の朝鮮半島構想を詳細に把握していて驚いた」と語っている。文政権を仲介役にすれば「平等な立場」(北朝鮮外務省報道官)で、アメリカと交渉できると北も判断したのだ。

遺訓と合致する文構想

韓国の文大統領

文韓国大統領の「戦争だけは防ぐ」という執念が今回の急展開につながった。

REUTERS/John Sibley

文氏の「朝鮮半島構想」は、2017年11月発表された。南北の「平和共存と共同繁栄」を目的に、核問題解決と朝鮮半島の休戦協定(1953年)の平和協定への転換による戦争終結を同時に実現させる内容だった。この主張は、正恩氏の祖父、金日成主席および金正日氏の「遺訓」と一致する。

「北京の言うことに聞く耳を持たない」。平壌に、嫌気がさした中国は2017年秋以来、対北説得のさじを投げ「寝てしまった」。中国は制裁強化を従来以上に厳格に執行し、トランプ政権と協力して有事の際の「北の核管理」や「難民収容」に向けた中朝越境行動シナリオすら描いたほどだ。米中協調関係はこれまでになく強まった。

その間、文氏は何をしたのか。ソウル発共同通信社電は次のように分析する。

「文氏はトランプ氏が(圧力から)『関与』にかじを切るまで待たなかった。中国が北朝鮮を6カ国協議に復帰させるかどうか、また拉致問題の打開を狙う安倍晋三首相が動くか否かも見極めずに、文氏は打って出た」

そんな外交イニシアチブに対し、日本やアメリカのメディアは「(文政権は)韓国と日米の間にくさびを打ち込もうとする北の策にはまった」との批判を強めた。しかし文氏は、「南北関係の発展には米朝対話が必ず必要」と取り合わず、トランプ氏もそれに乗った。

外国支配からの自立求めた歴史

トランプ大統領

北朝鮮からの首脳会談の呼びかけに応じると発表したトランプ大統領。「対北制裁の結果」と自画自賛している。

REUTERS/Mike Theiler

朝鮮半島問題を、歴史的な文脈からおさらいすると「南北コリア」という主役の意味が鮮明になる。キーワードは金日成主席の「主体(チュチェ)思想」。

東アジア近代史で朝鮮半島は国境を接する帝政ロシア、朝貢関係にあった中国(清朝)と日本の三国間のバランスの中で生存空間を摸索したが、結局は帝国主義化を急速に進めた日本の植民地支配下に置かれる。

第二次大戦後、独立を果たしたものの冷戦構造の中で分断された。金日成氏は、ソ連と中国の後押しを得て武力統一を目指したが失敗。

一方韓国は、アメリカとの同盟関係の下で「反共防波堤」の役割を担わされる。外国支配に従属させられた歴史である。

金日成氏はその後、ソ連と中国の対立が表面化すると、中ソのバランスをとりながらいずれにも与しない「主体思想」を確立した。それは1970年代から80年代にかけ、軍事政権に反対する韓国学生運動にも大きな刺激と影響力を与えた。文氏もまた70年代半ば、朴正煕政権に反対する民主化デモの隊列にいた学生の一人である。文氏が「主体思想」の影響を受けたと考えても不思議ではない。

脇役ですらなくなった日本

トランプ政権は「南北コリア」によるイニシアチブを受け入れ、中国とロシアも米朝直接対話による局面打開を歓迎している。東アジアでは中国の台頭に伴うパワーシフトが進む。米朝対話が歴史的な和解をもたらせば、アメリカ中心の同盟関係を基礎にした政治の枠組みは流動化する。将来の南北統一を射程に入れた政治枠組みをめぐる米、中、ロ三国の綱引きが始まるだろう。核問題の処理は、依然としてその中心テーマになる。統一朝鮮が、核保有するかどうかでもある。

最後は日本の役割。トランプ氏との電話で、米朝会談を知らされた安倍首相は慌てて4月初旬の訪米を決めた。米朝間で核問題や体制保証の話し合いが進めば、必ずテーマになるのが日朝関係正常化と「賠償」を含む対北朝鮮への経済協力である。

朝鮮問題の主役はかつてのロシアと日本から米中に交代した。2002年の小泉訪朝と国交正常化をうたった「平壌宣言」までは、日本は朝鮮問題でイニシアチブを取れるプレイヤーだった。しかし、安倍氏が「アメリカと100%共にある」と強調すればするほど、アメリカの付属物になっていることに気付くべきであろう。日本は「脇役」ですらなくなる。

今回の核危機で明らかになったのは、米軍と一体化している日本がミサイルの標的になっていること。核戦争になれば日本人を含め数百万人の犠牲者を生みかねないことである。35年間の植民地支配の清算がまだ終わっていない日本にとって、朝鮮半島問題は「他人事」ではない。

ゲームの傍観者として振る舞うのは許されない。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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