世界の株式相場を揺るがせた“主犯“?今さら聞けない恐怖指数の正体

2月上旬以降、世界を揺るがせた株式市場の大幅な下落。直接の引き金は、アメリカの雇用に関する統計が予想以上に改善したことだ。景気の力強い回復が続くことで、アメリカの金利が跳ね上がるのではという観測が強まり、金利上昇を嫌う株式市場からお金が一気に逃げ出したのだ。その動きを増幅したのが、VIX指数(Volatility Index)だ。投資家の将来不安を反映するため恐怖指数とも呼ばれており、名前がおどろおどろしいことから主犯説にまで祭り上げられた。では、その実像は何なのか、今さら聞けないVIX指数を分かりやすく解説する。

リーマンショック時は80超え

VIX指数の推移グラフ

出典:シカゴオプション取引所(CBOE)のデータを基にBusiness Insider Japanが作成

VIX指数を弾き出すのに欠かせないのが、オプション価格だ。オプションとは、事前に取り決めた価格で「買う権利(コールオプション)」、「売る権利(プットオプション)」を取引するもので、一種の保険のようなものと考えてもらえばいい。この権利自体にも相場があり、価格は変動する。

例えば天変地異や政治の異変、経済政策の急な変更など予想を超えた出来事が起こったり、それが株式相場の急変に結びついたりすれば、保険(とりわけプットオプション)に頼ろうという不安心理から投資家が殺到するため、オプション価格が上昇する。不安になればなるほど、価格の変動が激しくなるため、ボラティリティ(変動率)が跳ね上がる。将来に対する投資家心理を映し出す鏡と言われるゆえんだ。

VIX指数はアメリカの主要株価指数S&P500のオプション価格からボラティリティを計算したもので、シカゴオプション取引所(CBOE)が15秒ごとに更新し、公表している。株価指数ではアメリカを代表する30銘柄を集めたダウ工業株30種平均(ニューヨークダウ)が知られているが、S&P500はカバーしている企業数が500社と幅広く、多くの投資家にとっての資産運用のベンチマークになっている。両者は日本の日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)の関係に近いと考えたらいいだろう。

VIX指数は普段は10から20ぐらいの間で推移しており、30を越えると警戒感が高まり、40を越えるとマーケットがクラッシュ(崩壊)しているとみなされる。歴史的に見ても2008年のリーマンショック、2010年の欧州ソブリン危機、2011年のアメリカの債務上限問題、2015年の中国人民元の切り下げなどが起こったとき、40に限りなく接近したり、40を超えたりしている。特にリーマンショックの時は90近くまで達した(引け値ベース)。

それらと比べると、今回は明確にショックと言えるものがあったわけではないのにVIX指数は一時的に40を超えた。しかも、いきなり急上昇したことが、市場を狼狽させた。

「適温相場」のぬるま湯が狼狽売りを拡大

東証

「適温相場」が続いたことがマーケット急変の伏線になっている。

撮影:今村拓馬

それは、「適温相場」と呼ばれる熱くも冷たくもない「ほど良い」投資環境が続いていたからだ。世界的に景気が緩やかに回復し、金余りが続いている状況の中では、投資はリスク資産に向かいやすく、株式市場がその恩恵を受けていた。一部ではさすがにバブルの指摘もあったが、適温相場が続くはずという前提がある以上、耳を傾ける人は少ない。ぬるま湯の中に長く浸かっていたので、少し冷たい水をかけられたら驚いて飛び出したとも言える。

それでは、VIX指数がなぜ主犯として取り沙汰されたのか。実際のところVIX指数を組み込んだ金融商品もあるにはあるが、規模が圧倒的に小さい。VIX指数に詳しい大手証券会社の担当者によると、「株の先物に比べると10分の一以下、株の現物との比較ならわずか0.01%」と語るほどで、ここが変動したところで本来なら相場への影響は限定的なはずだ。

ところが、今の株式市場はコンピューターのプログラムによる自動売買(アルゴリズム取引)を使った超高速回転での取引が主流。VIX指数もまた重要な判断材料に組み込まれているため、指数が異常に跳ね上がれば「とりあえず株を売れ」という指令が一斉に出される。相場の急変を見た個人投資家なども処分売りを迫られたことで、まさしく売りが売りを呼ぶ展開となったのだ。

予測不能なトランプ政権がリスク要因に

ニューヨーク証券取引所

2018年2月上旬、ニューヨーク証券取引所の立会場で働くフロアブローカー。

REUTERS/Brendan Mcdermid

先述のようにオプションはそもそも保険の一種のはずなのに、現物相場を揺り動かす“増幅装置”となっている。これが、尻尾が胴体を振り回した異常事態の真相だ。

VIX指数にはもう一つ特徴がある。瞬時にいくら跳ね上がっても、その高さに応じて時間がたてば落ち着いていくということだ。となると今回は、引け値で37だったことを考えると、比較的早期に相場は落ち着きそうなものだが、しばらくは神経質な展開が続くと見る向きは多い。

その中心にいるのが予測不能なトランプ大統領の存在だ。鉄鋼やアルミニウムに高率関税をかけると宣言し、対中国や対欧州との貿易戦争が現実味を帯びてきた。日本も例外扱いにはならない可能性があるため、交渉によっては特定の産業が譲歩を迫られるかもしれない。世界を驚かせた北朝鮮の金正恩委員長との歴史的な会談も、実現までには紆余曲折が予想され、今度は実現しないことがリスクになりうる。

国内でも財務省による決裁文書の書き換えが露見した森友問題で、安倍一強が大きく揺らぎ出した。市場はとにもかくにも不確定要素を嫌う。

季節が温かくなるのと逆行して、相次いで浴びせかけられた本当の冷水。その指標となるVIX指数に当面、注目が集まるのは避けられそうにない。

(文・田中博)

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