年収減っても、元メガバンク30代がベンチャーに賭ける未来の市場価値 【本音座談会・後編】

日本のベンチャーキャピタル(VC)による投資額が増え続ける一方で、有能な人材の大手金融機関からテクノロジーベンチャーへの流れは続いている。

20万人以上が働く三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャル、三井住友フィナンシャルの大手金融3グループでは、今後フィンテックを活用することで、業務や人員の削減を進めていくと報じられる一方で、100を超える地方銀行(地銀)においては業界再編の動きが活発化している。

三菱UFJフィナンシャルグループ

時価総額9兆9000億円の三菱UFJフィナンシャル・グループ。

REUTERS/Yuya Shino

日本の金融界が大きな変化の渦に巻き込まれる中、最大手の三菱UFJを辞め、新興のテクノロジー企業に転職した30代3人に話を聞いた。後編では、転職した小規模の企業で待ち受ける新たな課題と、年収の減少を余儀なくされる彼らが追い求めるものについて掲載する。

前編はこちら:【本音座談会】私たちはなぜ30代でメガバンクを辞めたのか—— 三菱UFJからSansan、ユーザベース、マネフォへ転職


  • 黒川慶大さん(30):2017年6月に三菱東京UFJ銀行(BTMU)からユーザベースに転職。神戸大学卒業後、2010年に同行に入行。法人営業に配属され、中小企業から大企業までを担当した。
  • 矢尾板千絵さん(34):2015年3月にマネーフォワードに入社。青山学院大学卒業後、三菱東京UFJ銀行に入行し、営業本部やアセットファナインス部などに所属。2014年に銀行を辞めた後、約半年間、「自分探し」を目的に職を持たない生活を続けた。
  • 沢邉崇さん(35):2011年に三菱UFJ証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)からSansanに転職。青山学院大学卒業後、同証券会社に入社すると、リテール営業部に所属し株式や投資信託を個人投資家に販売した。トレーディング部に移動した後、三菱東京UFJ銀行に出向した。

一歩二歩先をいく仕事の市場価値

Business Insider(以下、BI)転職して、これは良かったと思うことは何でしょうか?

黒川:やりたいことを自分で決めて、没頭できる環境を得られたと思います。大企業だと上から降ってくることが多々あるので、それをなかなか自分で消化できないことがありました。ベンチャーでは自分のやりたいことに対して目標を決めてやっていきます。

BI収入は落ちましたか?

黒川:落ちますね。私は転職する1年半くらい前に結婚して、半年くらい前に子どもが生まれました。

自分が父親として、子どもからどう思われたいかと考えたことがあります。思い切り稼いでいるけど、毎日つらい顔をして、お前のために頑張っているんだぞという父親が良いのか?自分のやりたいことをやってお金を懸命に稼いで、輝いている親の後ろ姿を見せたいのか? 圧倒的に後者かなと思いました。それを妻が後押ししてくれました。

黒川慶大さんと矢尾板千絵さん

現在ユーザベースに勤務する黒川慶大さん(写真・右)とマネーフォワードで働く矢尾板千絵さん。

Business Insider Japan

BI規模の経済を追いたいと思わないですか?

黒川:思わないですね。AIなどの発展によって、5年後に大部分がなくなっているかもしれない仕事を懸命にやるよりは、一歩二歩先の仕事を取りにいく、もしくは自分でつくっていく方が、圧倒的に市場価値は高くなるのかなと、銀行を飛び出す前にも感じました。

矢尾板:私の場合、銀行を辞めてどこに行こうか決めていなかったので不安でした。マネーフォワードに出合い、3年働いてみると、営業としての自信がつきました。私が入社したときのマネーフォワードは今ほど知名度もなく、その頃はなかなか話を聞いていただけなかった税理士事務所さまに飛び込みで行って、売り込みができるようになりました。

世で言う営業のハードさを経験させてもらったという意味では、この経験が糧になっているなと思います。

大企業にいる時、支社で一組織一会社という感じがしたけれど、その中に経営を決定する人だとか、労務や経理の人はいないんですよね。マネーフォワードでは、同じフロアで顔の見える範囲にいる労務担当者や経理担当者、社長も近くにいるので身近に感じます。

マネーフォワード・オフィス

東京・三田にあるマネーフォワードのオフィス。

撮影:渡部幸和

そういう人から、業界の話を小耳にはさむことで会社がどう運営されているのかが目に見えて分かるようになった。銀行で見えなかった会社の運営や流れを見えるようになりました。世の中の流れがこうやって成り立っていて、会社はこうやって成り立っているとか、世の中の流れを縮図的に見えた気がします。

ミラクルを起こす瞬間

黒川:大企業のときは我慢してやることが美学のようなものがあった気がします。先輩や上司がこうやっていたから、自分もこうやることが正しいという雰囲気がありました。今は無駄であれば無駄だと言えますよね。

沢邉:私がベンチャーに移って思えたことは、奇跡は起こすことができるんじゃないかということでした。その瞬間に立ち会えることができると感じたことが全てです。私がSansanに入った当時、月に2、3社にサービスが売れれば御の字という感じでした。

月に10件くらい売れたら良いよねと話していたんです。そして、それが起きるんです。みんな驚きました。これはなかなか経験できない機会だと思いました。矢尾板さんが言うように、オフィスにはエンジニアさんがいて、経理の人や営業の人がいて、社長も顔の見える距離にいる。何かあれば、すぐにこれはこうしよう、あれはこう変えようと動いていく。そして、できないだろうと思われていたことをどんどん実現できる。

沢邉崇さん

現在、Sansanに勤務する沢邉崇さん。

Business Insider Japan

ミラクルは起こせると思いました。 私が入ったとき、Sansanのサービスを導入する企業は350社くらいでした。今や7000社です。自分で営業しながら、ここまでよく来たなと思っています。

時間とリソースが足らない

BI一方で、ベンチャーに転職されて「厳しい現実だ 」と感じたことはあったのではないですか?

矢尾板:時間とリソースが足りないというところですかね。銀行のときの営業は、人をつないでくることが大事でした。商品はそろっていて、それらを説明する優秀な人材も多くいました。転職してからの営業の仕事はとても多いです。提案書づくりから小さな作業まで、自分でやる必要があります。やりたいことがたくさんある!と気付くと夜遅くなっていたり。それが楽しくもあるのですが。

沢邉:矢尾板さんが言うようにリソースが足りないとか、体制がそこまで整っていないというところはあります。給与は一度下がるけれど、その後の自分次第でどうとでもなる。給与の減少はそもそも気にしていなかったです。

黒川:私は給与はこだわっています。短期的な給与は銀行には負けるかもしれませんが、3年後、5年後に今の会社の市場価値が高まっていれば、それに見合った給与ベースになるはずです。そして、自分の価値も上げていく。銀行にいたときよりも、絶対に負けたくないと思っています。

丸の内の夜

「日本はこれから少子高齢化で人口も減っていくし、日本経済にどれだけの資金需要があるんだろうと考えてしまいます」(黒川さん)

撮影:今村拓馬

いずれは経営者としてやっていきたいという思いもあります。今の経済の流れは速いですから、いかに不確実の中で、自分でリスクをとって決めていけることが大事だと思っています。大きい、小さいにかかわらず、いかに意思決定をしていけるか、意思決定のプロセスをどれだけ増やせるかが、経営者としてできるかできないかに関わってくると思います。

今は、置かれたポジションで意思決定の回数をいかに増やせるかを意識して、頑張っていきたいと考えています。

近未来のメガバンクの姿とは

BI最後に近未来のメガバンクをどうイメージしますか?

黒川:3つ銀行がくっつくイメージは持てないですね。地銀は再編をどんどん進めていますよね。日本はこれから、少子高齢化で人口も減っていくし、日本経済にどれだけの資金需要があるんだろうと考えてしまいます。

ですので、いかに海外で展開していけるかが、メガバンクの生きていく道になっていく気がします。特に成長しているアジアの市場などでポジションを確立していくことで、それぞれに生きていく道はあるんじゃないかなと思います。

そして、AIやロボティクスは、現在取り組んでいる多くの仕事をするようになるのではないでしょうか。5年後にどこまで変わっているか分からないですけど、未来から今を振り返ったときに、そう思われる仕事をしているのではないかなと思うことはありました。

夜の東京・大手町

「5年の間で、(銀行の)店舗はどんどん少なくなっていくだろうと思います。いくつかの店舗はATMだけのスペースに変わるかもしれない」(矢尾板さん)(写真:夜の東京・大手町エリア)

撮影:今村拓馬

矢尾板:5年で大きく変わるかと考えると、そこまで変わらないのかなと思うこともあります。ただ、5年の間で、店舗はどんどん少なくなっていくだろうと思います。いくつかの店舗はATMだけのスペースに変わるかもしれないなという気はします。

ベンチャー企業をグループに取り込んでいくのか、提携していくのかは分からないけれど、より一層ベンチャーと組んでいく動きは出てくるのかなと思います。銀行の中の人がやるというより、スピード感のあるベンチャーと組んだ方が効率的な場合も多いだろうから、この流れは速まるのかなと思います。

沢邉:メガバンクはすごい勢いで小さくなっていくんじゃないかなと思います。

今は資金調達の敷居は下がっていますよね。クラウドファンディングを使って、数百万円単位の資金を簡単に集められるようになってきています。個人で資金を集められる世界は大きくなっていくのかなと感じます。逆に数百万円単位や1000万円程度であれば、銀行に頼らなくなるのかなと思います。

それと、新たに銀行業界に参入するところも出てくるだろうと思います。アマゾンのようなところがぐっと席巻してくることは本当にあるかなと。メガバンクが潰れることはないにしても、限られた業種業界に対して特化していくような動きは起こるのかなと思うことがあります。あまねく広くの融資みたいな銀行は細くなっていくんじゃないかなと思っています。

(聞き手・構成:佐藤茂)

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