全員未経験者、週休2日で最年少杜氏率いる酒蔵は「最高賞」を取った

首都圏を中心に人気の日本酒「AKABU」。美味の秘訣は、蔵の働き方改革にある。働き方に変化をもたらしたのは、杜氏の古舘龍之介さん(25)だ。「新しい赤武の歴史を」と、2014年に22歳の全国最年少杜氏として、東日本大震災で被災した実家の蔵を継いだ。

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赤武酒造の若手杜氏の古舘龍之介さん。手にする「AKABU」のラベルは、酒造り未経験だった従業員がデザインした。

「もう無理だな」

当時、東京農業大学醸造科の1年生だった龍之介さんは、頭が真っ白になった。実家の赤武酒造は、岩手県沿岸部の大槌町で1896年に創業。蔵を継ぐ覚悟で進学していたが、震災により、津波と火災で蔵が全壊した。

龍之介さんの父・古舘秀峰さんは、蔵の存続に奔走、盛岡市内の桜顔酒造の協力を得て、酒造りを続けた。その後、2013年に国の補助金を使って、赤武酒造の「盛岡復活蔵」を盛岡市内に建てた。

龍之介さんが蔵を継いだのは、翌2014年。同年3月に大学を卒業後、関東の酒蔵と酒類総合研究所で短期間勉強し、すぐに赤武酒造に入った。

龍之介さんが造りたいのは「きれいでフレッシュ、かつしっかりした味のあるお酒」。同世代にも飲んでもらえる味にしたかった。そこで誕生させたのが「AKABU」だった。

蔵の伝統銘柄「浜娘」は震災により一時注目を集めたが、震災から時間が経つにつれ、出荷数は落ち着いた。「AKABU」はそんな蔵の新機軸になる期待を背負った。

蔵の中心商品は普通酒だったが、吟醸にシフトした。吟醸の造りは普通酒に比べ、飲みやすく、近年人気がある。その分、仕込みにはかなりの手間がかかる。

復活グラ

2013年に建てた盛岡復活蔵。企業の依頼を受けた試験・分析などをする「岩手県工業技術センター」が向かいにある。

初心者に安全な蔵の設備

実は当時、蔵で働いていたのは酒造りの未経験者ばかりだった。

蔵が大槌町から盛岡市に移り、地元の従業員が通うには車で2、3時間もかかる。毎日通うのは現実的ではなかったので、酒造りを再開した時に従業員を新たに採用したのだ。

秀峰さんが酒造りを再開する際に、県内で企業説明会を開き、採用したのは主に20〜30代の男女4人。新たなメンバーは震災を機に、関東から地元の岩手に戻った人たちが中心で、介護や時計の販売をしていた人ら異業種が集った。

「盛岡復活蔵」は、女性や未経験者も安心して働ける設備にこだわった。機材にキャスターをつけて運びやすくしたり、米を移動させる小さなクレーンを導入したり、酒造りの工程に合わせた動線を確保したり。細かいことだが、作業服も濃いオレンジ色のパーカーにして蔵の中で目立つようにした。

赤武酒造

当初は未経験だった赤武酒造の従業員たち。1列目の中央は、古舘龍之介さん。AKABUのマークが付いたシャツを着てポーツをとる。

出典:赤武酒造

週休2日のシフト制、集中力で美味を実現

現在の従業員数は10人弱、酒造りに携わるメンバーは6人。

龍之介さんは蔵を継いだ2年目後半〜3年目にかけて、従業員に週休2日のシフト制を導入した。夜中や泊まりの業務もなくした。

多くの作業工程に機械を導入し、酒造りの期間を10月から5月の8カ月間と従来よりも延長することで作業を分散させた。

「『酒造りは手作りじゃないと』というイメージがあるかと思いますが、手作りでやるところはやる、機械に任せるところは任せる。そうしないと休めない」と龍之介さん。

蔵を継いで2年目までは、「機械を信用せずに、手作りにこだわっていた」。ほぼ1人で造り、夜中から朝まで作業を続けると、吸水や洗米の度合いの数パーセントがずれていても、「いいか」と作業が甘くなっていた。

誤差が重なれば、結果的に味に大きな影響を与える。「集中力がないと美味しいお酒をつくれない」と龍之介さんは気付いた。

「酒造りは微生物を扱うので、気温の変化とか、いろいろなことを考える時間が大切」(龍之介さん)

今は、従業員たちと作業工程のデータを記録し、落ち着いて次の改善点を相談する余裕もできた。

龍之介さんの東京農大の同級生の中には別の蔵で働く友人もいるが、「3カ月休みがなかったり、たまに会っても愚痴しか言わない。そういう会社にはしたくない」と思った。

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苦労をして考えたシフト表。酒造りの期間を長期にして、1日4人体制を実現した。

取引先は必ず蔵に招待

新たな職場環境で醸した「AKABU」は現在、首都圏の地酒専門店を中心に、60〜70社の卸売業者と取引する。震災前は県内出荷が中心だったが、首都圏を中心に龍之介さんが父と飛び込み営業をして、徐々に開拓した。

龍之介さんらは取引にあたり、卸売業者の担当者を蔵に招くようにしている。

(自社は)人数が少なくて、営業ができない。すべてを販売店にお願いすることになる。(担当者に)蔵を見てもらって、時間があれば夜は一緒に飲みに行ってもらう

自社で作ったスライドや動画で再建までの思い、未経験だった従業員たちの横顔を知ってもらう工夫をしている。

商品に対する評価も付き、ついに「AKABU」は、2017年度の岩手県新酒鑑評会で最高賞の県知事賞を受賞した。東北各県の鑑評会は全国の中でもレベルが高く、「いつかは取りたいね」と従業員と龍之介さんが話していた「夢」の1つだった。

「蔵ができた時に、新しい赤武酒造ができた。一時期、震災のことで落ち込んだ時もあったけど、今は未来のことを考えたい」と龍之介さん。蔵はこの4月、岩手大学大学院で微生物を学んだ若者を、初の新卒者として迎え入れる。

(文・撮影、木許はるみ)

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