渋谷がラブホから“ソーシャルホテル”の街に —— トレンドは働く人が集まるコワーキングとの併設型

Gapなどファッションの旗艦店が閉店し、渋谷パルコも一時休業。「若者ファッションの街」のイメージが強かった渋谷が少しずつ変わり始めている。代わって続々と進出を果たしているのがホテルだ。それも「宿泊」だけでなく、人が集まり働く場としてのホテル。「買い物」「遊び」中心だった渋谷変貌の象徴となっている。

The Millennials 渋谷

「複合型」ホテルが進出する渋谷

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「The Millennials 渋谷」の特徴は、総ホテル面積の20%を占めている共用スペースだ。

2017年から2018年にかけて、ファッション店舗、イベントスペースなどを備える複合ホテル施設が渋谷地域に続々とオープンしている。

3月15日、渋谷の駅前からNHKに向かって延びる公園通りにミレニアル世代(1980年以降生まれ)のためのライフスタイルホテル「The Millennials (ザ・ミレニアルズ)渋谷」がオープンした。

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The Millennials」シリーズは京都に続き2軒目。首都圏を中心に35棟の「ソーシャルアパートメント(共用キッチン、ラウンジなどを備えたアパート)」を展開するグローバルエージェンツが運営する。

The Millennials 渋谷」の通りを渡った向かいには、2018年2月に「hotel koé tokyo(ホテル コエ トーキョー)」がオープンした。

同ホテルも1階にはイベントスペースやレストラン、2階にはファッションやアイテムの売り場がある複合施設だ。「earth music&ecology」なども展開するアパレル企業、ストライプインターナショナルが運営している。

渋谷ホテルマップ

マップ:Business Insider Japan

神泉町エリアには「徳島県の魅力を発信する」をコンセプトにレストラン・マルシェ・ホテルの一体型施設「TurnTable(ターンテーブル)」が2018年2月に始動。さらに2018年秋には東横線渋谷駅跡地に大規模複合施設「渋谷ストリーム」がオープン予定。こちらも約180室の客室を備えたホテルが入る予定だ。

渋谷ホテルラッシュの先日を切ったのは2017年5月にオープンした「TRUNK(HOTEL)」だ。渋谷駅から明治通りを原宿方向に徒歩で10分ほど、決して“便利”とは言えない立地ながらも、1階のラウンジはいつも打ち合わせの人やパソコンを広げて仕事をする人で賑わっている。

「ソーシャライジング(自分らしく社会的な目的を持って生活すること)の発信拠点」をうたうホテルだけあって、自分のオフィス代わりに使っている人たちも目立つ。

ホテル + コワーキングスペース

これらのホテルは、宿泊者以外にも開放されたスペースが併設され、コワーキングスペースなどとして活用できるという特徴がある。

TRUNK(HOTEL)

TRUNK(HOTEL)1階のバーラウンジには共用デスクが置かれ、仕事をしている人の姿も目立つ。

実は渋谷は、日本で一番コワーキングスペースが多い地域だ。東急総合研究所の調査によると、渋谷区のコワーキングスペースの数は2013年から2017年にかけて37カ所から72カ所と倍増している。港区、千代田区、中央区、新宿区といった都心区域と比べてもこの数字はダントツで多い。

コワーキングスペースの増加に比例するように、渋谷には今起業家やフリーランスの人たちが「働く場」として集まってくるようになった。

仕事帰りにTRUNK(HOTEL)に行ってみた。午後7時30分頃に着くと、バーラウンジは多くの人。DJが大音量でアッパーなチューンを流す中、4割ほどの人たちは黙々と仕事をしている。

丸テーブルを囲んで作業していた若者たちに声をかけてみた。安藤伊織さん(21)は、都内の大学を3年で休学し、大学の友人2人と女性インスタグラマーのブランディングをするメディア「TranSe Media」を運営している。2018年4月には会社を設立する予定だ。

TRUNK(HOTEL)

TRUNK(HOTEL)で仕事をしていた安藤伊織さん(左)とその友人たち。4月に会社を設立する予定だという。

TRUNK(HOTEL)にはほぼ毎日のように訪れているという安藤さん。大きな理由は、ドリンクを購入すればWi-Fiと電源がある環境に好きなだけ滞在できること。仕事を通じて知り合った広告代理店のクライアントやモデルなどにここで偶然出会えることもある。

一度仕事をしていちいち連絡を取るほどではないけど、という人たちにもここで偶然会えると、より関係が近づいた感じになれますね」

コワーキングスペースを併設するハイブリッド型のホテルが増えている理由としてL&Gグローバルビジネス 取締役で「HOTEL SHE,」などのホテルをプロデュースしている龍崎翔子さんは、ホテルをレートで評価する予約サイトが浸透し、ホテル間の競争が高まっている状況が背景にあると指摘する。

いかに“指名買い”やリピーターを増やすかが今のホテルの課題。観光客だけでなく、日本で働く人たちにも利用してもらえるような場所を設け、SNSでの評価を上げるのは解決策の一つです」

背景には百貨店・量販店の苦戦

hotel koe Tokyo

「hotel koé tokyo」は建て替え中の渋谷パルコのちょうど向かいにある。

渋谷に複合型ホテルが進出しているもう一つの大きな理由は、ECサイトを通じたネット通販の台頭による小売店舗の苦戦がある。

市場調査などを行う矢野経済研究所によると、2016年の国内アパレル小売市場規模は2年連続で縮小し、9兆2202億円となった。販売チャネル別に見ると、百貨店や量販店が苦戦する一方で、インターネット通販は2011年から売り上げを拡大させている。

2011年と2016年の「その他(通販等)」と百貨店・量販店・専門店を合わせた全体を比較すると、2011年は1兆2029億円で全体の13.2%。これが2016年になると1兆4527億円まで伸び、全体の15.7%を占めるようになっている。

実際にここ数年、渋谷ではファッションビルの閉店や休業が相次いでいる。

大きな話題になったのは、渋谷パルコ(パート1、パート3)の一時休業だろう。渋谷パルコはビル建て替えのため2016年8月から一時休業。2019年には地上20階、地下3階に渡る大型複合商業ビルとして再オープンが予定されている。

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マルイシティ渋谷から生まれ変わった渋谷モディは、「ライフスタイル提案型」商業施設をうたう。

それに先立ちタワーレコードビルの向かいにあった「マルイシティ渋谷」は2015年11月、学びや体験をキーワードに「ライフスタイル提案型」商業施設として、渋谷モディに生まれ変わっている。

その他にも2017年にはルミネマン渋谷、Gapストア 渋谷店、アーバンリサーチストア 渋谷店などの小売店が閉店している。

規制緩和でホテル建設容易に

インバウンドの観光客増加に対応するため、渋谷区もホテルの建築規制の見直しを急ぐ。区はラブホテルの建設を抑制するために2006年に制定された「渋谷区ラブホテル建築規制条例」を2016年に改正。

改正前の条例ではフロントやロビーを1階に置くことが義務付けられており、またダブルベッドを備えた客室数の割合も制限されていた。これにより、下層階に別の施設が入った複合型ホテルや一般のホテルの建設も難しくなってしまう状況が続いていた。

2016年に同条例の規制を一部緩和。フロントやロビーを中層階に置くことが可能になり、複合型ホテルの建設が容易になった。旅館業法の改正に伴った更なる条例改正も現在審議が進められている。

渋谷区議会議員 鈴木けんぽう氏のツイート

住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行でも注目が集まる旅館業。同じホテルでも「ラブホが多い街」のイメージから脱却し、人が集い、働く場としてソーシャルな機能を持つホテルが増えることで、何かが“生まれる”場所としての渋谷に生まれ変わるのだろうか。

(文・写真、西山里緒)

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