8500億円の巨額予算! ネットフリックス vs. アマゾン 激突する配信ビジネス

ネットフリックスのアプリ

撮影:伊藤有

「他社の真似はしない。絶対に・絶対に・絶対に」

3月6日(米国時間)Netflix(ネットフリックス)は、世界各地からプレス関係者を招き、同社の経営方針や技術を説明する「Netflix Labs Day」というイベントを開催した。そこで記者とのQ&Aセッションに登場した、CEOのリード・ヘイスティングス氏は、「アマゾンなどとの競合」について問われ、即座にそう発言した。

この見解は、もう数年間変わっていない。2年前に筆者が尋ねた時にも「彼ら(Amazon)は競合ではない」と答えている。

だが消費者から見れば、ネットフリックスとアマゾンは動画配信で競合し、ともにオリジナルコンテンツ制作に力を入れているように感じられるはずだ。では、両社はどう異なるのか? ネットフリックスへの最新の取材から、その点を分析してみよう。

8500億円をコンテンツ制作に使うネットフリックス、スポーツにも投資するアマゾン

ネットフリックスのオフィス

「Netflix Labs Day」で盛り上がるネットフリックス本社前。

現在、動画配信ビジネスの競争軸は、いかに良質な「オリジナルコンテンツ」をつくるかだ。日本で感じる以上に、ことハリウッドの街を歩くと、肌身にしみて伝わってくる。

ネットフリックス売り上げの用途

ハリウッドのビルボードは新作映画やドラマに関するものが多い。ネット配信のオリジナル作品が急増しているためだ。ネットフリックス作品はもちろん、アマゾンやYouTubeの作品も見受けられる。

「私たちは、契約者をどう楽しませるかを常に考えている。今年(2018年)、契約者からは約150億ドルを得る。顧客からお金を預かり、素晴らしいコンテンツに投資するのは私たちの責任だ」(ヘイスティングス氏)

現在の計画では、80億ドルをオリジナルコンテンツの制作にかけ、さらにそのコンテンツのマーケティングに20億ドルをかける。消費者からの収入の大半を投じてしまうわけで、かなり大胆な施策である。

ネットフリックスの宣伝看板

ハリウッドにある巨大看板。ネットフリックスの人気作品「ジェシカ ジョーンズ」の告知。

アマゾンプライムのオリジナルコンテンツ

アマゾンオリジナル作品のビルボード。

YouTubeのオリジナルコンテンツ

ネットフリックスやアマゾンだけではなく、YouTubeの定額サービス「YouTube Red」(日本では未上陸)も看板を掲出してアピールしている。

ライバルであるアマゾンも、Prime Videoのオリジナルコンテンツ制作に、2017年だけで45億ドル(約4792億円)を投資した。2018年にはさらに増額すると予想されている。ネットフリックスに比べると額は少ないが、それでも巨額だ。しかもアマゾンは、スポーツにも投資している。米NFLの「Thursday Night Football」(木曜夜に中継される試合のことで、NFLの中でも主要なシリーズのひとつ)の配信権を、Twitterなどとの競り合いの末に獲得している。これが10試合分で5000万ドル(約53億円)と見られる。

放送局とネット配信では「投資回収」モデルが違う

ビジネスモデルの比較

放送局とネット配信ビジネスとでは、同じオリジナルコンテンツへの投資であっても、その意味や活用の方法は大きく異なる。

放送局は基本的に「フロー」のビジネスだ。放送は「今流れているもの」への関心が主軸であり、顧客の関心もそこにある。せいぜい、番組ガイドに載っている数カ月の番組予定が頭にあるくらいだ。投資したコンテンツも、放送で流れている間に消費してもらうもので、投資回収期間も「放送期間」で考えるのが基本だ。もちろん現在は、ディスク販売や配信収集、映画化やグッズ収入もあるが、それらは付加的なものだ。

ネットフリックスのオフィスの様子

オフィス入り口にある、プロジェクションマッピングを使ったオブジェ。ネットフリックスは1700種類のデバイスに対応しているが、多彩な選択肢があることをアピールしたものだ。

それに対してネット配信は「ストック」のビジネスだ。コンテンツの価値は「公開直後」がもっとも高く、その点は放送局とかわりない。しかし、過去に配信した番組も、サービスの中からなくなるわけではない。常にそこにあり、ライブラリーはどんどん増え続ける。

放送の場合、いくら再放送ができても「枠の量」に制限があるため、過去コンテンツの活用量には制限がある。

ネット配信がオリジナルコンテンツの制作に積極的になれるのは、ひとつのコンテンツの投資回収期間を(放送に比べて)より長く設定できるからだ。

コンテンツ資産の寿命を長く保てるもうひとつの要因が、過去のコンテンツのうち、その人が好みそうな作品を推薦する「レコメンド」だ。精度はまだ完璧ではなく、不満の声も少なくないが、とはいえ現状でも有効に機能しており、コンテンツの効率的な利用にはプラスに働いている。

「スポーツやニュースに踏み込まない」(ネットフリックス)

同じ「ストック型」を主軸とするネット配信事業者でありつつ、ネットフリックスとアマゾンではコンテンツ調達の方針とビジネスモデルに大きな違いがある。

リード・ヘイスティングスCEO

「Netflix Labs Day」に登壇したネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEO。

まず、ネットフリックスは「オンデマンドコンテンツ」に特化し、ニュースやスポーツなどを手がけないが、アマゾンはそうではない。

ネットフリックスが特殊で、他の事業者の「なんでも配信する」やり方の方が一般的なアプローチといえる。

ヘイスティングスCEOは記者の質問に、次のように答えている。

我々の中核戦略は、とにかく「集中し続けること」だ。すばらしいドラマシリーズや映画を制作すれば、顧客は私たちを愛し、商業的な成功を続けられるだろう。他のサービスをコピーしようとし、気を散らしてしまったり、成功していること以外の、他のことをしてしまったりすると大変なことになる。

我々がしなければならないことは、フォーカスを絞って勝つこと。他社の戦略は、広範囲にわたるやり方で勝つことだ。

私たちは他社のやり方をコピーすることはできないし、その路線で勝負をするつもりもない。

私たちはドラマだけを見て暮らしているわけではなく、ニュースやスポーツを見ている時間も多い。特にスポーツは、各国や地域で人気のスポーツがあり、非常に底堅いビジネスだ。

一方で、コンテンツに割り当てることのできる予算は限られている。人気のスポーツの権利料は高騰しやすく、特にアメリカ市場の権利は、関係企業の間で取り合いにあり、値段が上がりきった状態だ。

そこに予算を割くなら、ドラマ・映画・アニメ・ノンフィクションといった、現在ネットフリックスが強みを発揮できる部分にのみ投資しよう —— これが、ネットフリックスがとった方針だ。

「ローカル」重視のアマゾン、「グローバル」を追求するネットフリックス

Amazonプライムビデオ

Shutterstock

コンテンツ調達の方針についても、アマゾンとネットフリックスには大きな違いが存在する。

日本向けのコンテンツを見るとわかるが、Amazonは「いかにも日本人好み」のものが多い。2017年以降、オリジナルコンテンツとして、吉本興業とタッグを組んで多数のバラエティを制作しているが、あれはまさに「日本向け」だ。表現の幅は地上波と異なるものの、テイストはまさに「日本の地上波向けバラエティ」である。

対してネットフリックスのオリジナルコンテンツは、「これは日本以外では通じないだろう」と感じる要素は減る印象だ。

どちらも日本から見れば「外資系」だが、国内でのビジネス手法が大きく異なるのだ。

アマゾンの映像コンテンツはなぜローカル性が強いのか

アマゾンプライムビデオ

Amazon Prime Video日本版の画面。日本のテレビ番組かのような、ローカル性重視のドラマやバラエティ作品が多数ある。

アマゾンは、各地域でのビジネス独立性が比較的強い。世界中で配信することを前提にアメリカ本社が制作を担当するものもあるが、各地の法人が、その地域でのビジネス状況を考えてコンテンツ調達をする場合が多い。

そのため、Amazonの場合、配信されているコンテンツが「日本でしか視聴できない」ものの比率が多い。あくまで日本のアマゾンと配信契約を結んだものであるからだ。

アマゾンはコンテンツの調達に際し、DVD販売から得られた顧客データを活用している。どういう層がどういう作品を好んでおり、Amazon Prime Videoを日本で展開する上で、どんな作品を調達すべきかを判断した。だから、古い日本映画やドラマ、アニメの比率がネットフリックスに比べて高い。そして、そのほぼすべてが「日本国内限定」での権利取得だ。

24言語、500以上もの字幕対応で世界展開するネットフリックス

ネットフリックスのオリジナルコンテンツ

だがネットフリックスの場合には、できる限り、同じコンテンツを世界中で配信できるように権利を取得する。カタログコンテンツの場合、映画会社のビジネス方針もあってそううまくはいかないが、ネットフリックスがオリジナルコンテンツとして作る場合には、基本的に「全世界同時配信」を目指す。ネットフリックスのオリジナルコンテンツは、190の国で配信されているが、最新のコンテンツの場合、最大で最大24言語で吹き替えられ、500以上の字幕とユーザーインターフェースを含む言語対応が行われている。

しかもネットフリックスのコンテンツ投資は世界中で行われており、多数が「アメリカ以外」で制作されるようになってきた。2017年にドイツで制作された「DARK」という作品は、ドイツ以外での視聴が90%を超えたという。

日本で制作されたアニメ作品についても、その多くが「90%以上が日本以外からの視聴」(ネットフリックス・チーフプロダクトオフィサーのグレッグ・ピーターズ氏)だという。これは、レコメンドによって、他国のコンテンツに興味をもっていなかった人に、国を限定せずにコンテンツを提示した成果だ。もちろん見てもらうために、吹き替えを含めた徹底的なローカライズも同時に行われているからこそでもある。

我々は「映像のグローバル調達」という言葉で、「同じハリウッド作品を世界中で提供する」というイメージを持ちがちだ。だがネットフリックスの場合は、「世界中で調達したものを、世界中で配信する」という、文字通りのグローバル調達だ。

世界的にヒットする可能性のあるコンテンツなら、良い条件でネットフリックスとパートナー契約を結べる可能性も出てくる。1月31日、プロダクションI.Gとボンズは、オリジナルアニメーション作品の制作に関し、包括的業務提携を結ぶと発表した。ネットフリックスによると、特定の企業とこのような包括的な契約を結ぶのは「世界的で初めてのこと」(ネットフリックス広報)だという。

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ネットでは、「ネットフリックスがローカルコンテンツをあきらめ、日本国内でのドラマ制作部門を廃止した」との噂が流れている。これについて同社広報は、「そのような事実はない。映画やドラマを日本で制作する実写オリジナル部門として体制は変わっておらず、つい最近も優秀な人が採用されている。今後も継続的に良質な作品を日本のみならず世界各国のメンバーの方々に届けていく考えはまったく変わっていない」(ネットフリックス広報)と話した。

併用が中心だからこそのビジネスモデル

こうしてみると、ネットフリックスとアマゾンは意外なほどビジネス手法が異なる。このやり方が通用するのは、映像配信のビジネスが「勝者総取り」のモデルではないからだ。

どの国でも、消費者は映像配信事業者を「1社」に絞らない。複数のサービスを使い分け、2つないしは3つを併用する状況になっている。ヘイスティングスCEOは、以前筆者の問いにこう答えたことがある。

「アマゾンに契約したらネットフリックスを止める、という状況であるならば、彼らは競合だ。しかし、消費者はどちらも契約してくれて、止めることはない。だからアマゾンは競合ではないんだ」

(文、写真・西田宗千佳 図・伊藤有)

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