「グッチお届け90分」若者に人気の高級ファッションEC —— ファーフェッチCEOに聞く

高級ブランドには関心が薄いと言われるミレニアル世代。

だが、グッチ、プラダをはじめ次々と高級ブランドと提携する「ファーフェッチ(FARFETCH)」は、商品の中心が高価格帯にもかかわらず、顧客の4割をミレニアルが占める。

日本では、2014年8月にサービスを始め、中価格帯が中心のZOZOTOWNやアマゾンと差別化している。

ファーフェッチはどのようにして20〜30代を惹きつけているのか。来日したCEOのジョゼ・ネヴェス氏(43)に聞いた。

ファーフェッチ

高級ブランドも、デジタル化の波に逆らえない。「(ネットは)抵抗できる勢力じゃない」と語るジョゼ・ネヴェスCEO。

ファーフェッチは2008年にロンドンで創業、当初はセレクトショップが参加し、2015年からラジュグアリーブランドの取り扱いを始めた。今は880のブランドとセレクトショップが参加する世界有数のECサイトだ。サービスは世界190カ国で展開。全体の顧客に占めるミレニアルの割合は37%にものぼる。

特徴なのは、グッチやフェンディ、プラダ、ボッテガ・ヴェネタなど、次々と高級ブランドと提携していることだ。2018年2月には、主要商品をオンラインで販売しない方針のシャネルと、イノベーション・パートナーシップを提携し、シャネルからも出資を受けている。2017年には、中国の大手ECサイト「JD.com」や、ファッション誌『VOGUE』を発行するコンデナストとも提携した。

海外の報道によると、ファーフェッチは10億ドル以上の企業価値を持つユニコーン企業とされる。アメリカでの新規株式公開(IPO)を計画しているとも報じられている。

Business Insider Japan(以下、BI):ファーフェッチの日本市場の推移は?

ジョゼ・ネヴェスCEO(以下、ネヴェス):国別では公表していませんが、売上でいうと、アメリカが約30%、アジア太平洋地域が約30%です。一般的な世界のラグジュアリーグッズの市場は、米国、中国、日本の順番なので、ファーフェッチでも、日本は今後、主要なマーケットになると思っています。2014年に立ち上げた日本法人は、現在は50人が働いています。日本のブランド・セレクトショップも約50店が参加していて、海外でもデザイン、品質、クリエイティビティーなどで、評価は高いですが、国際的なオペレーションが自前では難しいので、ファーフェッチがプラットフォームを展開しています。

BI:日本における競合は。ZOZOTOWNはどのような存在ですか?

ネヴェス:世界に同じプラットフォームは2つもありません。競合はいません。ZOZOTOWNは、イノベーション溢れる素晴らしい会社だと思いますが、商品の価格帯が違う。ファーフェッチは、平均注文価格が700ドルですが、ZOZOは中価格帯ではないでしょうか。

「ファッション消費はミレニアルが牽引している」

farfetch

ファーフェッチのサイトは、10カ国語に対応している。

出典:ファーフェッチ

BI:ミレニアルは贅沢品を買わないと言われますが、ファーフェッチの顧客は4割弱がミレニアル世代です。

ネヴェス:ミレニアルは(SNS全般の)フォロワーであり、同時に自分がフォローされたい気持ちも持っているので、自分の個性を表現するアイテムを探しています。車は欲しくないし、家は買うには高すぎるのかもしれない。そうなると、意外と可処分所得が残ります。ファッションで自己表現をしたいのではないでしょうか。ファッション業界の成長の85%をミレニアルが牽引しているという統計もあります。

BI:ファーフェッチ上のコーディネートはブランドをミックスさせています。女性誌などでは違うブランドのアイテムをコーディネートすることはタブーでした。

ネヴェス:私たちはミレニアルに個性を表現してもらいたいと思っていますそうなると全身を同じブランドでコーディネートしないですよねブランドを統一したければ、ブランドは自前で(コーディネートを)やっています。私たちのメディアではブランドができない形で商品を生かしています。

ファーフェッチ上では、シンプルなデザインよりも、思い切ったデザインの商品が人気がある。

同社担当者によると、実店舗ではあまり出ない商品、手を出しにくい商品でも、世界を市場にできれば流通でき、デザイナーのサポートにもなるという。

今、消費者はSNSでブランドを調べ、どういう人がブランドをフォローしているのか、そのコミュニティのあり方そのものがステータスになる。

ファッションの写真をSNSで発信する時、シンプルなものだとハッシュタグにできるキーワードが減る。だからこそ、ストーリーを発信できるかが重要になる。

farfetch

ジョゼ・ネヴェスCEOは、もともとプログラマーからシューズブランド「Swear」を設立、その後ライセンス事業やセレクトショップを起業した。

デジタルクチュールは未来のトレンド

ファーフェッチではフェンディのカバン、ストラップをカスタマイズできるサービス「CUSTOMIZE IT」を2017年11月に始めた。カラー、ロゴ、留め具を自分で選ぶことができる。

2016年ごろから、さまざまなブランドが実店舗においてカスタマイズのサービスを始めたが、ファーフェッチではフェンディを含め、これらのサービスをオンラインで可能にした。

「これまでは、ブランド側がデザインを一方的に提案していたが、今は消費者が持っている情報が圧倒的に多いので、『その組み合わせで本当にいいの?』と思われるのようになってきた」(同社担当者)

ブランド側にとっては、受注生産になるので無駄を省くこともできる。ミレニアルは“自分だけの何か”を作る行為に関心が高いという。

ネヴェス:20世紀初頭における*クチュールは、カスタマイズの始まりだった。これは、ラジュグアリーの起源。デジタルを使えば、スタッフをはさまず、自分で効率よく、カスタマイズができる。「デジタルクチュール」は未来のトレンドの1つ。

*クチュール(オートクチュール):オーダーメイドや1点物を仕立てること。さまざまな著名なブランドは当初、クチュールから始まった。

ファッションエマージェンシー高級ブランドも90分

グッチが注文後90分で届く「F90」を2017年1月に始めた。

「( ECの広がりで)すぐ届くのが当たり前になった世の中では、5日待てない。ブランドと専属契約することで、在庫のあるローカルの店舗からすぐに発送ができる」(同社担当者)

ネヴェス:90分配送は10都市をカバーできると、グッチのCEOとの対談で話したら、関心を持ってくれました。今は東京やロンドンなど10都市で導入している。F90を「ファッションエマージェンシー」と読んでいます。

BI:F90を支える物流の仕組みは。

ネヴェス:私たちは在庫の倉庫を分散化しています。セレクトショップやブランドの実店舗とつながり、在庫の倉庫、場所は何千カ所もある。40カ国にわたる在庫場所から190カ国のお客さんに届けています。

BI:2018年3月にイギリスの老舗百貨店「ハーヴェイ・ニコルズ」と戦略パートナーシップを提携しました。今後は百貨店の大量の在庫、セレクトも販売対象にできるということですか。

ネヴェス:彼らにとってのメリットは、グローバルアクセスだと思います。うちと組めば、世界中に自分たちの商品を届けられる。中国、日本、韓国、新興国にも市場の可能性はあります。

デジタルの波は不可逆

HarveyNichols

ファーフェッチがパートナーシップを結んだ老舗百貨店「ハーヴェイ・ニコルズ」。ラグジュアリーブランドに続き、百貨店も参入した。

Chrispictures/Shutterstock.com

BI:ラジュグアリーや百貨店など次々とECに巻き込んでいますが、どのようにブランドを口説いてきたのですか。

ネヴェス:10年かかりました。パリ、ミラノに何度も出張をしたり。10年前に創業したときには、一斉にブランドに話をしました。当初は写真、値段、ブランドイメージは大丈夫か、と心配されました。ブランドに本格的にアプローチをした2015年の段階で、すでに7年間、ブランドと対話をしてきていました。それまでにファーフェッチに参加したセレクトショップもビジネスが拡大していて、ブランドからの問い合わせも増えてきました。

いくらブランド側がネットでは存在しない(売らない)と言ってみても、一般の出品者が、(ブランドイメージと違う)写真をeBayやアマゾンで載せ、オークションで売られることになる時代です。

日本ですと、*BUYMA(バイマ)はすべてのブランドを取り扱っています。ロレックス、セリーヌ、ディオール、何でもかんでもあります。そういうものがあってもブランドとしては嬉しくないですよね。

「だったら、(放置していてもネットで商品が売られていくなら、ブランドイメージを体現する)ファーフェッチで」と選ばれるようになりました。今ではブランドは、デジタル化の波は不可逆であると理解しています

*BUYMA(バイマ):139カ国の10万人以上が出品し、個人間で取引をする海外ブランド販売サイト。取り扱いブランドは9400を超え、2018年2月に300万ダウンロードを記録した。インテリアや日用品も扱う。前身の「BuyMa」のローンチは、2005年2月。

BI:どのようなブランドがミレニアルやデジタル向けの展開に成功していますか。

ネヴェス:グッチ、バーバリーなど、ネットをうまく活用すると意識を切り替えられたブランドが成功しています。バーバリーはデジタルが洗練している。ファッションショーで登場した服を、当日配送する「See now,Buy now」は大成功でした。

グッチは雑誌用のキャンペーンをデジタルに載せたものではなく、デジタル特有の動画、コンテンツを作っています。動画は短いものを作って、シェアされるものを優先している。

BI:なぜ、ECサイトに可能性を見出したのですか。

ネヴェス:私はプログラマーだったのですが、ファッションが好きで、22歳の時に(日本でも人気になった)シューズブランド「Swear」を立ち上げました。自分の靴を売りたくて1996年、ECサイトを作りました。アマゾンが創業したのが1995年、eBayも同じ時期、ECの黎明期です。その中で、ファッションに特化したプラットフォームがないと痛感したんです。

BI:ECサイトが成長を続けた結果、日本では最近、公正取引委員会がアマゾンジャパンに対し、独占禁止法違反の疑いで立入検査に入ったと報じられています。メーカーとプラットフォームの関係性をどう考えますか

ネヴェス:その件は知りませんが、ファーフェッチの状況でいうと、独占なんてステージにはない。ラグジュアリー業界は、3000億ドルのマーケットですが、非常に小さなプレイヤーで独占はほど遠い。ラグジュアリー業界で、独占を心配する必要はないと思います。

(文・木許はるみ、撮影・今村拓馬)

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