グランドデザイン社執行役員の村尾大介さん(左)と代表の小川和也さん(右)。
大企業×ベンチャーで挑む「生活者の来店と買い物体験を変える」デジタルプラットフォーム
「PLAY」ボタンを押すと、カプセルトイを回すアニメーションが流れ、おトクなクーポンが出てくる……。この極めてシンプルに思えるスマホサービス「Gotcha!mall(以下、ガッチャ!モール)」が人気という。サービススタートから3年半で800万人のユーザー数を誇り、大手流通やメーカーが続々とこのサービスに参加、クーポンを発行している。「いわゆるクーポンサイトとは違う」と言うが、何が違うのだろうか。
「ガッチャ!モール」を通じてユーザーが取得できるのは、よくある商品の割引券や無料券。当サービスを提供するグランドデザイン社の村尾大介さんは、「クーポンサービスとは全く違う」と断言する。
理由は、小売店を取りまく環境の変化にある。小売店はかつて、周辺地域に折り込みチラシを入れることで集客を図っていたが、新聞購読者の減少で十分にリーチできなくなった。さらにECも普及し、お客の足は遠のく一方。消費者の購買行動に関する調査「トータル・リテール・サーベイ2017」(PwC Japanグループ)によると、アマゾンの影響によりリアルな小売店で買い物をする頻度が減っている国のトップは、何と日本だという。村尾さんは、サービスを始めたきっかけをこう振り返る。
「ECの利用が増える中、かつてのチラシのように小売店に足を運んでもらうためのメディアが生まれていない。街を活性化し、経済を活性化するために、効果的で継続性のあるメディアをつくろうと思ったんです」
カプセルトイを回す、そのアクションが来店を促す
利用方法は簡単。スマホで「PLAY」ボタンを押すだけだ。
とはいえ、小売店も独自の工夫もしてきた。クーポンを発行したり、おトクなメルマガを配布したりするお店がある一方で、このサービスはあえて小売店主導にはしなかった。一方的にクーポンをもらっても「店に行こう」というモチベーションは生まれづらいからだ。結果、行き着いたのが「カプセルトイ」。ユーザーはスマホで「PLAY」ボタンを押す必要があるが、この「ひと動作」こそが重要という。
「自分から働きかけて手に入れたものには、必ず興味を持つ。深く考えすぎず、かといって一方的に送られてくるクーポンとも違う。そのインターフェースとして、カプセルトイが適していると思ったんです」(村尾さん)
仕組みはシンプルだ。プレイ回数や利用履歴などのデータをもとに、ユーザーが「ほしいと思う」クーポンを提示する。一律にクーポンを配布するのに比べて、来店頻度は平均1.2倍、客単価は平均1.5倍に上昇するという。
イオン九州では集客数増・客単価増を達成
プラットフォーム戦略室長を務める村尾大介さん。過去にはチラシをウェブで提供する「Shufoo!」をメディア事業として飛躍的に拡大させた経験もある。「消費者の方に、お店での買い物でしか得られない楽しさを感じてもらいたい」と話す。
流通もメーカーも利用できるこのサービス。いずれも、単なる認知拡大のみならず、消費行動にリーチできる点を評価する。
九州地区に71店舗を展開するイオン九州は「ガッチャ!モール」経由でクーポンを発行している。デジタルテクノロジーを使った販促サービスは他にもある。ただ、その多くは性別、年代、位置情報に基づいて情報を出し分けるなど、発信側のニーズを満たすもの。イオン九州営業企画 デジタル本部 デジタル事業推進部長 佐藤一之さんは、「『ガッチャ!モール』には実際に来店してもらえる仕掛けがある」と、集客面に手応えを感じている。集客数が上がっただけでなく、クーポンを得た人の客単価は平均で1.5倍に上がったという。
メーカー側もメリットを感じている。サントリービールは、流通企業との関係を深めながら消費者にもメリットのある、そんな販促手法を探すなかで「ガッチャ!モール」を知った。イオン九州と同じく、来店や消費に直接アプローチする点を評価している。
「人間が消費行動を起こす際には、もともと『ワクワク』するような気持ちが働いていると考えます。そのワクワクと遊び心ある『ガッチャ!モール』は非常に相性が良く、機能すると考えました」(プレミアム戦略部 課長 福本匡志さん)
同サービスは、導入しやすいというメリットもある。例えばイオン九州に支払いが発生するのは、「ガッチャ!モール」を利用し始めたときではなく、ユーザーが来店し、クーポンを使用したとき。
「商品をつくるメーカー、商品を流通するリテーラー、サービスを提供するベンダーの『三方よし』のデジタルスキームなんです」(イオン九州 佐藤一之さん)
グローバル企業・トランスコスモスと提携、海外展開へ
大手流通やメーカーも巻き込み、ぐんぐん成長する「ガッチャ!モール」。だが同サービスを運営するグランドデザイン社は、従業員数わずか27人のベンチャー企業だ。テクノロジーを活用したイノベーション事業を手がける少数精鋭チームで構成されている。そのため、大企業を続々と巻き込めるほどのリソースはない。
それを補完し、事業を加速させているのが、全世界で約5万人の従業員を抱えるトランスコスモスだ。トランスコスモスは、企業のビジネスプロセスを支援するサービスを世界33カ国で展開する大企業。2015年にグランドデザイン社と資本、業務提携を行なった。具体的には、サービスの開発をグランドデザイン社が行い、営業をトランスコスモスがサポートする。また今年5月にはタイ、台湾でもサービスをローンチさせる予定だが、この海外営業も、現地に拠点を持つトランスコスモスが担当する。
グランドデザイン社社長で、フューチャリストの小川和也さん。最初に起業した会社を上場企業へバイアウトし、2度目の起業だが、「起業家になりたいと思ったことはない。世の中を変えたいと思ったら、選択肢が起業しかなかった」と話す。
「トランスコスモスのおかげで、自社だけでやったら10年くらいかかるところを2、3年で実現できています」と、グランドデザイン代表の小川和也さんは言う。一方、トランスコスモス側は、革新的な事業に接することで社内にイノベーションスピリットを取り込めるなど、組織の刺激につながっているという。
いわゆるネットサービスの多くは、ユーザー数などの数値目標を掲げる。「ガッチャ!モール」も同様で、目下の目標はユーザー数1000万人。だが、本当に目指しているのはそれではない。
「便利、安いではECに勝てない時代に、あえてリアル店舗に足を運ぶのは、小売の店舗が新しい発見がある『楽しい』場だから。『ガッチャ!モール』を、買い物体験を印象深いものにする世界一のプラットフォームにしたい」(村尾氏)
消費者と小売店、メーカーをつなぐ「ガッチャ!モール」。大企業に影響力を持つ強力なパートナーを得たことで、サービスの裾野は今後さらに広がっていくだろう。
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