「私は、シンシア・ニクソンです。ニューヨークを愛しています。ニューヨークの全てを愛しています」
3月20日午前11時半(米東部時間)、人気ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」にミランダ弁護士役で出演していた女優シンシア・ニクソンさん(51)が、ニューヨーク州知事選挙に出馬することを記者会見で発表した。出馬宣言は前日の19日、ツイッターで発信した。もし当選すれば、女優でレズビアンの初の州知事となる。
ニューヨーク州知事選挙の投開票日は、米中間選挙と同じ2018年11月6日。現職のアンドリュー・クオモ知事(民主党)が3選を目指すが、ニクソンさんは、同知事が保守寄りで富裕層を優遇する政策に偏っているとして、予備選挙に挑む。クオモ知事の3選が確実視され、無風選挙という見方もあったが、いきなり波乱含みとなった。
崩壊状態の地下鉄を立て直す
20日の会見は、ニューヨーク市で最も貧しく、最も犯罪率が高く、黒人住民が多いブルックリン区ブラウンズビルで開き、市民の間の不平等をアピール。ニューヨーク州都市交通局(MTA)の地下鉄ダイヤが混乱していたため、ニクソンさんは会見に遅れて到着。早速、「崩壊状態の地下鉄を立て直さなくてはならない。アンドリュー・クオモと異なり、私たちは毎日地下鉄に乗っていて、ニューヨークに不可欠な血管なのだから」と、クオモ知事を批判した。
ニューヨーク市のマンハッタンとブルックリンを結ぶブルックリン・ブリッジ。
REUTERS/Lucas Jackson
ニクソンさんはこれまでも政治活動に積極的で、オバマ前大統領の選挙をサポートし、トランプ大統領の政策は激しく批判し、デモにも参加している。ニューヨーク市の公立校の予算を増やすことを要求するデモで逮捕されたこともあり、「セックス・アンド・ザ・シティ」の主演女優サラ・ジェシカ・パーカーさんとともに、民主党政治家のための資金集めパーティも行なっている。
ニクソンさんが、20日の会見やツイッターで明らかにした公約は以下のとおり。
- ニューヨーク州は、全米で2番目に貧富の格差が激しい。州北部の半分の子どもが、貧困ライン以下の生活をしている。ニュースの派手な見出しだけを追い求めるリーダーはもういらない。
- ニューヨーク州の学校は、全米で2番目の格差を抱えている。公立校の予算を増やし、1クラスの定員オーバーを解消する。
- LGBTQの権利を拡大。人工中絶の権利の拡大。
会見でニクソンさんは、クオモ州知事は州知事選挙で、保守系の投資家コッチ兄弟から巨額の政治資金を受け取っていることも明かした。「その結果何が得られるかは、コッチ兄弟の判断が正しかった」として、富裕層優遇の政策が優先されたとする背景を説明した。
ニューヨーク・ブルックリンで記者会見を開き、州知事選への出馬を発表したシンシア・ニクソンさん。
REUTERS/Shannon Stapleton
#MeTooの波に乗れるか
クオモ州知事の父マリオもニューヨーク州知事だったほか、弟クリスはテレビのアンカー・記者で、ニューヨークではクリントン家と並ぶ政治ファミリーだ。
しかし、州内で最大の票田であるニューヨーク市では、地下鉄の脱線事故やダイヤの乱れ、ドアが開かなくなる、駅の間で止まってしまうなどのトラブルが続き、州が管轄する地下鉄の運営が過去最悪であることに批判が集まっている。
また、同市に対する公立校への州予算の削減も続き、クオモ知事の支持率は伸び悩んでいる。
ニクソンさんに政治経験はないが、女性やマイノリティに焦点を当てた#MeTooの盛り上がりなどの波にのることは確実で、州知事選予備選挙で「台風の目」になる可能性もある。
ニクソンさんは、ニューヨーク・マンハッタン生まれ。両親は幼いころ離婚し、母娘の家庭で生活に苦労したが、超難関受験校ハンター・カレッジ・ハイスクールに行き、コロンビア大学に進学した。女優を始めたのは、大学の学費を払うためだったという。
演技派で、テレビドラマ、舞台の両方で活躍し、人気ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダ役でスターダムにのし上がった。刑事ドラマ「ロー・アンド・オーダー」で客演した際、演技が困難とされる多重人格の女性容疑者を演じたことで、演技派としての評価を確立した。
(文・津山恵子)