働く女性の2人に1人が望んだ時期に妊娠できず、改善策として約6割が「有給休暇を取りやすく」と望んでいる。
NPO法人「日本医療政策機構」が3月22日に発表した「働く女性の健康増進調査2018」で明らかになった。
調査は2018年2月、全国18歳~49歳のフルタイムで働く正規/契約/派遣社員・職員の女性2000人を対象にインターネットを通じて行われた。以下はそのアンケート結果の一部だ。
- PMS(月経前症候群)などが原因で仕事のパフォーマンスが半分以下になる→45%
- 月経が何カ月も来ない・周期が乱れるなどの異常症状があっても何もしない→44.6%
- 定期的に婦人科・産婦人科を受診していない→68.1%
- 不妊治療を諦めた理由→費用の負担が大きい29.1%、仕事と治療の両立が困難20.9%
見えてきたのは、国も企業も「女性活躍」を掲げる一方で、女性のヘルスケアに対する支援は十分とは言えない現状だ。
体調不良を感じても病院に行かずに働き続ける女性たちが多い。
撮影:今村拓馬
ヘルスリテラシー高いほど仕事のパフォーマンスも高い
今回の調査テーマは、ヘルスリテラシーが労働生産性にどう影響するかだ。
労働生産性は、WHO(世界保健機関)の「健康とパフォーマンスに関する質問紙」の日本語版などをもとに算出し、ヘルスリテラシーは、
- 自身の月経周期を把握しているか
- 子宮や卵巣の病気・性感染症の予防・避妊の方法などの知識があるか
- 自分の体について心配ごとがあるときは医師に相談することができるか
- パートナーと避妊や性感染症の予防について話し合うことができるか
という行動も含めた21項目に対して、「あてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4段階で回答してもらい、その合計点をもとに導き出した。
以下はヘルスリテラシーを測るための質問項目だ。みなさんはどうだろうか?
調査対象をこの21項目によってリテラシーが高い群と低い群に分類した。
出典:日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」
調査対象者をヘルスリテラシーが高い群と低い群に分けて1カ月の仕事のパフォーマンスを比較したところ、ヘルスリテラシーが高い人の方が仕事のパフォーマンスも高い傾向があったという。
冒頭でも述べたように、45%の女性が頭痛や吐き気、めまいなどの症状が現れるPMSなどが原因で仕事のパフォーマンスが半分以下になると答えているが、ヘルスリテラシーの高い人の方がPMS時に仕事のパフォーマンスが下がる割合が低かったのだ。
PMSの対処方法については「何もしていない」女性が63%と最も多かったが、ヘルスリテラシーが高い人はそうでない人の約1.9倍、医療機関の受診や服薬などの対処をしていた。その結果、高いパフォーマンスを保ったまま仕事をすることができていたと考えられる。
ヘルスリテラシーとPMS時の仕事のパフォーマンスの関係
出典:日本医療政策機構ホームページ「働く女性の健康増進調査2018」
20代は避妊も性感染症もオープンに話せる
ヘルスリテラシーは年齢によっても特徴があった。
18〜29歳、30代、40代という3つの年代で比較したところ、18〜29歳が最も低かったのが以下の項目だ。
- 体調を維持するために行っていることがある→43.9%(30代:50.9%、40代:50.3%)
- 月経周期を把握している→69.6%(30代:77.4%、40代:76.4%)
- 女性の健康について自分にあった情報選択ができる→45.1%(30代:51.3%、40代:49.5%)
- 医療従事者のアドバイスや説明がわからないときに質問できる→47.8%(30代:48.5%、40代:51.1%)
- 月経のしくみについての知識がある→62.2%(30代:62.4%、40代:66.1%)
- 子宮や卵巣の病気についての知識がある→36.3%(30代:39.9%、40代:47.2%)
若いほど健康に関する知識が低い傾向が見て取れる。
一方で、「パートナーと避妊について話し合うことができる」「パートナーと性感染症の予防について話し合うことができる」のは18〜29歳が最も高く、それぞれ59.1%、46.9%だった。
これについて調査チームの東京大学大学院医学系研究科・産婦人科講座の大須賀穣教授は、
「夫の立会い出産や夫婦そろっての不妊治療などが、当たり前になってきたという社会の変化が背景にあります。性についてオープンに話せる関係を築けないと、カップルとしてうまくいかないという感覚があるのでしょう」
と言う。
女性特有の病気について学校で教えて欲しかった
今後の課題は知識の普及と企業や国の支援体制づくりだ。
「これまでに受けた性や女性の健康に関する教育のうち、学校でもっと詳しく教えて欲しかったこと」の1位は「女性に多い病気の仕組みや予防・検診・治療の方法」で48.9%、2位は「どのような症状のときに医療機関へ行くべきか」41.1%、3位は「医薬品(月経時の鎮痛剤やピル等)との付き合い方と副作用」25.5%だった。
また、望んだ時期に妊娠できなかった女性は53.3%おり、「望んだ時期に妊娠するためには、何があれば良いと思いますか?」という問いの回答では「有給休暇を取りやすい職場の雰囲気」57%、「検診や受診のための有給制度の柔軟性」42.7%、「育児休暇後に復職しやすい職場の雰囲気」38.2%と、働く環境が妊娠・出産に大きな影響を与えていることが分かった。
次いで、妊娠に適した時期を教える授業やライフプランを立てることなどの学校教育が上げられたが、これは価値観の押し付けにならないよう注意が必要だ。Business Insider Japanでは、高校生を対象にした「ライフプラン教育」では、卵子の数に基づいて妊娠に適した時期の周知徹底をしていると報じたが、今後は女性特有の病気や有給休暇制度などの働き方についても教えるべきだろう。
性や女性の健康に関して、学校でもっと教えて欲しかったことのアンケート調査
出典:日本医療政策機構ホームページ「働く女性の健康増進調査2018」
企業の定期検診で婦人科・産婦人科へのアクセス向上を
企業や国にもまだまだやれることはある。
「定期的に婦人科・産婦人科を受診していない女性は約70%、受診すべきだとは思っても行かなかった女性も約4割に上ることを考えると、企業は社員の定期健康診断に婦人科特有の検診項目を入れて、その結果に対して産業医などと連携し、彼女たちの相談に乗ることが有効だと思います」(日本医療政策機構・今村優子さん)
前出の大須賀教授は、ある施設をつくるべきだと指摘する。
「女性の健康を包括的にサポートする国立のセンターの設立が急務です。小児や高齢者には国の機関があるのに、女性にはない。例えば、欧米などでは当たり前だった女性アスリートの低容量ピルの使用が日本ではずっと少なかったですが、国立科学センターという国のセンターが先頭に立って普及活動をしたら、日本でも使用者が増えてきた。国が指針を示すことが重要なんです」
注意したいのは、何事も「女性のリテラシー=女性の自己責任論」にしないことだ。女性の健康には、職場の環境やパートナーである男性の影響が大きい。女性だけの問題にせず、男女ともに理解を深めていくことが求められる。
(文・竹下郁子)