TBSの元ワシントン支局長からの性暴力を告発したジャーナリスト、伊藤詩織さん(28)が3月中旬、ニューヨークの国連本部で開かれた女性地位委員会(CSW)に参加し、国連記者協会(UNCA)が主催した記者会見で日本の国外で初の記者会見を行った(元支局長は不起訴処分が決定)。
CSW関連イベントに参加したニューヨーク市司法当局者は、伊藤さんの証言を聞いて、「強姦や性暴力に対する法律は、ニューヨーク市が(日本より)ずっと進んでいる」と指摘した。
伊藤詩織さんはニューヨークの国連本部で開かれた女性地位委員会(CSW)に参加し、日本国外で初めて記者会見を行った。
撮影:津山恵子
記者会見とイベントで伊藤さんは、被害に遭った当時、東京で性暴力被害者を支援する非営利法人(NPO)がたった一人で運営されていたこと、病院の女医にモーニングアフターピルを頼んだところ「いつ失敗しちゃったの?」と聞かれて、何が起きたのかも聞いてもらえなかったこと、人形を相手に事件を再現するところを複数の警察官が撮影した事実などを述べた。被害者である上に、こうした性犯罪が起きた際の日本の救済システムが貧弱な状況であることを話し、こう訴えた。
「どうか、想像してみてください。あなたの愛する人が、いつそういう目に遭うかわからない。このプロセスは変えなくてはなりません」
国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウ(本部東京)がニューヨークで3月16日に開催した、CSW関連イベント「#MeTooからの新たな挑戦 声をあげた人を守ろう&社会意識を変えよう」には、100人以上の聴衆が詰めかけ、立ち見が出た。
関連イベントのパネルディスカッションに招待された、ニューヨーク市ブロンクス区検事局のジョゼフ・マロフ性犯罪特捜班チーフは、伊藤さんの証言を、目を見開きながら聞いていた。「強姦や性暴力に対する法律は、ニューヨーク市が(日本より)ずっと進んでいると言わざるを得ない。捜査システムも、私が担当し始めた17年前から、ずっと進歩を遂げている」と発言した。
マロフ氏によると、ニューヨーク市では性暴力被害者に対し、以下の体制が整えられている。
1)「性暴力レスポンスチーム」があり、被害を警察や病院に報告した際、病院でも他の患者と一緒に扱われることはなく、1時間以内にスペシャリストが来て、「レイプクライシスキット」を使って証拠を集め始める。
2)警察にも「性暴力特捜班」があり、訓練を受けた刑事が常駐している。
3)「法医学トラウマインタビュー」という仕組みがあり、トラウマに対応するための専門家との相談が受けられる。
伊藤さんが意識がないまま、ホテルに連れ込まれるビデオがあったことについては、「コミュニケーションできない状態、身体が動かない状態でのレイプは、法律で最も悪質な重犯罪と位置付けられており、懲役で最大25年で、その他の罪状が加算されれば終身刑にもなる。伊藤さんのビデオは、この国では有力な証拠となる」と語った。
アメリカの#MeToo運動は、社会に真の変化を起こしている。
REUTERS/Lucy Nicholson
パネリストの一人でセクハラ訴訟専門弁護士クリストファー・ブレナン氏は、アメリカの#MeTooの状況についてこう報告した。
「アメリカの女性パワーが集まって、今、真の変化が起きている。ハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏は、オバマ前大統領ともヒラリー・クリントン元国務長官とも親しかったが、一夜にして表舞台から消えた。被害に遭った女性は、声を上げることで、変化をもたらすことができる“主役”だ」
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ヒューマンライツ・ナウによると、日本で性的暴行に遭った女性のうち、67.5%が誰にも相談をしたことがないという。また、警察に相談する女性は、わずか4.3%だという(2014年調べ)。
被害者が声をあげられないのは、「2次被害」を恐れるためだという報道もある。
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伊藤さんが現在取材している性暴力被害者の中には、事件のことを20年以上も話せなかったという人もいた。#MeTooということで「恥を晒すな」という抑圧が日本では大きく、被害者が苦痛を抱え込んでしまう悪循環があると訴えた。伊藤さん自身も自らの被害を告発した後、オンライン上のバッシングを受け、それが家族や友人にまで広がったことを明らかにしている。
「恥を晒すな」という抑圧が、日本の#MeToo運動の発展を妨げている。
REUTERS/Lucy Nicholson
アメリカから始まり世界中に広がった#MeToo運動について、伊藤さんは、「日本ではまだ目に見える変化を起こしていない」と指摘。そして新たに#WeToo運動を始めたことを明らかにした。
日本では、伊藤さんをはじめ、告発した女性らが社会からバッシングを受けることを踏まえ、こう発言した。
「一人では声をあげにくい。犯罪をなくす以外に、文化の構造を変えていくために、行動を起こしたいと思った。#WeTooなら、誰もが参加できるし、広がりに期待している」
伊藤さんの体験は、これまで米紙ニューヨーク・タイムズ、英紙フィナンシャル・タイムズ、英BBCなどに取り上げられ、BBCは伊藤さんのドキュメンタリーフィルムを撮影している。伊藤さんは、米政治専門サイトのポリティコにも寄稿している。
(文・津山恵子)