世界最大の玩具小売りチェーンの米トイザらス(Toys"R"Us, Inc.)—— 1957年の設立から約60年、アメリカでおもちゃを売り続けてきた「玩具の巨人」は、2017年9月に連邦破産法11条(Chapter 11)の適応を申請し、事実上破綻した。トイザらスは今後、アメリカで展開する約730の全店舗とイギリスの約100店舗を閉鎖していく。
トイザらスは2009年に150年以上の歴史を誇る玩具小売の米FAO シュワルツ(FAO Schwarz)を買収し、規模の拡大を狙ったが、その後まもなく映画にも登場したニューヨーク・マンハッタンにあるFAOシュワルツの旗艦店を閉鎖。2016年には、同老舗玩具ブランドをスリーシックスティー・グループに売却することを決めた。
一方、英米とは対照的に、日本トイザらスは2018年、国内市場において拡大戦略を掲げている。少子高齢化や人口減少、eコマースの急拡大を背景に、日本の小売市場の成長を懸念する声が広く聞かれる中、同社は年内に横浜市や広島市、東京などを中心に7〜9店舗を新たに開設し、既存店の改修も進めていく。
1962年、オーストリア生まれのディーター・ハーベル氏。日本コカ・コーラのバイス・プレジデントやギャップジャパンCFO、リーボックジャパン社長、ラコステジャパン社長を経て、2017年9月に日本トイザらス社長に就任した。
撮影:今村拓馬
1989年に設立された日本トイザらスは現在、160の店舗を運営して年間約1400億円の売り上げを計上する(実店舗とオンライン販売の比率は非開示)。同社はアメリカ本社が85%、香港のファン・リテーリングが15%保有するトイザらス・アジア・リミテッドの傘下で、事業運営を続けている。
過去数年、国内で160店舗を維持してきたが、2018年に店舗数のさらなる拡大に乗り出した日本トイザらスに秘策はあるのか?横浜市にある「トイザらス・ベビーザらス港北ニュータウン店」で、ディーター・ハーベル(Dieter Haberl)代表取締役社長に話を聞いた。
「米トイザらス破綻の原因はアマゾンではない」
BUSINESS INSIDER(以下、BI):米トイザらスの破産法申請と店舗の閉鎖は衝撃的な出来事でした。背景にアマゾンなどの小売市場における急拡大が大きな理由と言われています。
ディーター・ハーベル社長(以下、ハーベル社長):確かに、アマゾンやウォルマート(米大手スーパーマーケットチェーン)は市場で競争力を高めてきました。しかし、それが(トイザらス破綻の)直接的な原因ではないと考えています。
米トイザらスは2005年に、ベイン・キャピタルやコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)などの投資ファンドにより買収されました。*LBO(Leveraged Buy-Out)の形態で買収され、以降、50億ドルもの有利子負債を抱え続け、年間4億ドル〜4億5千万ドルに及ぶ金利の支払いを余儀なくされました。
LBO(レバレッジド・バイ・アウト):M&A(合併・買収)の形態の一つ。一定のキャッシュフローを生み出す事業を、借入金を利用して買収すること。買い手は少ない資金で事業・企業を買収することができる。借入金をテコ(Lever)として、投資金額を抑えることで、買い手のリターンを大きくさせる。プライベート・エクイティ企業(投資ファンド)を中心に、リターンの最大化するために活用される買収手法(日本政策投資銀行より)
過去数年間、160店舗体制を維持してきた日本トイザらスは2018年、拡大戦略を始めた。
撮影:今村拓馬
トイザらスは、店舗のリニューアルやオンライン事業などへの投資をまともに進めることができなくなりました。負債の重石は、コストの削減などを優先的に進める結果となりました。
顧客に対するサービスを最優先させ、事業の改革の中ですべきことが十分できなかったことが、(破綻の)大きな原因だろうと思っています。
「日本の人口減少は心配していない」
BI:今後、米トイザらスが保有するトイザらス・アジアの85%の株式が売却されて、オーナーが変わっていけば、日本トイザらスの経営にも影響が出てくるのでは?
ハーベル社長:日本やアジアの事業は健全性が保たれています。市場の成長を有望視する投資家が多く、複数の買い手候補がトイザらス・アジアの85%に対して興味を持っています。
日本トイザらスの事業が大きく変わることはありません。むしろ、私たちは今年(2018年)、積極的な事業成長プランを進めていきます。日本の潜在需要を捉えるために、私たちがやるべきことはたくさんあります。
「私たちがリーチできていない地理的エリアはまだある」(ハーベル社長)
撮影:今村拓馬
BI:消費者の購買方法が実店舗からオンラインへとシフトしてきている一方、少子高齢化など、人口動態は大きく変化しています。日本における事業環境は厳しさが増すように思うのですが。
ハーベル社長:人口動態の変化はさほど心配していないです。少子高齢化や人口減少は今に始まったことではありません。日本の市場にはむしろ、私たちがリーチできていない地理的エリアはまだあります。
また、買い物の方法が変化してきているのは間違いありません。オンライン・ショッピングは今後、さらに伸びていくでしょう。
日本トイザらスの戦略1:小型・都市型店舗
BI:日本トイザらスが実店舗を増やしていく上で、重要視している戦略とは何でしょうか?
ハーベル社長:今年、7〜9店舗を新たに開設していきますが、小型化した店舗と都市部に近い立地の組み合わせは重要だと考えています。今後、広島、横浜、東京・錦糸町などで新店舗をオープンさせていく予定です。
コンパクトな店内で、子どもたちの目の高さで、商品を見やすい位置に陳列させることも進めています。子どもたちが興味を持つおもちゃをより見つけやすくして、そのおもちゃを体験する機会を増やしていきたい。
車社会のアメリカと違って、日本では子どもたちが親と一緒に電車や自転車で買い物に出かけることが多いですね。都市の中心部から近い店舗で、親と子ども、祖父母がともに過ごせる場所を作ることが大切になってきます。
子どもたちが玩具を使って体験できる「ブレイ・テーブル」の数を一店舗に倍近くの約20カ所に増やしていきます。多くの子どもたちに、近くのお店に遊びに来てもらいたい。
トイザらス・ベビーザらス港北ニュータウン(横浜市)店内にある「プレイ・テーブル」。
撮影:今村拓馬
BI:電車や自転車を利用する客の場合、大きな商品を購入して家に持ち帰ることは大変だと思いますが?
ハーベル社長:店内にはiPadが数カ所に設置してあります。iPad上の「ストア・オーダー・システム」を利用すれば、お客様はお店で商品を体験した後、それをオンラインで購入し、自宅に配送することができます。大きな自転車やストローラー(ベビーカー)、大型のおもちゃを持ち運ぶ必要はなくなりますね。
実店舗で体験をして、オンラインで購入する買い物方法は今後、ますます増えていくでしょう。
戦略2:オンラインの拡充
店舗内に置かれるiPadを利用した「ストア・オーダー・システム」。
撮影:今村拓馬
BI:オンライン事業で、日本トイザらスは出遅れた感があるように思います。
ハーベル社長:オンライン事業に対しては、まだまだ改良・開発の余地があるのは事実です。現在、全ての商品がオンラインで購入するまでに至っていません。今後は、より多くの予算をオンライン・EC事業に費やすことになると思います。
ストア・オーダー・システムにおいては、画面上での操作をより速く行うことができるよう、ページから次ページへの移動のスピードを速くするよう、改善を促しました。
オンラインにおいては、事業の実績を積み上げることで、顧客の購入トレンドや購入パターンなど、顧客が何を必要としているかが見えてくるようになります。お客様をより知ることができれば、今後は最適な商品のレコメンデーションを提供することができるようになると思います。
戦略3:イベント型・社会共生型の店作り
BI:ネットとリアルの融合は、あらゆる小売業界で広がりを見せています。今後の実店舗の役割をどう考えていますか?
店舗は商品を並べた空間ではなく、顧客との接点をより深めたものへと変わっていくと、ハーベル氏は話す。
撮影:今村拓馬
ハーベル社長:オンラインでの購買が拡大する一方で、店舗の役割はこれからより重要になってくると思います。店舗はより多くの社会責任を負う空間になっていくでしょう。
子どもたちがおもちゃを通じて科学やスポーツ、アートなどを学び、より多くの時間をお店で過ごすことができるようにしたい。今以上に過ごしやすい店舗を作っていく必要があります。
BI:具体的にはどんなことができる店舗になるのでしょうか?
ハーベル社長:例えば、知育玩具として人気のレゴブロックがありますが、「レゴブロック」で遊びながら競い合うようなイベントを店舗で開いたり、簡単なコーディングを体験できる玩具を使ったイベントを開いていくことを考えています。
店舗で開かれるイベントで、そのコミュニティーの子どもたちや親、祖父母の方々が交流を持てる場所となれば良いですね。
加えて、日本トイザらスでは、「ベビーアドバイザー」と呼ぶ社内資格を設けています。ベビーアドバイザーは、出産を予定しているお客様に対して、必要な商品に関する的確なアドバイスをする目的で、店舗に配置しています。アドバイザーとお客様とのコミュニケーションを増やしていくことも、強化していきたい。
いろいろな種類のイベントを実験的に開いていこうと思っています。
「人生ゲーム」や「野球盤(ゲーム)」は今でも変わらず人気の商品だという。
撮影:今村拓馬
BI:例えば、店舗にカフェを併設させるようなこともできるのでしょうか?
ハーベル社長:カフェのような空間を設けて、知育に関連したイベントを開く……不可能ではないかもしれません。子どもたちや親世代、祖父母世代が、日本トイザらスの店舗で時間を共有できる店舗を作っていこうと考えています。
(聞き手、構成・佐藤茂)