Facebookとウーバーへの大手メディアの報道はなぜこれほど差があるのか

ここしばらく、シリコンバレー企業の悪いニュースが立て続けに起きている。

まず3月17日、Facebookの情報漏洩事件が英米の大手メディアでスクープされた。ユーザーの個人情報がイギリスのデータ分析会社に不正に流出したという件だ。翌週後半になって、ザッカーバーグCEOがメディアで謝罪したが、まだ騒ぎが続いている。

ザッカーバーグ

Facebookは2015年にはこの流出問題を把握していたと言われるが、その後有効な対策を講じなかったとして、非難されている。ザッカーバーグCEO含め、企業としてのあり方が問われている。

Paul Marotta/Getty Images

Facebookのニュースの翌日3月18日の夜、アリゾナ州ではウーバーの自動運転車が初めて対歩行者の死亡事故を起こした。こちらも、事故の検証記事が続いている。

私の印象としては、Facebookの件が大手メディアに必要以上に叩かれている一方、人の命が失われたウーバーへの反応が思ったより静かなように見えているが、どちらもアメリカのメディアを騒がせていることには変わりがなく、テクノロジーの行方が気になっている。

個人情報利用規制への準備の真っ最中

Facebookの件は、5000万人分のユーザーの個人情報が、イギリスのケンブリッジ・アナリティカというデータ分析会社に不正に渡り、2016年の大統領選でトランプ陣営のソーシャルメディア・キャンペーンに利用されたというものだ。

もちろん、問題である。しかし、私は最初このニュースを聞いたとき、「ああ、またやってるな」程度しか思わなかった。

ソーシャルメディアの個人情報を何にどこまでどういう形で使ってよいのかの線引きは微妙で、数年前に欧州で訴訟が相次いだときに大きな問題となった。その結果として成立したEUの個人情報保護規制GDPR(General Data Protection Regulation)は2018年5月から施行予定で、影響を受けるシリコンバレー企業はその準備の真っ最中だ。

Facebookのアプリ

Facebookに対する信用は失墜、アプリを削除する動きも。

Carl Court/Getty Images

今回の件でわかるように、まだ綻びはあちこちにあるが、Facebookも継続的に仕組みやインターフェースや約款などに手を入れて、試行錯誤している。

ソーシャメディアでのユーザーの好みを選挙運動に利用するのは、2008年のオバマ以来もはや定番となっている。

大手メディアvsFacebook

どこまでの個人データを公開・使用許可するか、アプリのダウンロード時にどれを認証するかにチェックを入れるようになっているが、説明は誰も読んでいないというのは、もはや伝統的な問題だ。

ここしばらくフェイク・ニュースの件でもFacebookは槍玉に上がっており、「Facebookけしからん、やめてやる」というユーザーのキャンペーンは、ほとんど季節の風物詩のようになっている。つまり、今回のニュースの中で画期的に新しい話は特にないように思えてしまう。

そんな流れで「ああ、また」という感想だったのだが、その後連日、テレビの朝のニュースでは続報や「アプリの削除の仕方」などが流れ、ニューヨークではFacebookの株価が暴落し、ワシントンDCではFTC(米連邦取引委員会)の調査や議会公聴会の可能性が出るなど、東海岸での扱いの大きさに私は驚いた。

Facebookの謝罪広告

Facebookは英米の大手紙に謝罪広告を出した。

大きく扱われる特別な要素としては「トランプの選挙戦」という部分がある。Facebookが大手メディアのライバルであるという点も含め、トランプと敵対関係にある大手メディア側が恣意的に「煽っている」かどうかはともかく、記者や編集者にとってはどこかに「Facebookけしからん」という気持ちがあるのではないか、という気がしてならない。Facebookが大手メディアに「謝罪広告」を出すというのも、彼らのお客という仲間になることで、そんな心理を和らげようという計算があるのかもしれない。

Facebookも今や上場企業としてウォール街とも深い関係がある。政治的な影響力は大きく、単なる西海岸の異端児として「面白いこと」をやってお金さえ儲けていればよい、というわけにはいかなくなっている。EUのような海外の勢力やメディアや議会など、より複雑な世界での大企業としてのふるまいを身につけていかなければならないことが改めて突きつけられている。

自動運転への批判を避けたい人たち

ウーバー事故車

事故を起こしたウーバーの自動運転車を調べる米国家運輸安全委員会(NTSB)。ライバル社に開発の遅れをとっていたことから、焦っていた、とも報じられている。

Handout/reuters

さて、もう一方のウーバーの件だ。

ウーバーそのものは西海岸の異端児企業で、ここしばらくスキャンダルまみれなので、「ざまぁみろ」という声がもっと出てもよさそうに思われる。しかし、世界の大手自動車会社が自動運転技術にコミットするようになっており、自動運転技術そのものに対して、世論の批判が集まることを避けたいという思いを持つ人が多くなっている。

報道が控えめなのは、巨額の広告費を出してくれている自動車会社に対するメディアの“忖度”なのかどうかの陰謀論はさておき、私としてはこちらはいろいろ興味があり、フォローしている。

一つは、自動運転に必要とされる技術の現状だ。

自動運転では、車に搭載したカメラ、レーダー、センサーなどを使って、迅速に周囲の状況を解析して障害物があればぶつからないように回避するわけだが、特に画像解析はまだ技術的に難しい部分が多い。膨大なデータの蓄積が必要で、手間もコストもかかる。

このウーバーの事故は、真っ暗な道で起こったとされるが、事故のビデオが公開されると、車のヘッドライトがごく近くまでしか届いていなくて変だとか、車の上に設置したLiDARというセンサーは光がなくても歩行者は検知できたはずなのに、など、ネット上では議論が飛び交っている。

事故車には人間のドライバーが乗って監視していたが、この人が事故前の数秒間、下を向いていた。私自身、ごく部分的な自動運転ともいえる、補助つきクルーズコントロール(ACC、Assisted Cruise Control)のある車に乗り始めたとき、「自動」部分と「人間」である私が介入するときのつなぎ目に戸惑ったので、この「人と機械のインターフェース」については思うところがある。

それぞれの車には、ハンドルやブレーキの感覚などの「クセ」があるが、ACCにはある意味この「車のクセ」の強いものがあり、慣れが必要だ。ウーバーの自動運転ドライバーは、会社の規定による訓練を受けているはずだが、「クセ」はどうしても避けられず、いつ気を緩めてよいのかそうでないのか、「つなぎ目」がうまくいっていなかったのかもしれない。

いずれにせよ、警察の調査はまだ続いており、結論は出ていない。

ライバルの後塵を排し焦っていたウーバーの社内事情

二つ目は、ウーバー社の内部事情だ。ニューヨークタイムズの記事によると、ウーバーは自動運転技術開発でライバルの後塵を拝しており、焦っていたとされている。

現在、自動運転実験走行の実績で圧倒的に先行しているのはグーグル傘下のWaymoだが、こちらの自動運転車は人間が介入する必要の出現が平均して走行5600マイルに一度に対し、ウーバーでは13マイルに一度という目標を達成できていないとされる。

uber新CEOダラ・コスロシャヒ氏

ウーバーCEOのコスロウシャヒ氏は一時、自動運転車の開発を中止しようとしていたという。

Saumya Khandelwal/Reuters

2018年8月にウーバーCEOに就任したコスロウシャヒ氏は、自動運転車の運行を中止しようとしたが、結局その考えを撤回した。

現在、ウーバー自動運転車部門の実験場所は、事故のあったアリゾナ州が中心となっている。アリゾナが選ばれたのは、天気がよくて画像解析が困難となる悪天候が少ないことに加え、州政府が自動運転に対して「放任」の姿勢をとっているためだ。

この部門では、4月にコスロウシャヒCEOが来所する予定があるため、その際に完璧なデモをしなければ、ということで焦っていたという。

そのためにはデータをさらに蓄積しなければならず、実験走行距離を急激に伸ばさなければならない。そのために無理をして、ドライバーの訓練やセンサーの調整などを端折った、という事情があってもおかしくない。つまり、この事故は「ウーバーの特殊事情」もかなり絡んでいて、他社の自動運転は必ずしも同じ状況ではないようだ。

事故後ウーバーはすぐに自動運転車の運行を中止したが、他社では意外なほど「中止」という動きが出ていないのも、こうしたウーバー社内の事情もあるのかもしれない。

業界全体でのシステマチックなアプローチを

自動運転

自動運転に対する風当たりは強まるのだろうか。

riopatuca/shutterstock

シリコンバレーでは地元Waymoの他、フォルクスワーゲンの実験走行などもときどき見かける。GMやフォード、トヨタやホンダも、シリコンバレーに研究拠点を置いて自動運転の研究をしている。

Waymoやウーバーなどの新興勢力が「人が必要ない自動運転」というパラダイムシフトを目指すのに対し、自動車各社はその技術を使って「より安全な自動車」を目指している。自動車会社は、何十年、長いものでは100年以上にわたり、人命にかかわる製品を作ってきており、その責任に対する姿勢は保守的になるのが当然だ。それでも業界の自動運転への歩みはもはや止まらない。

上で述べたように、特に画像解析の技術はまだ未熟であり、運転する人も慣れていない。道路のインフラや交通ルールなども、まだ自動運転にはまったく適応していない。

車だけで焦って「先陣争い」をするのでなく、Waymoやウーバーなどのデータ技術側からのアプローチも取り入れつつ、周辺の適応も含めて徐々に実現させていくように、業界全体で段階的に「より安全な交通システム」に向かう「システマチック」なアプローチはできないものか。まずはその第一歩として、今回の悲しい事故のデータをウーバーだけでなく他社も使えるようにして、今後同じ事故を起こさないために役立てるべきだろう。

東と西、伝統勢力と新興勢力、いずれが絶対正しいということはない。テクノロジーの進化は何らかの現状を攻撃するが、受けて立つ側も理由があっての現状なので反撃する。その間の軋轢は避けられないが、新しいテクノロジーをコミュニティぐるみで援護するシリコンバレーが存在することは、なんといってもアメリカの強みであろう。

(文・海部美知)


海部美知:ENOTECH Consulting CEO。経営コンサルタント。日米のIT(情報技術)・通信・新技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。

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