Sponsored

本はもっと自由に読んでいい —— 松岡正剛 「“つもり”の中に真実がある」の意味すること

リクルートマーケティングパートナーズが提供するオンライン学習サービス・スタディサプリが、“知の巨人”と呼ばれる松岡正剛氏が所長を務める編集工学研究所と組み、「スタディサプリLIBRARY」をリリースした。「スタディサプリLIBRARY」では、自分の学びたいことを見つけるための知の扉となる本や漫画をカテゴリー別に紹介。これまでオンライン学習を進めてきたスタディサプリが、なぜ今あえて本なのか。スタディサプリの生みの親であるリクルートマーケテイングパートナーズ社長の山口文洋氏が松岡氏と対談。前編のテーマ「間=AIDA」に続き、後編のテーマは「つもり」。デジタル時代に身につけたい「教養」とは何か。

大事なことは何かと何かの「あいだ」にある—— 知の巨人・松岡正剛が伝えるデジタル時代の教養

「つもり」があるから「本当」が生まれる‍

1枚目後編対談開始

編集工学研究所の松岡正剛さん(左)とリクルートマーケティングパートナーズ社長の山口文洋さん。松岡さんは、「編集工学」(編集の仕組みを明らかにし、社会に適用できる技術として構造化したもの)を確立。編集工学研究所では、社会のさまざまな事象にこれを応用し、課題解決に取り組んでいる。

—— これだけネットが発達すると、「情報量が多くて戸惑っている」という声をよく聞きます。こういう情報過多時代を私たちはどう生き抜いていけばいいのでしょうか。

松岡正剛さん(以下、松岡):何が真実で何が嘘なのか、あるいは何が重要で、何がそうでもないのか。確かに受け手側も情報の真贋を見分ける力をつけていかなければなりません。

一方で、こういう見方も必要でないでしょうか。この世の中は正しいことと正しくないことの2つでできており、そのどちらも必要なのだと。

2017年、『擬(もどき) 「世」あるいは別様の可能性』という本を出しました。中身を一言でいうと、「つもり(=もどき)」と「本当」は区別がつかない、ということです。例えば歴史です。歴史書は書いた人がいますから、書き手の主観や立場が必ず入っている。

書かれていることがつもりなのか本当なのか、あるいはどこが「つもり」でどこが本当なのか、正確にはわかりません。歴史に限らず、「つもり」の量と本当の量は非対称で、つもりのほうが圧倒的に多い。しかも面白いことに「つもり」があるからこそ、本当が生まれるんです。

山口文洋さん(以下、山口):どういうことでしょうか。

松岡:火星や木星は地球と同じ惑星で、同じく太陽を廻りながら、太陽系を形作っています。天文学が発達する以前は、万能の神がこの世を司り、その力は宇宙にまで及ぶとされていました。神が作ったものですから、そこに調和がないわけがない。そうした考え方から太陽系という発想が生まれ、その発想がまだ見ぬ惑星の存在を次々と明らかにしていったのです。

科学が進歩し、結局、神が宇宙を作ったという考え方は「つもり」に過ぎないことがわかりましたが、その「つもり」があったからこそ、太陽系という「本当」の存在が明らかになったのです。逆にいえば、この天文学に限らず、たくさんの「つもり」があったからこそ、我々が今、手にしている貴重な「本当」が手に入った。情報過多で選択できないというのはわかりますが、そこで留まっていてはいけない。情報の選択力を上げれば済む、という単純な問題ではないのです。

なぜ私たちはやったこともないカーリングの巧拙がわかるのか

2枚目松岡さん

松岡さんの話は、本を起点に、ちょうど取材時に満開を迎えていた桜から太陽系まで、縦横無尽に広がっていく。

山口:もっとたくさんの「本当」を手に入れるためには、もっとたくさんの「つもり」が必要だという考え方もできるわけですね。

松岡:その通りです。今日、最寄り駅からここまで来られたと思うのですが、「駅の近くの桜、咲いていましたね」と言うだけでその光景が目に浮かぶでしょう。実物の桜を目の当たりにすることなく、我々はその桜についてコミュニケーションをしているのです。これも「つもり」にほかなりません。知には「つもり」が持つイマジネーションが不可欠なんです。

例えばカーリングやフィギュアスケート。全くやったことがなくても、テレビに映る技が上手いのか下手なのかは一目瞭然です。なぜわかるのか。我々が目にする、「つもり」の量が増えているからです。テレビでもネットでも、それらの競技に関する情報が溢れており、日々目にしています。

「つもり」につきもののイマジネーションの中に、我々の知が動き出す条件、初期条件が詰まっているのです。その「つもり」を作り出す力を養うのはなかなか難しい。子供の頃は、今日学校に行ったらあの子と会えるはずだ、この服を着て行ったら褒められるだろう、といった「つもり」をたくさん持っていたでしょう。大人になるとそういうことも減ってしまいますね。

「あなたの部屋にないものは?」の問いからわかること

松岡:関連してもうひとつ。イマジネーションは、通常、「あるもの」に向かうものですが、「ないもの」に対して働かせることも重要です。

編集工学研究所が運営しているイシス編集学校では、受講生に「あなたの部屋にないものを挙げてください」というお題を出します。回答はいろいろですよ。ピアノとか、ゴジラとか、年寄りとか。自分にはこれがない、と気づいたもの。それが欲望の起動点なんです。そこをうまく掬い上げられれば、画期的な研究やマーケティングになりますが、まだやられていませんね。

アニメや漫画や絵本、音楽や映画はその「ないもの」に強い。ピーターパンが「二つ目の角を右に曲がって、朝までまっすぐ!」と叫ぶと、そこにはネバーランドがありました。この言葉は一見、意味不明なものですが、子どもたちの想像をかき立てられますよね。人々の形にならない欲望をうまく表現しているわけで、“サブ”カルチャーなどと馬鹿にはできません。

山口:サブカルチャーはそれこそ、「つもり」の宝庫ですね。「つもり」を多く発生させるには余白が必要だと思います。スタディサプリを使うと、知識型の学習の効率が高まり、時間に余裕が生まれます。そこで空いた時間をイマジネーションにつながる時間にしてほしい。

イマジネーションはすき間から生まれる

3枚目松岡さん

松岡さんは、この後茶碗(写真)を持ち、机の下へ。対談は贅沢な個人講義のように進んだ。

松岡:その通りです。イマジネーションはすき間から生まれます。例えば、ここに茶碗があります。私が手に持ってさっと机の下に隠し、「どんな色、特徴をしていますか。備前でしょうか、どこの焼き物でしたか」と言う。改めて机の下から出して見せると、バシッとその茶碗の特徴が頭の中に刻み込まれます。一旦、目の前からなくなる、つまりすき間が生まれることで、「どんな茶碗なんだろう?」という、漫画でいう吹き出しがその人の頭の中に現れる。吹き出しができてから実物を見せるから、印象が強くなる。値段はいくらだろう、もともとの持ち主はどんな人なのだろうか、とイマジネーションが湧きやすくなるのです。

山口:今回始めるスタディサプリLIBRARYは、それこそインデックスや、タイトルを見て「どんな本なんだろう?」と頭の中に吹き出しが生まれた本を、我流で読み進んでもらえればと思っています。

SSLindex

スタディサプリLIBRARYの「機械と人間のあいだ」で取り上げている本。

松岡:そうですね。せっかくだから、読書術を提示してもいいかもしれません。あくまで例ですが、「どんな本でも必ず36ページは読もう、そこまで読むと何かがわかる」といったインストラクション(案内)をやってもいい。

山口:私は松岡さんが提唱している、目次読みを実践しています。目次をノートにまず書き写し、頭にその本の構造を叩き込み、自分の仕事やビジネスにこの本の内容がどうリンクするか、させるかを意識しながら読み進めています。書店の店頭で眺めて面白そうだと思った本を買い、10冊くらいを同時並行で読んでいます。

目次を読めば、全体を把握することができる

4枚目山口さん

「詰め込み型の勉強ばかりだと、頭の中に”吹き出し”を作る時間がなくなる」と山口さん。今後は小学生や中学生など、もっと若い世代向けのサービスも作りたいと話す。

松岡:俳優のユースケ・サンタマリアさんが、テレビの撮影で編集工学研究所に来て、僕が目次読書を教えたことがあるんです。5分で1冊本を選び、3分で目次を読み、1分でその本の内容を口頭で説明してもらうというお題を出しました。確か彼が選んだのは『温泉と日本人』という本だったと思いますが、見事な説明でした。目次を3分間熟読するだけで、著者が言いたいことはわかるものです。何時間かけて熟読しても、精度はあまり変わりません。

なぜかと言えば、目次には情報がうまく濃縮されているからです。情報の命は濃縮です。

例えば昨日という1日、起きていた18時間を自分がどう過ごしたかを教えてください、と言ったとします。一番正確なのは18時間を頭から思い起こすことですが、そんな暇な人はいないでしょう。朝起きて何をやったか、最初の仕事は何だったかという問いを立てる。その瞬間、「濃縮」が始まるのです。そうやって初めて、昨日という1日を思い起こすことができる。

本の場合、その濃縮された情報が並んでいるのが目次です。目次を読めばたちどころに全体が把握できる。目次にはエディティング(編集)が利いているからです。目次読みのような、読書術が日本ではあまり広まっていないのは残念なことです。

本は途中でやめていい。ファッションのように「着脱自由」なもの

—— 本当にそうですね。読み始めたら途中で止めてはいけないと思い込んでいます。

松岡:そんなことはありません。途中で止めていいんですよ。あとはファッションと同じで着脱自由。カーディガンを着たい時とセーターを着たい時があると思うんです。その気分を大事にして、読みたい本を変えていい。洗いざらしのスニーカーのような本も、3つ揃えのスーツのような本もあります。スニーカーならスニーカーに合うような本を何冊か並行して読む。毎日コーディネートすればいいんです。

—— どんな本を読んだらいいのかわからない、あるいは本を読む習慣自体がないという人はどうしたらいいのでしょうか。

松岡:そういう人でも、さすがに絵本は読んだことがあるでしょう。そこに戻ればいいんです。ピーターパンが好きだったなら、なぜ好きだったのか考える。そこを入り口にしてもいいのです。

山口:自分の好きな本だけ読んでいてもいいですよね。

松岡:100%OKです。この本は自分に合わないと感じたら、空振り三振してもいい。この著者は合わない、と著者に空振りもいいでしょう。

山口:そういう本があると、つい自分は未熟で駄目だなあと思ってしまいがちですが、そうではないということですよね。「スタディサプリLIBRARY」では子どもから大人まで、日常の好奇心を起点として未来の「好き」につながる本に出会ってほしいですね 。

松岡:自分に合わない服を着たとき、自分は未熟だという気持ちになりますか。ならないでしょう。本選びは洋服選びのようにやっていいんです。でも読む時は音楽を聞く時のように、時間をかけてほしい。音楽を聞くのを途中で止めることはありますよね。本も同じです。そこを理解できると読書がぐっと楽しくなります。


松岡正剛(まつおか・せいごう):早稲田大学卒業後、雑誌『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、現在、編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面におよぶ思索を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。2000年から連載中の壮大なブックナビゲーション「松岡正剛の千夜千冊」は1660夜を超える。著書に『知の編集術』『知の編集工学』『情報の歴史』『日本流』『日本数寄』『フラジャイル』『遊学』『空海の夢』『花鳥風月の科学』『多読術』『17歳のための世界と日本の見方』『国家と「私」の行方』『謎床:思考が発酵する編集術』『擬 MODOKI:世あるいは別様の可能性』『日本問答』『読む力 現代の羅針盤となる150冊』など多数。

山口文洋(やまぐち・ふみひろ):慶應義塾大学卒業後、ベンチャー企業でのシステム開発を経て、2006年、リクルート入社。進学事業本部で事業戦略・統括などを担当。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、「受験サプリ」を立ち上げ。2012年に統括部長、2015年4月からリクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長。

(撮影・今村拓馬)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中